Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    avinyn_m

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 9

    avinyn_m

    ☆quiet follow

    tipn×yrmn

    #テイペン
    taypen
    #ヤルミナ
    yermina.

    Who is the criminal両手首に光る銀の枷に、パンダは「はぁ?」とドスをきかせた。

    「ハック君?どんな冗談かな、これは」

    ハックは素知らぬ顔でどこかに電話をかけた。ぼそぼそと話し終えると、皮肉に唇を曲げてパンダを見据えた。

    「冗談じゃないっすよ。パンダさんが、ペンギンさんを殺したんすよね」
    「ちょっと、君ら、どんな教育してんの」
    「俺らの責任じゃねーよ」

    ハックがパンダ関係で奇行に走るのは今に始まったことではない。だが、こういう時にハックは冗談を言わない、また、当てずっぽうをしているわけでもないことを、ヤルミナティーは知っていた。タブーが無言の連携でパンダを組み伏せた。

    「いたっちょっと、やめてよ!どう考えても上司でしょ!僕ら平社員はこのクソ上司に騙されて、セキュリティがあると思ってたんだよ!侵入できるわけないじゃん!」
    「犯人は給湯室でペンギンさんを撃ったわけじゃないっすよ。給湯室の外から撃ったんす」
    「え?どうして?銃弾は、地面と平行になるように撃たれたってそこのブタ君が言ってましたよね?誤診だったんですか?」
    「ギャパパ!俺様が間違えるわけねーだろ!」

    タブーがシャチを怒鳴りつける。不意をついてパンダが暴れたので、今度はキリンと二人がかりで押さえつけた。諦めの悪いパンダも、さすがに抵抗をやめた。

    「出血の跡っすよ。見てください、窓の外から壁に、血が垂れてるでしょう?もしも給湯室の入り口からペンギンさんを撃ったのなら、こんな風には血はつかないっす。思い出してください、銃弾はペンギンさんの体内で止まって、背中側には貫通してなかったっすよね。ペンギンさんを前から撃って、窓の外に血が流れる撃ち方はただ一つ、窓の外から、ペンギンさんを正面で撃った場合だけっす」
    「なるほどな」
    「だから上司さん並びに重役の人たちは除外されるっす。だって、セキュリティは本当は発動してないんすから。普通に窓や裏口から入ればいい。それをしなかったということは、犯人はセキュリティが発動していると思い込み、中に入ることができなかった平社員に限られるんすよ。もしくは、某企画になんら関係のない一般人か」

    除外された上司は嬉しそうに腕組みした。「君は話がわかるなあ、卒業したらうちにきなさい」と勧誘してくる。断固として拒否する。

    「ギャパパ……でもそれじゃ、パンダに容疑者を絞れねーぞ」
    「そ、そうだよ!シャチ君かもしれないし、……そもそも、ハック君かもしれないじゃん!チャンネル登録者数でも人気投票でもペンギンに負けたから、嫉妬したんでしょ!君はサイコパスだもんね、目的のためならペンギンの一匹や二匹、余裕で殺せるもんねぇ!」
    「黙れよ」

    キリンがいつになく冷たい殺気を漂わせた。ハックがサイコパスなのは満場一致だが、後輩が愚弄されるのは看過できない。濡れ衣を着せられたシャチも、歯をむき出しにして威嚇する。

    「残念ながら、見込みは薄いっすね。仮にペンギンさんがたった一人で残業していたことを俺が知っていたとしましょう。それで、いつ来るかも分からないのに、真っ暗な中ずっと、給湯室の窓に銃口を向けて待機するんすか。もしかしたらどれだけ待っても来ないかもしれないのに。それに、シャチ君の証言を信じるなら、窓は閉まっていたんすよね。社内に入れない以上、ペンギンさんを撃つにはペンギンさん本人が窓を開けるしかないっす」
    「実に非効率的だな。わが社の営業方針のようだ」
    「堂々と言うなクソ上司」

    全員から顰蹙を買ったので、上司は少し大人しくなった。ハックは冷ややかにデスクを眺めた。ペンギンの残した仕事に誰も手を触れない。なんとも酷い会社である。

    「パンダさんが言う通り、ペンギンさんはタバコを吸わないっす。それに、給湯室にマイカップがないことからいって、給湯室の利用率も低かったみたいっすね。何より、デスクには大量のエナドリがストックされてるっす。半分はまだ未開封っすね。エナドリがあんなに残ってるのに、コーヒーなんか飲みにくるわけないっすよね。もしかしたら気分転換したかったのかもしれないっすけど、真面目なペンギンさんが、仕事が山積み残ってるのに、そんな悠長なことするっすかねぇ……?」
    「じゃあ、結局こいつはなんで、ここにいたんだよ?血だまりがある以上、撃たれた瞬間に倒れて、ここで死んだのは確実だろ?」
    「そこっすよ、キリンさん。何故ペンギンさんは給湯室にいたのか……ところで、この付近に背の高い建物はないっすよね。だから、他の建物から狙撃することはできなかったとなると、どうやったら地上から、入射角を直角に、射撃することができるでしょう。さあ、考えてくださいっす」
    「ギャパパ、そんなの簡単だぜ」

