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    avinyn_m

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    ハクパン

    #ハクパン

    いい夫婦の日いい夫婦の日を楽しむために、パンダと夫婦になりたい。プロポーズの言葉を考えて欲しい。たったこれだけの日本語が、キリンとタブーの脳内では未知の言語に変換されたのか、そもそも動物の脳では人類が産み出した知的活動の産物を受け入れがたかったのか、ほとんど意味不明な音声となった。

    「いいふーふの日ってなんだぁ」
    「11月22日の語呂合わせっすよ。いい夫婦って読めるでしょう。俺とパンダさんが夫婦になったら、いい夫婦であること間違いなしなので、お祝いしなきゃ無粋ってもんじゃないっすか」
    「無粋云々の前に、お前ら夫婦どころか恋人ですらねーだろ」
    「だからプロポーズするんすよ。タブーさんはどんなプロポーズされたら嬉しいっすか?プリンっすか?」
    「プリン100個ならまぁ……」
    「バカ野郎!!!」

    キリンが机を叩いた。

    「タブーに結婚なんてまだ早い!だいたい物で釣られるな!お前を心底愛してくれる、若くて美人で優しくて家庭的で金銭感覚の荒くない、ペチャクチャうるさくない、頭のいい大卒で共働きしてくれる誠実な女と結婚しなさい!!」
    「そんな条件つけてたら売れ残るっすよ」
    「うちのタブーが売れ残るわけねぇだろ!引く手あまただわ!」

    タブーはドン引きしていた。

    「じゃ、キリンさんはどんなプロポーズなら受けるっすか?」
    「ボンキュッボンのムチムチギャルが腰振って迫ってくるとか、未亡人が『最近、夜が寂しくて……』とか秋波送ってきたら、借金してでもダイアモンドの指輪を買うぞ」
    「もうちょっと現実見ないと、魔法使い通り越して魔王になるっすよ」
    「いる!俺の理想は絶対、この世界のどこかにはいる!!」

    ハックは生意気な後輩らしく、「参考にならないっすねぇ」と肩をすくめた。陰キャのくせにアメリカンなジェスチャーをするところが、特に腹立たしい。

    「ギャパパ、パンダだろ?金でもやりゃいいじゃねぇか」
    「いや、あいつ強欲だからな。結婚するする言って、むしりとるだけむしって、ハックがスカンピンになったら捨てるぞ」
    「俺より解像度の高いパンダさん出さないで欲しいっす」

    パンダを溺愛しているハックですら、フォローしないのがパンダらしい。ぶっちゃけハックがプロポーズしようが玉砕しようが、泣きわめくハックを居酒屋に引っ張っていって残念会を開こうが、キリンは興味がないのだが、そうはいっても可愛い後輩なので、知恵を振り絞ってやる。原産地がAVなので、どうしてもエロ寄りになってしまうのがネックだ。ハックにそういう行為はまだ早い。こいつはヤルミナティーに属している限り、未来永劫、童貞でなければならない。

    「ギャパパ!プロポーズっつったら、花だろ!薔薇でも菊でも、手当たり次第に渡せばいいじゃねぇか!」
    「菊なんて渡したら怒られるっすよ。花かぁ……パンダさん、花、好きっすかね……」
    「好きなわけないだろ。まだ笹の方が喜ぶだろ」

    キリンの的確な意見に、ハックは落胆する。

    「いいこと思い付いたぞ。ペンギンを人質にとって、結婚しなきゃ殺すって脅せばいい」
    「キリンさん!さすが俺らのリーダーっす!」
    「さすが、じゃねぇだろ。いい夫婦どこ行ったんだよ」
    「だってそうでもしなきゃ、結婚してくれないじゃないっすか」

    自覚はあったらしい。自己分析◯である。しょんぼりするハックが、自業自得ではあるのだが、なんか可哀想になってきたので、キリンはもう少し真面目に考えた。

    「既成事実しかないか……いや、でも男同士で既成も何もねぇか」
    「ギャパパ!ハック、一回死んで、メスのパンダに生まれ変わった方がはぇーぞ」
    「なんてこと言うんすか!」
    「というかそもそも、あいつ未来では結婚して、子供も二匹いなかったか?」
    「いたっすよ。でも、しょせん未来は未来でさょう?俺とパンダさんは結婚するんで、申し訳ないけど、あの二人には消滅してもらうっす」

    極悪非道のパンダだが、さすがに我が子消滅の危機となると、黙ってはいられないんじゃないか。ますます希望が遠退いていく。

    「ギャパパ、いい夫婦って、そもそも何なんだ?何をしたらいい夫婦になるんだ?」
    「体の相性がいいって意味だろ」

    キリンはとりあえずハックがシバいておいた。

    「そりゃ、お互いを尊重して、思いやりがあって、こう、愛し合っているのが、いい夫婦ってもんっすよ」
    「お前とパンダに当てはまらないじゃねーか」
    「タブー!そんなハッキリ言うな!殺されるぞお前!」

    キリンは咄嗟にタブーの頭を伏せさせたが、銃声は無かった。代わりにポロポロと、涙がこぼれる音がした。恐る恐る頭を上げると、サイコパスカエルが泣いていた。

    「おお、俺だって、そんなこと分かってるっすよ……」
    「泣くなよ!20にもなって!」
    「キリンさんのばかぁ……!」
    「俺言ってねーし!タブーだし!いや、もう、ほんと、泣くなって。な、な、ほら、パンダにお前と結婚してくれって頼んでやるから。な?」

    キリンがおろおろし、タブーが背中を撫でる。その時、部室の扉がスパーンッと開いた。

    「やあハック君!僕だよパンダだよ!今日は11月22日、わんわん、にゃーにゃーの日だよ!つまり、動物を大切にする日ってことさ!思う存分、僕を可愛がって尽くして貢いでくれていいんだよ!尻の毛までむしりとって……なんで泣いてんの?」

    パンダだった。テンション高く登場したが、いきなり声のトーンが落ちる。キリンは何故か、背中に冷たいものを感じた。タブーが人知れず後退りする。

    「パンダ、違う、これは誤解で、」
    「キリンさんが、キリンさんがぁ……!ひ、ひどいこと言うんすよ……!」
    「おいハックふざけんなてめっ……」

    ジャイアントパンダの一撃に、キリンは抗議空しく地に倒れた。パンダは拳に息を吹きかけ、ニコニコ笑って、「さあもう大丈夫だよ。泣いてる暇があるなら、テイペンチャンネルにスパチャを投げな。きっと気分が良くなるから」とハックの肩を抱いた。そういやこいつもサイコパスだった。

    「ふふ、パンダさん。動物は動物でも、今日はペットを可愛がる日なんすよ」
    「あ、そうなの?じゃあ今日だけ君のペットになってあげるから、高級笹買ってきて。水は富士で取れた天然水じゃないと飲まないからね。あと広い家がほしいな。庭付きの」
    「任せてくださいっす!」

    タブーは「お前ら、ほんとにいい夫婦だな……」と言い残し、キリンを引きずって部室を出た。
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