12/3:ケーキ どうぞ、と食べやすく切られたそれが刺さったフォークを差し出される。この時点で既にランスロットの様子がおかしいことはわかったが、甘い香りのする切れ端を口に含んだ瞬間、合点がいった。
「酔ったのか?」
ひと口食べただけでわかる程、上質な蒸留酒がふんだんに使われたケーキはランスロットの皿の上で半分以下の大きさになっている。
「俺、お酒飲んでないれす」
いつも通りの愛嬌のある顔から出る言葉は所々呂律が回っていなかったが、彼は全く気付いていないらしい。本人はきっと酔っている自覚はないのだろう。
「ジークフリートさん」
それでも、自分の名前を呼ぶ時の声は随分はっきりとしていて、今はそれが少しだけ面映い。
「もうひと口、いかがですか?」
あと2回、これを含めたらあと3回程で、これ以上そのケーキをランスロットが食べずに済むのならやぶさかではない。
「ああ、頂こう」
申し出を受けると、ランスロットは花が咲いたように喜び、食べやすい大きさになったケーキを再び俺の口へと運んだ。
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その後、すっかり酔いが冷めたランスロットは俺に何度も謝罪をし、もう二度と酒の入ったものは食べないようにすると言ってきた。理性が多少薄れていたとはいえ、あのケーキを美味しそうに食べていた彼の笑顔を思い出すとそれは少しやり過ぎだと思った為、俺は気にする必要がない旨を伝える。
「もし失態が不安なら、俺といる時に食べれば良い」
そうすれば、何かあってもすぐに対処出来るからな、と提案すると、ランスロットは何とも言えない顔で呆然と立ち尽くしていた。