    タブーが指を鳴らす。

    「こっちの位置を変えられねぇなら、対象の位置と角度を変えちまえばいい。例えば、窓に石をぶつけるなりして注意を引き付ける。ペンギンが窓を開けて、身を乗り出したときに撃っちまえば、ペンギンの体にはほぼ垂直に弾が入るぜ。それなら、俺様が地上と平行に撃たれたって言ったのは間違いじゃねえってことだ」
    「その通りっすよタブーさん。ペンギンさんは撃たれた時、地面に真っ直ぐ立っていたわけじゃない。窓から身を乗り出して、ずっと窓の下を覗き込んだんすよ」
    「……別にパンダさんを庇うつもりはないですけど、それでも、犯人がパンダさんとは限らないですよね」

    シャチが不服そうに言った。上司まで「そうだそうだ」とパンダを援護する。いくらパンダに好感情を持っていないとはいえ、さすがに同僚や部下がしょっ引かれるのは、何かしら、思うところがあるのだろう。

    「ペンギンが来るのを待って石を投げればいいんだろう。そんなの誰だってできるぞ!」
    「いや、石を投げるのはあくまでタブーさんの例えっすよ。さっきも言ったように、ペンギンさんが偶然、給湯室に現れる確率は低かったんすから。俺がもしも犯人なら、天命を待つ前に人事を尽くすっすよ。例えば……ペンギンさんに電話して、給湯室の窓から下を見るよう促す、とか」

    シャチが尻尾で跳ね、ぎょっとしたようにペンギンのスマホを凝視した。上司は通話履歴の最期に名前があった人物を、苦々しく見つめた。

    「俺もおかしいとは思ったんだよな。なんで死体の傍にスマホが落ちてんのか。普通はスマホなんてポケットに入れるし。撃たれた衝撃で飛び出したのかと思ってたけど、そうか、撃たれた時にちょうど、使ってたのか」

    キリンが言い訳がましく言った。タブーが笑ってキリンの脇腹を小突いたが、パンダが大きなため息をついたので表情を引き締めた。

    「あ~あ。上司は馬鹿だしシャチ君は無能だし、ペンギンは動物だから事件にならないし、うまく行くと思ったんだけどなあ。ハック君ならバレるかもって思ったけど、僕のことだぁい好きな君なら、きっと見逃してくれると思ったのに」
    「パンダさん……確かにパンダさんのことは好きっすけど、だからって殺人、殺ペンギンは見逃せないっすよ。俺の先輩も一応、動物っすからね」

    ハックが静かにパンダに歩み寄る。タブーとキリンに、容疑者を解放するよう伝える。二人は不承不承ながら従ってくれた。後輩への厚い信頼に乾杯。

    「パンダさん、どうしてこんなことを?ペンギンさんはいつもパンダさんの仕事を肩代わりしてくれたし、いざという時は二人で力を合わせて乗り越えてきたじゃないっすか。お二人はテイコウペンギンがチャンネル開設した時から、100万人登録者達成するまで、ずっと俺たちプロットチャンネルを支えてきた英雄だったじゃないっすか」
    「そうだよ。でも、このチャンネルの主役はペンギンだ。タイトルもテイコウペンギンだし、僕はいつだってヒールで、時々映画版ジャイアンで、損な役回りじゃない?人気投票も、ペンギンが一位になったのは、僕と言うヒールがいたからだよ。僕と言う影のおかげで、ペンギンは光り輝くことができたんだよ。だからそろそろ、役割を交替したっていいでしょ?」
    「ギャパパ、テイコウペンギンの主人公になりたかったってことか?」
    「ブタ君なら、ちょっとわかってくれるよね?君らのチャンネル、いつもスポットライトが当たるのはキリンとハック君ばっかりじゃん。君だって、ヤルミナチャンネルが始まった時からずっといたのに、待遇の格差に不満を抱いたこと、あるでしょ」
    「ギャパパ……」

    タブーはしょんぼりと肩を落とした。キリンとハックをどう傷つけずに否定すればいいのか、悩んでいるようだった。シャチも気まずそうに視線を逸らす、唯一あっけらかんとしているのは上司くらいだった。彼はもとより、主役の器でないことを自覚している。

