2人で三郎との結婚式当日、あたしは控え室でメイドたちにメイクをされていた。
あの時ミサトと別れて数日もう会っていない。
いや、もう会えない。
それに1番傷ついているのはミサトだ。
好きだと思っていた人にまさか婚約者がいたなんて誰でも驚くし諦めるだろう。それにあたしはミサトを騙していたと同じことをしでかしたんだ。招待状も何も送れない。
こんなあたしを見てしまったらミサトはきっと……
「はぁ……」
あたしは座鏡に写っているウェディングドレス姿のあたしを見ながらため息をつく。披露宴はあと三十分で始まる。このまま結婚式なんか始まらずに時が止まればいいのに。
でも、時間は待ってもくれない。あたしは今日から足柄家の家族になる。本当ならあたしはミサトと結婚したかったのに……
「お嬢様、そろそろ」
「今行く」
しばらく一人で窓を見ているとメイドの1人が時間を告げてきてあたしは立ち上がって部屋を出る。やけに長い廊下を進むと案内役の人とパパがいてあたしはパパに支えられながら式場の中へと入っていく。
重そうな扉を開けた先にはよくわからないお客さんと白いタキシードに身を包んだあたしの婚約者。あたしはベールに隠された顔を見られないように下を見ながら三郎の元へ行く。
お客は多分パパの知り合いばっかりで物珍しそうな目つきであたしを見ている。あたしは見世物じゃないっての。時々聞こえてくる噂話がイライラを増やしてきてあたしはこの場で怒りたくなるのを抑えながら歩を進める。
顔をちらっと上げて三郎の方を見てみると、
あんな満足そうな笑みを見せてきてあたしの気持ちなんかわかってない。
階段を上り三郎と同じ場所にたつと神父が新郎新婦の誓いを言う。早く終わって欲しい。
あぁ、イライラする。
そしてあたし達が誓いの言葉を言う場面になった時最初に神父は三郎にあたしを守るのかと聞いた。
三郎は迷いなく「誓います」と答え今度はあたしの番になった。
「アスカさん貴方は病める時も健やかなる時もこの三郎さんを愛することを誓いますか?」
「……誓います」
こんな言葉言いたくないしクソ喰らえだ。誓うわけないでしょ。あたしが好きなのはミサトただ一人。あんたなんか眼中に無い、
三郎にそんな嫌悪感を抱きながらも式は進み、指輪をはめ誓いのキスにうつる。
ギラギラあたしを睨むようにはめ込まれたダイヤの指輪。あのミサトがくれた赤い花の指輪なんかに勝らないなんの価値も無い指輪。
あの花は枯れたけど初めてミサトとあたしが心を通わせられたきっかけになった花だった。
三郎と向き合う中ミサトと過ごした思い出が微かに蘇る。
ベールがめくられ三郎の幸せそうな笑みが見え段々とこちらに近づいてくる。
あぁ、本当なら初めてのキスはミサトとしたかった。
ごめんねミサト……
涙を一筋流しながらキスをしかけたその時突然ドアが乱暴に開けられいかにも暴動らしき男がナイフと銃みたいなのを持ってこちらにやってくる。
すぐにボディガードが抑えにかかるが力が強く抑えられないみたいだ。突然の事に会場は混乱して三郎は押さえつけにあたしから離れあたしは神父とともにぼーっとそれを見ていた。
暴漢はなんとしてでも結婚式を止めたいのか必死に顔をしている。そして手に持っていた銃を天井に放ちさらに会場は混乱に陥ってしまう。
恐怖で後ろに後ずさった時神父があたしの肩を掴み自分の方に引き寄せた。
そして耳元であたしにこう囁いた。
「大丈夫。貴方のことは必ず守るから」
「!!」
聞いた事ある優しい声。あたしは顔を上げて神父の顔を見た瞬間、神父が服を掴み正体を露わにした。
「!なんだ貴様!」
神父の異変に気づいた一人がこちらに顔を向けて声を上げる。
そう、そこにいたのは神父ではなかった。
「こんにちは、紳士淑女の皆様。」
神父の正体はなんとミサトだったのだ。
あたしはあまりのことにミサトと名前を呼ぶ。なんで、ここに。招待状も何も送ってすらいないのに……
