傷跡と恋心「八百万が好きだ」
それは突然だった。
その言葉に呆然としていると、
「俺と付き合ってくれないか?」
更にそう告げられた。
色の違う轟の両目が真っ直ぐに自分を見つめる。
その瞳が好きだった。
ヒーローとしても、友人としても、一人の異性としても。
__でも、
「…時間を、頂けませんか?」
今の自分にはそう答えるのがやっとだった。
【傷跡と恋心】
「退院おめでとうございます」
セントラル病院の裏口で八百万を担当してくれた看護師の女性が見送りに来てくれた。
「ありがとうございます。野上さんの励ましが凄く支えになりました。」
八百万はその看護師_野上に笑顔で答えた。
「ふふ、嬉しい言葉です。
でも、もう病院のお世話にならないようにして下さいね?」
「ふふ、はい。」
2人は握手をして手を振りながら別れた。
八百万は約2か月前、敵との戦闘で負傷し8時間に及ぶ手術を行い術後の絶対安静を言い渡され先程漸く退院した。
世間的にこの情報は伏せられ、ヒーロー側にもある一部の人間のみしか知らされていない。
八百万の負傷が敵に知られた場合、病院を襲って八百万が攫われ個性を悪用されでもしたら大問題だからである。
それは八百万がヒーローになる前に八百万本人と家族・雄英教師陣・ヒーロー公安委員会で決定した決め事であった。
病院で見送りをしてくれた看護師の野上も表向きには病院のイチ看護師だが、裏は公安に所属する看護資格を持った職員だ。
こういったヒーロー関連の入院沙汰でサポートをするのがメインである。
「ふぅ…外はこんなに寒くなっていたなんて…」
八百万は病院から出て早速駅へ向かった。
久しぶりの外気と寒さはいくらヒーローと言えど2ヶ月入院していた身にはこたえる。
「防寒具を用意して下さった緑谷さんにお礼しないといけませんわね」
触り心地の良いマフラーを巻き直して再び駅へ進み出した。
退院時の着替え等を手配してくれていたのは雄英時代の友人であり、現・雄英教師兼プロヒーローの緑谷だった。
なぜ緑谷が八百万の入院を知っているのかと言うと、2ヶ月前の敵交戦時に負傷した八百万を発見してくれたヒーロー二名のうちの一人が緑谷だったからである。
緑谷達の迅速な対応により命を救われたと言っても過言ではない。
八百万が入院中に何度かお見舞いにも来てくれて、仕事や身の回り等の色々なことをサポートしてくれたのだ。
そんな彼女に退院する事と日時を報告すれば「着替えとか必要なものを準備するから何でも言ってね!」と心強い言葉を貰い、甘えさせて貰ったのだ。
緑谷とは二週間後に食事に誘われている。
とても楽しみで思わず頬が緩んでしまう。
さて、また頑張らなくては。
(続く)