台所の下心「三井サンまだ?」
匂いにつられたのか、ブランケットを肩から羽織ったリョータがひょこりと顔を出す。
男2人立ってても狭くないキッチンは、同棲するための新居を探すときに、三井が「2人で共同作業したい、あわよくば宮城の手料理が食べたい…!」という下心の元、リョータにも内緒で不動産屋に頼み込んだ代物だ。残念ながら、リョータが包丁を握ることは3年経った今でも無い。
「んー、もうちょい。」
「ふーん」
興味なさげな声とともに、腹に腕が回され、肩にちょんと重みが乗る。どうやらここで夕飯の完成を待つらしい。今ではすっかり見慣れた光景であるが、初めてこの体制を取られた時は、正直呼吸が止まった。背中に感じる体温や首元に掛かる息遣いの生々しさに、恐ろしいほど心臓が跳ねて、嫌じゃないかと恐る恐る顔色を窺ったリョータに「三井サン顔赤!!!!」と爆笑されてしまったのもいい思い出だ。
長く待たせるのもなんだと思い手元に集中していると、背中にぐりぐりと額が擦り付けられる。
「ンだよ宮城」
「んー」
「すぐ出来るぞ」
「…ヒサシさん」
やけに甘えたな声で戯れるリョータに、手元が狂いそうになる。そんな可愛い声を出してどうしたいのか。これで手を止めてリョータを構おうとしようものなら、スルっと離れて行ってしまうくせに。この悪戯な男はいつもそうだ。
「なんだよ」
このくらいなら許されるだろうと肩にちょんと乗る頬にちゅと唇を触れされると、まつ毛をパシパシと瞬かせ、嬉しそうに目元を緩めた。
「ふは」
「満足したか?」
「まあね」
ふふんと鼻を鳴らし、上機嫌にキッチンから出ていく。全く本当に気まぐれな恋人である。
「宮城、明日何も予定入れてないよな?」
「んあ?なんで?」
「その気にさせた責任取ってもらうぞ」
「…っ、あー、…分かりましたよ。」
2人で揃って夕飯を食べた後、宣言通り責任を取らされたのは言うまでもない。