「ミサト……」
「ごめんなさいね。遅くなって」
「ううん……あたしこそ……ごめんね……」
「いいのよ謝らないで。」
あたしはブーケを捨てミサトに抱きつくとミサトは片手であたしの背中をさすり大丈夫と言い聞かせる。
すると異変に気づいた三郎とパパがあたしから離れろとミサトに言うが、ミサトはイヤよ返答する。
「なんなんだ!アスカの知り合いか!?それとも泥棒か何かか!?」
「アスカさんを離せ!この卑怯者!」
ミサトは2人の言い分に気にすることなくあたしを片手で抱き上げると高らかに会場にいる人たちに向けてこう言い放った。
「言っておくけどアスカの婚約者はそこにいるへっぴり腰君じゃない。アスカの真の婚約者はこの私よ」
「っ……!」
その言葉はあたしにとってずっと聞きたくて言いたかった言葉だった。この言葉だけでんかる。ミサトはあたしの事をずっと好きでいてくれたんだな。
「は、はぁ!?何言ってるんだ!彼女の婚約者はこの僕だ!」
「あら?ならどうして婚約者がそんなところにいるの?本当にこの子が好きならそばにいて守ってあげるわよね?」
「っ……」
正論とも言える言葉に三郎は何も言えなくなりミサトは追い討ちをかけるように三郎に言う。
「貴方は外見だけでこの子を選んだんでしょう。内面も何も見ていないからそんなヘマをするのよ。婚約者一人を守れない時点で貴方にアスカの婚約者を名乗る資格はないわ」
ミサトは冷たい口調と視線でその場を圧倒しあたしが付けていた指輪を取り外しその場に投げ捨てる。
パリンと軽く割れる音が響きミサトはそれすらも見下すような冷たい目を会場に向けていた。
誰も動けない中ミサトはあたしに小さく「行きましょう」と呟くとあたしをお姫様抱っこしたまま高く飛ぶ。
「っ!」
たった1回のジャンプでミサトは人垣を乗り越えそのまま出口へと走る。そしてそのまま窓を割って外へと降りるとミサトが用意してくれていた馬車があった。
「ま、待て!アスカ!」
式場からパパの声が聞こえるがもう気にしない。もうミサトがいるから。
中に入ったのを確認すると馬車はあたし達を乗せてどこかへと走り去る。
馬車の中でミサトはあたしを隣におろしほっと息をついていた。あたしはすぐにミサトにこう問いかけた。
「ミサト……どうしてここが。招待状も何も送ってすらいないのに」
「執事に調べさせたまでよ。1度好きになった子を私が逃がすわけないでしょう?」
ミサトは不敵な笑みを見せながらそう言うとウェディングドレス姿のあたしをじっと見る。
「……綺麗ね。貴方の姿。ウェディングドレス姿見れてよかった。」
「……ありがとう」
嬉しいのにもっと話したいのに会話が続かない。緊張とかそういうのじゃないのになんで口が動かないんだろう。何を言おうか頭を回転させているとミサトがアスカとあたしの名前を言う。
顔を上げるとミサトは小さな箱をあたしにさしだしていた。
「これは?」
「……私からの婚約指輪よ」
「え……」
「……言おうか迷っていた。でも、ちゃんと言わなくちゃね」
ミサトは少し深呼吸をすると箱を開けて指輪を見せる。そこにはあたしの好きな赤い宝石がはめられていてとても綺麗だった。これはもしかしてルビーだろうか。
「ミサト……」
「……アスカ、こんな私だけどどうか私と結婚してくれませんか」
「!」
「必ず貴女を守るとここで誓う。貴方のそばにいる。」
思いがひしひしと伝わるような言葉。その言葉に対するあたしの返答はもう決まっている。あたしはミサトの手を取りありがとうと言うとミサトはあたしを抱きしめてありがとうと何回もあたしに言っていた。
「アスカ……愛してる」
「……うん、あたしも」
「2人で幸せになりましょう」
「うん……」
そうしてあたし達は少し早めに狭い馬車なの中で誓いのキスをした。もう後悔はない。ミサトがいればもう何もいらないから。