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    11月原稿

    朝活 10/22なんの準備もできないまま、運命の朝を迎える。
    人生とは、そういうものだ。


    海が、布のなかの襞のようにかすかに皺立つほか、海と分けるものはない。
    しかし、波の音が近くなる。彼が、あの空が、あの日の俺が、遠く、なっていく。

    真っ暗なそれは明るく照らされ、都会の真ん中の屋上からは遠く離れて、星が見えていた空はそれほど高くない天井に変わっていた。ああ、あれはやはり夢だったのかと安堵する。しかし、
    「……」
    隣を見ると、まるで彼女だけが健やかな寝息を立てていた。
    同じベッドで。夜の名残を残して。
    そして俺が目を覚ましたせいか、熱っぽい吐息がだんだん速くなりよわよわしいうめき声が聞こえた。そんな彼女にあろうことにか俺は顔を彼女の顔に押し付け、眠っている彼女に安心させるように言葉をかけた。「俺ももう少し寝る」だとか(とても眠れそうにはないが)、「今日は仕事じゃないよ」だとか。しばらくすると。彼女の呼吸がずっと穏やかになり、しかしそうしているうちに俺は(起こしてしまうかもしれないのに!)唇を合わせたい欲求にかられた。自分の感情が矛盾ばかりで混乱する。
    そして、こわごわと自らの髪に手を伸ばす。それは祈っていたほどは長くなく、そして切りたての頃のように短くはなかった。
    そうだ、この人生は、"俺自身のもの"だった。
    そして、そんな俺自身がこんな人生が重たそうな女を、もうとても他人などと、部下などと、マトリの女の子のマトリちゃんなどと、思えそうになかった。俺にとって、ただ一人の愛しい人間だった。
    きっとこの先この子がせっせと働く彼女のことをからかうことも、他の部下と同様に公平に扱うことも、彼女の周りに男がいても平気な顔をすることも、難しいだろう。
    あり得ない想像をしてみる。彼女はずっと俺のそばにいて、今、まさに、死んでしまいそうなのだと。そう思うと、俺は、もうその後の人生を生きていけそうにない心地になった。いや生きていけるだろうが、きっと生涯下ろせない重たい後悔を抱えて生きていくだろう。
    この感情に名前をつけることはきっと簡単で、これまでもきっと何度もできた。だけど、ノイズと切り捨てた。何故なら、彼女に抱く感情はひどい困難を抱えるものだから。
    (だけど、一つのきっかけさえあれば、こうだ)
    我ながら単純さに笑ってしまう。まるで喜劇のようだ。
    ”他”の服部耀と同じように。
    服部耀は絶望的な気持ちになる。
    (ああ、やっぱり、同じ結論に至ってしまった)

    神は死んだ!
    永劫回帰。かの有名な哲学者、フリードリヒ・ニーチェが『ツァラトゥストラ』で提示した絶対的価値観が崩壊してしまった最悪の世界の概念だ。この世は同じことの繰り返しで、自分自身の人生を何度もなんども際限なく繰り返しているのだとしたら、その人生は唯一性が消え失せ未来にも過去にも現在の価値が消え去る。しかし、ニーチェ本人が「聖なる虚言」と語ったようにそのような状況は起こり得ない。何故なら時間は過去から未来に流れ、過去には戻ることができないからだ。だが、たとえば。そんな繰り返し――永劫回帰――が存在するのであれば、
    その人生には意味はあるのだろうか。
    唯一性がない人生の、その一瞬一瞬の選択や痛みは取るに足りないほどに軽いのだろうか。

    (どうするべきか)
    そんな、馬鹿げたことを考えながら彼はひとまわり年下の彼女を見つめる。
    波の音がする。まだ彼女は目を覚まさない。

    目を、覚まさないで。
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