ワンライ『初日の出』『兎年』(2023/01/04) 大晦日。
ショーの最終確認が終わり、男女別れて更衣室へ入る。
事の発端は毎朝目にする情報番組の特集で、初日の出について扱っていたのをたまたま見た司の一言であった。
「今回の初日の出はどうやら、天候に恵まれとても綺麗に見えるのだそうだ」
「初日の出…行くのかい?」
「あぁいや…ただ、テレビでやっていただけだ。だからといって何かある訳では無い、ぞ…?」
途中まで話して、ハッとする。
何故今、大して関係も無いはずのことを類に話したのだろうか。
疑問に思いながらも、話の流れを作ってしまったのは自分なため何とか会話を繋げようと思考をめぐらせていた時だった。
「初日の出、かぁ…見たことないんだよね、僕」
「なに!?一度もか!?」
「うん、いつもその時間は寝ているからね。興味を持ったことも無かったし」
「そう、なのか…」
『元旦は広く晴天で、綺麗な初日の出を見ることが出来るでしょう』テレビから聞こえてきたアナウンサーの声が脳内で反響する。
着替えが終わり脳内で結論が出た瞬間、同じく着替えを終えていた類の両手を無意識に掴む。
「類、初日の出を見に行こう!!」
「…何処に?」
「……………」
「ノープラン、だねぇ」
名案と言わんばかりの思いつきに一瞬で現実を突きつけられ、跪き頭を垂れる。
そうだ、初日の出を見に行くということは…どこに行くかを決め、行き方を考え、親に許可を取り……やらなくてはならない事が沢山あるのだから、思いつきだけで行動するには無茶があった。
それでも何となく止めたくなくて、会話を続ける。
「初日の出と言えば…山か?」
「海もあるね。ただ、どちらも電車で簡単に行ける距離ではない…というより、電車が動き出してからでは遅いかな」
「なるほど…」
テレビでよく紹介されるのは、山など高いところからの映像のイメージがあったのだが。
確かに、交通機関の始発の時間と初日の出の時間を考えると無理だろう。
とはいえ、終電に間に合うとも思えない。
あとは、親に頼んで――
「セカイは、どうかな」
「…セカイ……見れるのか?」
「僕は知らないけれど、カイトさんに確認すれば分かるんじゃないかな」
「僕がどうかしたかい?」
「「!」」
思わぬ所からの思わぬ人物の声に体が跳ねてしまった。
一呼吸してスマホを取り出すと…そこにはまさに今、類が話題にあげようとした人物が居た。
「カイト!来ていたのか!」
「何となく呼ばれるような気がしてね、様子を見させてもらっていたんだ」
「なら、今僕達が話していたことも…?」
「うん、聞いていたよ」
カイトの理由は何とも不思議なものだったが…これもセカイだからこそ、ということなのだろうか。
それはつまり…セカイのバーチャルシンガーにも影響を与える程、オレは類と……
「初日の出、というものが見たいということは…日の出が毎日見れていればいい、ということかい?」
「そうなると思います。普段は、見えていますか?」
「うん、見れるよ。このセカイも、現実と同じ日の出と共に明るくなるのさ」
「と、いうことは…」
「見ることは出来る、と仮定しても良さそうだね」
カイトがこちらに来てくれたため、確認をしに行く必要が無くなった。
「カイト、ありがとう。助かった」
「お役に立てて光栄だよ。奥の花畑から見ることが出来るからね。それじゃあ」
「はい、ありがとうございました」
スマホから光が消える。
出番が終わるとすぐ戻って行ったのは…時間のことを気にしてくれたのだろうか。
「改めて…類、初日の出を見に行こう」
「うん。親に心配をかけずに見ることが出来るのなら…断る理由はないよ」
日の出前にセカイで集合する約束をし、更衣室を後にした。
―――
『……―――………―――………』
テレビからは神社に人が溢れている映像が届けられている。
もう間もなく、年が明けようとしているのだ。
今年も家族で同じテーブルに座り、皆で年越し蕎麦を食べることが出来た。
いつか、この瞬間を類と共に……って、何を考えているのだ!まだオレと類は付き合って一年も経っていないというのに…!
突然脳内に湧いて出た煩悩を払うように手元の蜜柑を三房ほどまとめて口に放り込むと、テレビから歓声が湧いた。
『十!九!八!――……』
年が明けるまで後…三、二、一……――
「『ハッピーニューイヤー!』」とテレビの中の声と咲希と共に、声を出す。
とても楽しそうな笑顔を浮かべた咲希と家でこの瞬間を共にできることに幸福を感じながら、残りの蜜柑を口に入れた。
―――
夜のセカイで合流した二人は、カイトに言われた花畑に向かった。
セカイの花は何故かいつも歌っている為賑やかなのだが、今はしんと静まり返っている。
コツ、コツと二人分の足音を響かせながら目的地にたどり着いたので、中央で腰を下ろす。
「ちゃんと、見れるかな」
「カイトもああ言っていた。大丈夫…だと、思うぞ」
未確定であれば、あそこまで断定はしないはずだ。
自分に言い聞かせるように思考する。
どこまで現実とリンクしているのか分からないが、現実の初日の出の時間までもう少し。
「類、急な用だったのに来てくれて…ありがとう」
「僕の方こそ、まさか大晦日に初日の出を見に行く予定が出来るとは思ってもいなかったよ。ありがとう」
「先程携帯では挨拶させてもらったが改めて…今年もよろしく頼む」
「フフッ、うん。今年もよろしくね、司くん」
挨拶しながら類の頭を撫でると、類は目を閉じこちらに寄りかかってくる。
肩から伝わる温もりを味わっていると、目に映る景色に変化が現れる。
「これは…」
「日が、昇ろうとしている…」
暗闇が広がっていたはずの景色に、灰みの赤紫色が広がり始める。
徐々に冴えた橙色が増えたかと思うと…その時が来た。
鮮やかな黄色の日がゆっくりと姿を現し、そして昇っていく。
見ようと思えばいつでも見れるはずの日の出だが、元旦に見ているだけでここまで心打たれるというのは…日本人の性なのだろうか。
「知ってるかい。兎年の『卯』という字は閉じていた門が開き『とび出る』という意味があるとされているんだ。それに習って『飛躍する年』と言われているんだよ」
「飛躍…」
「今年が司くんにとって、いい一年になりますように」
「何を言う。オレ達にとって、だ」
今はワンダーランズ×ショウタイムの事、自分の経験の事…考える事は山ほどある。
何が起こるか、何を起こせるか…全く想像することが出来ないが…ただ1つ、来年この日を迎える自分に恥じないような一年にしよう、と心に誓った。