とある学校の七不思議ここの学校には怪談話がある。いわゆる七不思議というやつだが、その7つ全てに出会うと、とても良い事と、とても悪いことが同時に起きてしまう、という物だった。この怪談話で盛り上がった炭治郎と友人達は、その夜、学校に忍び込んで、その7つを探る事にした。
炭治郎自体は怪談話なんて信じてなかったし、夜の学校に忍び込むのも嫌だったが、周りの友人達に流され、渋々一緒に行く事にしたのだった。
夜の二十三時、校庭に7人集まって、まず一つ目の七不思議のある音楽室に行ってみることにした。夜な夜な勝手にピアノがなるという噂だ。
事前に音楽室の窓の鍵を開けていたので、7人はそこから恐る恐る入ってみたが、特に変わった様子はない。何だ〜期待はずれか、と皆が口々に言っているのを横目に、炭治郎は置いてあるグランドピアノに近づいた。すると、ピアノの中に挟まったメモ紙を見つけてしまった。
炭治郎がピアノに挟まっている紙を手に取って開くと、(この紙を見つけたんだね、おめでとう、次は2階の男子トイレ)と書かれていた。
友人達に見せると、わ!ヤバい!何これ!怖い!と盛り上がってしまった。炭治郎はこのメモ紙は誰かイタズラで置いたのだろうと思いあまり興味が沸かなかったが、友人達が嬉しそうに次に行こうとしているので仕方なく着いていった。
メモ紙の指示のまま、7人は男子トイレに向かう。ここにも七不思議の一つ、一番奥の個室トイレから誰もいないのに泣き声が聞こえる、という噂があるのだが、結局何も起こらない。しかし、炭治郎が一番奥のトイレを見に行くと、またしてもトイレの扉の上に置かれたメモ紙を見つけてしまう。
メモ紙には、(また見つけたんだね、次は体育館裏だよ)と書かれていた。
またも見つかったメモ紙に、盛り上がる友人達。メモ紙を見つけた炭治郎も少しだけ面白くなってきて、当初の憂鬱な気分より、このメモ紙のお陰で少しだけ楽しく回れそうだった。メモ紙の続きがどんなものか、気になったのだ。
ゾロゾロと7人で体育館裏に行くと、当然何も起こらないが、またも炭治郎が体育館裏にある窓のサッシにメモ紙を見つけた。
また次のメモ紙が見つかったことで皆怖いの半分、大喜びだ。見つかったメモ紙自体はまだそんなに古くはないし、何かに驚かされたという訳でもない。皆このメモ紙は誰かがイタズラで作ってくれたものだろうと思い込んでいた。学校の七不思議に沿っているし、割と手が込んでいるので、夜に忍び込んで遊ぶのには丁度よかった。
歩きながら、次は何があるだろねーとか言いながら楽しく進んでいく。次の場所は校舎東側の3階に上がる階段だった。
流石に誰もが、こんなところに紙はないだろうと思っていたら、階段にある上の方の窓の隅にメモ紙が挟まっているのを炭治郎が発見した。
(君は本当によく見つけるね、次は2-1の教室だ)
その紙を見て、またも盛り上がる友人達。炭治郎も友人達が盛り上がってるし、何だか楽しくなって次に行こう!と積極的になっていた。
こうして炭治郎達7人は、メモ紙通りに次々七不思議スポットを進んで行った。
友人達はメモ紙が見つかって喜んでいるが、炭治郎がそのメモ紙を必ず見つけているのには誰も何も疑問に思わない。
そして、炭治郎はついに最後のメモ紙を見つけてしまった。
(おめでとう、これが最後だよ。屋上で楽しんできてね)というメモ紙と、鍵が一緒に置いてあった。
屋上は普段は鍵がかかっていて、立ち入り禁止だ。おそらくこの鍵は屋上の鍵だろう。友人達に見せると、わぁー!すごい!屋上に何があるんだろう?と皆口々に言った。七不思議の心霊現象を確かめにきたはずが、いつの間にかお宝探しの気分にでもなっているようだ。
