12/1:お鍋「ランスロット、出来たぞ」
「あ、ありがとうございます!」
深さのある木の皿の上にごろりと盛られた鶏肉が、とろみのあるミルクスープに包まれる。
芳しい真っ白な湯気と共に渡された皿を受け取ると、皿越しに伝わる熱が、装備を外したランスロットの掌を優しく癒した。
「冷めない内に頂くとしよう」
「はい、いただきます……!」
木匙で掬ったそれを口に運ぶと、料理が作られている時に漂ってきたものよりも遥かに濃い香りが口内に広がった。熱が喉の奥に運ばれる頃、ランスロットは満面に喜色を湛えてジークフリートの方を向く。
「美味しいです!ジークフリートさん!」
「ああ、なかなか旨く出来たな」
日が沈むころに魔物の討伐依頼を無事に終えた二人は帰り道の森で野営をしていた。道すがら出会った行商人からいくつか必要なものを買ったとはいえ、今の季節も相俟って食材などの調達に困ることはなかった。
「ポルチニド茸だけでなく、ポロポロ鳥も捕獲出来るとは僥倖だった」
「ええ、野営の食事とは思えないですね。この豪華さは」
そうだな、とジークフリートが改めて鍋に目線を落とす。溢れんばかりの具材がくつくつとと揺れる姿は、スープというよりも贅沢な別の料理のように見えた。
「2人で食べるには、少し作り過ぎてしまったか……」
「大丈夫ですよジークフリートさん!俺、まだまだ入りますから!」
いつの間にか食べ終えていたランスロットが、空になった皿を再び具材とスープで満たしていたので、ジークフリートの頬は自然と緩んだ。
「ふっ……良い食べっぷりだな」
その一言と向けられた表情に気恥ずかしさを覚えたのか、ランスロットは困ったように力なく笑った。
「すみません、少し気が抜けていたみたいで……」
「謝ることはない。依頼も無事終えたことだ、今日くらいは肩の力を抜いてもいいんじゃないか?」
騎士団長という立場がどれほど気を張るものかを、そして、休み方を忘れてしまうことをジークフリートはよく知っていた。
「そういえば、グロース島で流行っている”きゃんぷ“というものが、最近この島でも出来るようになったらしい」
「あ、俺も聞いたことがあります」
「非番を利用して、気晴らしに行ってみたらどうだ?」
ジークフリートの提案に対し、ランスロットは少し考えた後、あの、と意を決して返答する。
「……2人で、行きませんか?」
俺と?と些か呆気に取られている金色の瞳を見つめるランスロットの表情はいつになく真剣で、ジークフリートは観念したように微笑んだ。
「俺なんかで良ければ、いつでも付き合おう」
嬉々として予定を考えるランスロットの話を、ジークフリートは心なしか楽しそうに聞いている。
今食べている料理に申し訳ないと思いつつも、2人は既に星の下で食べる次の食事が待ち遠しかった。