これは消える箇所あるところに、誰かだけのお姫様にならなかったお姫様がいました。
花が落ちた街路樹の向こうを、車が通り過ぎていく。昨日眠たい中スチームアイロンを当てたはずの戦闘服【スーツ】の座り皺を、朝一セットしたはずの髪の毛のアホ毛を、ちょこっとボーナスで奮発して買ったビジネスバッグを、照らしながら。
(ずっと私はお姫様になりたかったのに)
背筋を伸ばさず歩く様は、お姫様よりも、彼女を彩る魔法使いだ。
帰り道は、一日の中で一番人生を想う。
仕事で疲れた頭あの先を往く高齢の品のいい女性のように自分はなれるのだろうか(なりたいのか)だとか、しょぼしょぼと歩みを進める新社会人はまるで昔の自分のようだとか、綺麗に髪を巻いて歩道につけた車にのっていった彼女は選択の違う自分だったかもしれない、だとか。
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