    「でもタイミングが悪かったな。ペンギンを排除しても、主役はハック君に持ってかれちゃった。君らがバイトに来てるって知ってたら、日をずらしたのに」
    「いいえ、パンダさん。パンダさんが今日を選んだのには、理由があるっすよね?」
    「理由?」
    「だって今日は……勤労感謝の日、つまりはペンギンさんの誕生日じゃないっすか」
    「そういえば!お前らが当たり前のごとく休日出勤してるから気付かなかったが、今日は祝日か!」

    キリンが恐怖に顔を引きつらせる。シャチが遠い目で「祝日ってなんですか?うちのカレンダーは月月火水木金金の、黒一色のカレンダーしかないですよ」と今日一番怖い話をした。

    「ギャパパ、だから大学も休みだったのか」
    「そうか、祝日だったのか。会社に来ても仕事せずに帰るだけだから、すっかり曜日感覚を失っていたな。なんだ、出勤する必要なかったのか」

    バカ二人はヘラヘラ笑っていた。ハックは頭痛を覚えた。バイトというのは口実で、ペンギンのバースデーパーティーでもあるんだろうと思っていたが、まさか本当に労働するだけだったとは。某企画にそんなホスピタリティでハートフルな精神を期待する方が無駄だった。

    「ふふふ、滑稽だったよ、最後のペンギンの顔。今日が自分の誕生日って、僕に聞いて思い出してさ……すごく期待して、僕を見下ろしてくれたよ。お望み通り、僕が誰よりも先に誕生日プレゼントをくれてやったのさ!鉛弾をね!!」

    パンダが高笑いする。が、すぐに手錠を鳴らして肩を落とした。

    「ひどいよ、ペンギンばっかり……祝日だからみんなにお祝いされて。僕なんて暦にない誕生日だから、誰にも祝ってもらえないのに」
    「それは某企画のカレンダーだから存在しないって意味か?」
    「違うよ!僕は3月33日生まれなんだよ」
    「4月2日?」
    「違う、3月。あくまで3月」
    「ギャパパ。じゃあ3月3日でいいじゃねーか」
    「いや、33日。絶対33日」

    そこはこだわりがあるようだ。ハックはため息をつき、パンダの肩に手を置いた。ナチュラルに毛並みを堪能する。

    「パンダさん、残念ながら、パンダさんは投獄されるっす。しっかり罪を償ってきてくださいっす」
    「そのつもりだよ」
    「出所したら、すぐにお祝いするっすね。罪を洗い落として、シャバに戻ったその日を、パンダさんの新しい誕生日にしましょう」
    「ハック君……待っててくれるのかい、殺人、殺ペンギンに手を染めた僕を……」
    「勿論っすよ。パンダさんは確かに、テイコウペンギンの主役ではないっす。でも、俺にとって、パンダさんはかけがえのない人っすよ。だから俺にとっての主役はパンダさん、あなたっす」
    「ハック君!」

    パンダの両目に涙が浮かんだ。ハックはパンダを抱きしめ、毛皮に頬を摺り寄せる。幸せそうに見えるのは、シャチの見間違いなのだろうか。

    「でも、何年で出てこられるか分かんないよ」
    「何年でも待つっすよ。それに、お仲間もたくさんいるから、きっと刑務所でも寂しくないっすよ」
    「え?仲間?」
    「シャチさんは死体損壊罪、上司さんは労働基準法違反、キリンさんは公然わいせつ罪、タブーさんは銃刀法違反で、もれなく全員ブタ箱行きっす。パンダさんを独りぼっちになんてさせないっすからね!」
    「ちょっと待て、おい」

    全員の耳に、パトカーのサイレンが遠く聞こえてくる。そういえばこいつ、さっきどこかに電話してたな。瞬間、上司とキリンが窓に殺到した。見事に詰まり、二人して手足をジタバタさせている。ゴキブリホイホイに引っかかったゴキブリの方が、まだ知能がありそうな動きである。

    「捕まってたまるかああああ!」
    「俺はこの世界ではまだ全裸になってないぞ!」
    「え、え、僕どうなっちゃうんですか?」
    「ギャパパ……!」

    窓にすっぽりハマったキリンと上司。死体損壊の意味が分からずにオロオロするシャチ。なんとなく、こうなることを予感していたタブー。愉快なメンツを見回して、ハックはにっこり笑った。

    「パンダさん、安心してくださいっす。あの愉快な人たちと、テイコウパンダ~刑務所編~を満喫してくださいっす!あ、刑期の違いなら大丈夫っすよ。この人たちの余罪は、俺がたっぷり押さえておくんで、俺の頭脳を駆使して、パンダさんとほぼ同じ年数、刑務所にいられるようにしておくっす」
    「君、本当にどういう教育受けてきたの……?」

    OH!!ジーラフ!!抵抗むなしく、動物+1は連行されていった。やはり、ペンギンでなければ“抵抗”はできないのかもしれない。名探偵ハックはそっと、空の星となったペンギンと、星のように離れ離れになってしまったパンダを想い、目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works