フレーバー キスするの久し振りだ。
そう思いながら胸の上にいる尾形の襟足を撫でる。催促のサインだ。尾形が目を伏せて、それからゆっくりと顔を下ろしてきてくれる。ああ、そう、睫毛、長いんだよな。ほんの一、二秒、瞼を閉じる様を見届けながら顔を斜めに傾けて唇を合わせた。少し顔を上向きにして口を開いて迎え入れてくれる。舌と舌とがぶつかって這わせ合うと尾形が舌を引っ込めた。それを追う。すると今度は顎を引かれて重ねていた唇が離れていった。
お前、何を口にした?
顔をしかめて問われて首を傾げる。
舌がぴりぴりする。
何のことを云っているか解って顔が赤くなった。
杉元、辛い。
ごめん、マウスウォッシュ、使った。あ、や、デンタルリンスっていうやつ。
尾形が一瞬ぽかんとした顔になる。その後に俯いて失笑する。
だって、会えたの久し振りだったし、なのに酒も飲んだし、さっき〆に大蒜の効いたラーメンも食べちゃったから。今日行った店は会計の時にガムとか出してくれなかったから、ほら、いつも行く店のおばちゃんはいつも食後の板ガムくれるだろ。だからさっきゴム買う時に一緒にコンビニで買ってきて。ガムより良いのかなって思って。お前がシャワー浴びている間に歯磨きして。
俺もお前とおんなじもの食っただろ。
食ったけど、でも尾形が嫌がるかなと思って。
笑いを堪えながら尾形が俺を見つめてくる。すっと首を伸ばして唇をつけ、舌を入れて前歯を舐めると顔を離してまた、辛い、と云う。口角がふにふにと少し上がっていくのが見えた。
辛くてごめん。
もう一度謝ると上半身を起こしきって、くくく、と手の甲で口元を隠すようにして尾形が笑い出した。こいつがこんなふうに笑うところを見たのは初めてだ。笑うとあんなふうな目になるんだ。笑って震わせている身体の揺れが跨がられている腹に響いて伝わってくる。額を指で掻く。笑顔が見られたのは嬉しいが、格好悪いと感じて、今度は俺が両手で顔を隠した。
その、嫌だったら今日はもうキスなしでいいし。
いや、面白いからする。俺もそれしてこようかな。
尾形もすんの?
結構、辛かっただろ。
辛かった。アップルミントって書いてあったから、ましかと思ったんだけど。
その辛いのして直ぐに口でしてやろうか。
尾形が胸の上で髪を掻き上げる。
それ凄そう。
苦笑する。尾形が目を細めて、あーん、と口を開いてみせる。いつもは俺から頼まないとしてくれないのに珍しいと思った。
酔ってんのか?
お前にな。待ってろ、今、してきてやるから。
ふ、と微笑むとまた口を吸い、ふふ、と笑ってから尾形が身体から下りる。悪戯に人の陰茎を根元から亀頭に向かってひと撫ですると洗面所へ向かった。