声が出なくなってしまった。一時的なものだと医者には言われたが、こんなに出ないと歌は歌えないし、会話には毎回真奈美さんの通訳が必要だし、一時的だとしても不便だ。使いすぎで疲労が溜まってたと診断されたが、歌うたいにそれは酷な話だと思う。
とにかく使い物にならないわいに代わって、真奈美さんが夕飯の買い出しに行ってくれた。帰ってくるまでに洗濯を済ませておこうと思ったが、久々すぎて異常に時間が掛かってしまった。自分がこれほど役立たずだったとは。本当にわいには歌しか無いんじゃないか?と思うと途端に不安になってくる。
もしこのまま声が出なかったら?真奈美さんは何て言うだろうか。わいを、わいの歌を、好きにならなければ良かった、とか、そんなことを言われてしまうかも知れない。
どうしよう、家事もまともに出来ないような男なんて要らないだろうな。真奈美さんはいい人だからすぐに次の相手が…………駄目だ。これ以上考えていると本当に駄目になってしまいそうだ。今すぐに叫んで思考を遮断したいのに、声が出ないせいでそれも叶わない。
むしゃくしゃして頭を掻き毟ったら、棚に手がぶつかってボトルがいくつか床に落ちた音で我に返った。散らかった部屋を見て、今真奈美さんが帰ってきたら何て言おうかな、寂しかったなんて言ったらどう思われるだろうか、なんて考えながらそれを拾い上げた。