屋上に着いて、炭治郎が見つけた鍵を差し込んで回すと、ガチャっと鳴った。
「あ、開いた」
皆屋上に入るのは初めてで、炭治郎を先頭にビクビクしつつも足を踏み入れていく。
結論から言うと、屋上には何もなかった。ただ、友人の一人が空を指差して「星が綺麗!」と言った。
この日は快晴で、深夜のこの時間は星がとても綺麗だった。
なるほど、屋上で楽しむとはもしかするとこの星空を皆で楽しんでね、と言うことかと仲間内で納得した。
一通り屋上で星空を楽しんで、皆で幽霊は出なかったけど、楽しかったねー、と言い解散になった。炭治郎も、それじゃここら辺で、と言って校庭で皆と別れた。
さて、友人の一人が家に帰り、まだ起きていた自分の兄にこの話をした。すると、兄は怖い顔をしながらこんな事を言い始めた。
「お前、その怪談話の話の続き、知らないのか?」
七不思議の全てに出会うと、いい事と悪いことが同時に起きるという話だけを炭治郎達は聞いていた。
しかし、その兄が言うには、7つ全てに出会うと8つ目の不思議に出会うらしい。兄の時代の頃は、その8つ目が本当にヤバいとの噂だったそうだ。
「誰かお前らの中で、そのメモ紙を全て見つけた奴がいるんじゃないか?そいつ、ヤバいぜ」
その同級生は怖くなって、すぐに炭治郎に電話をした。しかし、炭治郎が電話に出ることはなかった。
友人達と校庭で別れた炭治郎は、一人で帰ろうとしていた。校門から出ようとしたその時、誰かが後ろから呼んでいるような気がして振り向いた。誰も見えないが、炭治郎を呼んでいる声が微かだが、確かに聞こえる。
「下駄箱の方か?」
炭治郎は一人で下駄箱に向かった。
下駄箱の辺りまできたら、先ほどまで聞こえていた声が止まってしまった。不思議に思いながら下駄箱の先の廊下まで足を踏み入れたその時、視界がぐらりと歪み、思わず目を閉じた。
しばらくして恐る恐る目を開けると、そこは一面どこまでも続く真っ白な空間だった。
いや、よく見ると、その白い空間に一つの異物があった。
炭治郎は驚いたが、悲鳴を上げないよう自分の口を押さえた。うっかり悲鳴を上げて、それに自分の存在を知られたくなかった。
炭治郎の目の先には、座り込んでいるように見える男の死体があった。学生服に似た服を着ていて、白い羽織を羽織っているのだが、お腹には穴が空いていて血だらけだし、男が座っている下は血の海だし、顔も血が付いている。
周りを見渡しても真っ白い空間に、その死体しかない。この空間から出るには、どうやらその死体を確認しなければならないようだ。
炭治郎が恐る恐る近づくと、死体だと思っていたものが急に動き始めて、炭治郎は腰が抜けて立てなくなってしまった。
動きだした死体から逃げなければと思っていたら「炭治郎?そこにいるのは炭治郎なのか?」と問いかけられた。
炭治郎はこの人に全く見覚えはなかった。怖くてその場で息を押し殺していると「炭治郎?どこにいるんだ?よく見えないんだ。炭治郎、いるならどうか側にきてくれ、炭治郎」と、しばらくその死体はずっと炭治郎の名前を呼び続けた。
自分を呼んでくれている。炭治郎は何故かこの時そう思い、怖いながらも見ず知らずの彼に近寄ってみた。
「そこにいるのは炭治郎なのか?」
「はい、炭治郎です」
「ありがとう、最後に会いに来てくれたんだな、もう目も見えないんだ、手を握ってくれないか?」
炭治郎は戸惑ったが、そっと彼の手を握った。彼は満足そうに笑った。
その顔を見た瞬間、炭治郎の頭の中に、全く知らない光景が次々に浮かび上がってきた。
真っ白だった空間が、急に朝日が登った時の空の色になり、炭治郎は目の前の彼の名前を思い出した。
