ねえ、そばにいて。商売運に恵まれ、莫大な財産を築き上げた商人がいた。彼は妻に先立たれてたが、(中略)薔薇が土産であったことを知ると代わりに娘を差し出すように要求した。
「……が、野獣城主の条件の一つが『黒髪ロング』で……」
テーブルを挟んで向こう側の二人の男のうち長旅を済ませてきたという風の男――商人が長い話を語り終え、深く息をついた。
商人さんの娘はみんな茶髪でな……と続けたもう片方の老人はこの村の村長である。
「お前さんは腕も立つし独り身だ。だから頼むシムナさん! 代わ」
「召集とあらば」
村長が言い切る前に男たちが向かい合っている一人の女――シムナは、凛と落ち着いた声を上げた。その言い様があまりにも潔く、迷いもなかったものだから村長は「待ってせめて躊躇して……!」と泣いた。
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