「司くん」
新装置の試運転が一段落しのんびりとした時間をガレージで過ごしていると、ソファに座っていた類が手招きする。
意図は分からないが大人しく近付くと、突然腕を引かれそのまま類の胸元へと飛び込む形になってしまった。
腕を引かれる程度で体制を崩してしまうとは、我ながら油断しすぎである。
「類、大丈――」
「つかまえた」
「はぁ? む、もごっ」
予想外の言葉に思わず漏れた声を気にすること無く、背に回された腕に抱き締められる。力一杯の抱擁に息が苦しくなり慌てて上半身を救出させると、満面の笑みを浮かべた類の顔が目前に広がった。その近さについ顔を逸らしてしまったが、彼の気分は害さなかったようでくつくつと笑っている。
「突然どうしたんだ」
「フフッ……なんとなく、かな」
問いかけても気にすることなく、まるで子供がぬいぐるみを抱きしめているかのような全身全霊の抱擁が続く。肩口に顔を擦り付け浮かべる笑顔に愛おしさが生まれるが、それを行っているのは男子高校生である。流石に苦しくなってきたので抜け出そうと抗うが、上手く力が入らなかった。
そんな様子も面白いのか目を細めニヤニヤと笑う様子に悔しくなり、抵抗の動きを止める。彼の背に腕を回すと力一杯抱き締め、肩口に顔を埋めると思い切り鼻から息を吸い込んだ。
「……落ち着く」
「つ、かさく……」
「ハハッ……仕返しだ」
羞恥からの油断か抱擁が緩んだので上体を起こすと、体をずらし上から退く。今度は優しく抱き締めるとおずおずと抱擁が返されたので、少し赤みがかった頬に口付ける。
擽ったそうにしながら笑顔を浮かべる様子が愛おしくて、結局我慢できずに力いっぱいに抱きしめた。