「煉獄さん...!なんで、どうして...!」
今までこんな大事なことを何故忘れていたのか、炭治郎はパニックになり、泣きながら目の前にいる煉獄に抱きついた。
「ありがとう、もう消えるところだったんだ。最後に君に会えてよかった」
「えっ、嫌です!せっかく会えたのに!もう別れちゃうんですか!?」
「うん、もう時間がない。これを君に渡したかったんだ。大丈夫、また会えるさ」
慌てるように煉獄は、炭治郎の手に何かをねじ込んだ。炭治郎がそれを受け取った瞬間、足元の空間が音を立てて崩れて始めた。バランスを崩して、煉獄と繋いでいた手が離れてしまう。
「嫌だ!煉獄さん!離れないで!」
「...、次にもし君に会えたら、伝えたい事があるんだ。だから、待っててくれないか?」
炭治郎は闇に飲み込まれそうになりながらも、煉獄に向かって叫んだ。
「...、ずっと待ってます!絶対伝えてくださいね!約束ですよ!」
炭治郎は気がつくと、廊下で倒れてしまっていた。あれは夢だったのだろうか?とも思ったが、手の中には煉獄の瞳に似た、炎のように輝く綺麗な石の入ったペンダントを握っていた。
夢じゃない、現実だったんだ。炭治郎はペンダントを握り締めて、声をあげて泣いてしまった。
結果、大声で泣いたのが原因で、このあと守衛の人に見つかり、こっぴどく怒られてしまった。一人で怒られるのは不服だったが、停学にもならず怒られる程度で済んだのでよかったと胸を撫で下ろした。
ただ、この日はまったく眠ることができなかった。急に前世を思い出してしまったし、何より、煉獄にもう一度会いたくて、彼の目の色に似たペンダントを見る度に泣いてしまっていたからだ。
次の日、目元を腫らした状態で登校したら友人達から心配されたが、大丈夫だと笑って誤魔化した。連絡が取れなかった友人からは泣きつかれてしまった。
七不思議の八つ目は、良い事と悪い事が同時に起きる噂は本当だった。煉獄に会えたのに、すぐに別れるなんて...、そんな事を思っていたら、さらに悪い事は続いた。
炭治郎の両親が経営するパン屋が、市の区画整理で立ち退きをさせられる事になってしまい、炭治郎も転校を余儀なくされてしまった。幸い、市からかなりの助成金が貰えた為、好立地に新しい店を出す事が出来てお金には困らなかったが、高校の皆とはお別れする事になってしまった。
寂しいとは感じつつも、炭治郎は新しい高校に通う事になった。
登校初日、炭治郎は煉獄から渡されたペンダントをつけて家を出た。これをつけていれば、また煉獄に出会えるような気がしていた。
自転車で15分程のところに新しい高校はある。高校の近くまできたが、周りにはまだ同じ学生服を着た子は歩いていなくて、流石に早く出過ぎたかと思い、途中から自転車を降りて歩いて校門まで向かった。
こんな時間に誰もいないだろうと思っていたら、誰かが校門の前に立っている。ワイシャツにネクタイ、スラックス姿で学生ではなく先生のようだが、炭治郎はその癖っ毛のある金の髪を忘れたことはなかった。思わず自転車を投げ捨てて、彼に向かって走っていく。
「煉獄さん!!」
「っ!炭治郎?炭治郎なのか?」
煉獄の胸に飛び込んだ炭治郎は、また声をあげて泣いてしまった。煉獄も少し声が震えているようだった。
「煉獄さん!ずっと会いたかった!」
「俺もずっと会いたかった。君に会って、どうしても伝えたい事があったんだ。聞いてもらえるだろうか?」
炭治郎はうん、うん、と泣きながら答えた。
とある学校には、本物と噂される七不思議がある。7つ全てに出会うと、前世好きだった人と今世で結ばれるそうだ。