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    ふららふいきれ(再び)

    前のアカウントに入れなくなってしまったので2代目です。
    @6ym_9727

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    POIPOI 4

    天使→堕天→妖魔転換博士のブブテス(未満だけど双方クソデカ感情)
    ※魔的、王的ブブちのため本編のブブちを吸いたい方はブラウザバック!
    ⚠天使自己解釈
    ⚠悪魔たちと博士の仲が友好
    ⚠悪魔主従あり
    ⚠博士可哀想
    ⚠ブブちズタボロ
    ⚠記憶障害アリ ←new!

    #ブブテス
    bubutes

    会いたかったと言いに来た。 私の名前はニコラ・テスラ。種族人類、欧州出身の科学者である。死後後継者からは『人類史上唯一の魔法使い』と称されがちだが私はこの肩書があまり気に入っていない。私の手がけるものは非科学的極まりない魔法ではなく、理論と物理法則のもとに成り立つ科学だからに他ならない。まあこれ以上は今回話すには長くなる自覚があるので興味のある者は拙作を覗いてみてほしい。
     そんな一科学者である私はひょんなことからラグナロクという神と人類のタイマン試合の闘士に選出され、半神半人という稀有な乙女と力を合わせてとある神と戦った。(一科学者が! 神と!)素晴らしい研究となった試合の結果私は相手の神に敗れ、しばらく眠っていたような気もするが(眠っている間に何があったかわからないが)全試合決着がついており、、、いや話してあげたいのは山々なんだがこれ以上を舌にのせようとするとフリーズしたように顎が動かなくなってしまうんだ。これも非科学的である。いけ好かない。ともかくなんやかんやあって復活した私はまた仲間たちと研究を続けることができている。
     前置きはこれくらいでいいだろう。さて繰り返すが、私は種族としては人類の、科学者である。
     そんな私の背に今、花嫁のウェディングドレスよりも純白の、大きな翼が生えているのはいかがなものだろう?

    ーー

     ある朝起きたら白い翼が生えていた。それも4つ。あまりに突飛、あまりに前兆のようなものもない唐突な出来事は私の脳みそを一瞬にして覚醒させた。突然のことなので勿論折り畳めず、使いこなせず途方に暮れる。しかし今日は約束があるのでいっそ外出しようと身支度を始める。こんな専門外の分野は一人で思考を巡らせていても仕方がない。このままコートを羽織ると不格好に膨らんでしまうので、以前エインヘリャル仲間のコジロウからいただいた「テヌグイ」という薄布で翼を胴に縛り付ける。
     いつもの控室、いつものメンバー。科学者仲間、兄、ゲンドゥルと落ち合いこの困った膨らみを披露すると案の定口々に何だそれと一気に賑やかになってしまう。本日のテーマも放り投げてどうしたことだろうと緊急会議を開く。「テスラ自身はどう考えているの?」とキュリーから投げかけられる。まあ自分は人間であり天使などという柄ではない。ここに来るまでに大分邪魔だったから抜けないかな?
     ということで、さっきから気になって仕方がなかったんだろう、エジソンが翼を掴んだ。すると「熱っ!」と叫んで手を振り払う。見ると火傷したように赤くなって小さな水疱さえできてしまっていた。他のみんなも、近くで見ている分と私自身に触れても問題ないが翼自体が熱いと言い、半神のゲンドゥルだけが触れたけど抜くには及ばなかった。
     抜けないならとゲンドゥルを伴って戦乙女の館へ向かう。我がエインヘリャル仲間であるジャック、彼はナイフ使いだから相棒の乙女と力を合わせて切ってもらえないかという魂胆である。さてそんな彼はどこに住んでいるのかわからないのでひとまず相棒の乙女・フレックに打診をと着いてみると丁度2名でお茶を嗜んでいた。事情を話し、神器錬成(戦乙女はコンビに一番適した武器に変身できるのだ)、手袋となったフレックを身に着け自前のナイフを握ったジャックが私の背後に回り、翼の根本を探る。扱いやすいようにと私は片膝をつく。
    「それではいきますよ」
     翼の一つに硬い感触が走る。それが上下に動いたり押し込めるように力がこもるのまでつぶさに感じ取れるのだがそれまでだ。
    「中々手ごわいですね……Mr,歯を食いしばって」
     そう言うと振りかぶった気配がする。ゲンドゥルが息をのむ音を聞いた。次の瞬間、「auti!」ジャックが手を離した。聞くと、熱が手袋を貫通してきて熱くて掴んでいられないと言う(フレックは常時平気だったという)。ので今度は、どこから調達したのだろう、背丈ほどもある大鋏で試すも鋏の方が参ってしまった。
     嫌な予感がして3名と別れ、今度は単身冥界に向かった。冥界の、ハデス神の居城。その奥の一室、蠅のレリーフの扉を開ける。
    「ベルゼブブ!」
     研究室の扉を開けた時、"彼"はこちらに背を向けていた。書類を捌いているのかペンを走らせる音がする。
    「こんにちはニコラ。君はいつも急だけど今日は随分慌てているね。どうし……」
     彼ーーベルゼブブはもう私の来訪に慣れきってすぐに顔を上げない。その姿勢に安堵するような、君が振り向くのが恐ろしいような。私に話しかけながら、とうとう身体ごとこちらに振り向いた。綺麗な顔、その中心で光る目が驚愕に見開いた。
     ベルゼブブーー私がかのラグナロクにて戦った、神であり、悪魔。復活後、彼と話したくてたまらなかった私は、一方的に会いに来ては怪訝そうにされ、突っぱねられ、たしなめられ、自虐も聞いた。そうやってハデス神の従者たちに名前を憶えられたころ、彼は私を許容してくれた。以来交流の続いている友人とも言える存在である。
     悪魔とは、堕天した天使である。悪魔とは、堕ちぶれた神である。(かのラグナロクは神vs人類という名目であるが、彼が選出されたのは「元」神であるからだろうかと推察される)彼はこの冥界の悪魔たちのいわば統率者。曰く、『蝿の王』、『悪魔王』。
     視線がかち合った瞬間ベルゼブブは……白目をむいて派手に倒れた。
    「ああ、ベルゼブブ!」
    『お? 学者か。ベルゼブブがどうし……うおお!?』
    「え? テスラさん? どうな……ああ!」
     奥から顔を出したのはアダマス神と、ベルゼブブの従者的存在、冥界の料理(人)悪魔・ニスロク。というわけで悪魔ニスロクも目を覆って倒れてしまった。「何つー恰好してんだ?」と言うアダマス神は眩しそうにしたけど何ともないようだ。嫌な予感的中である。事情は後だとアダマス神に介抱を頼み、再び天界、ゲンドゥルがすでに話を回してくれたのだろう、ブリュンヒルデと共にゼウス神の居城へ。
    「ははァん……何じゃこれ、どこの神界?」
     応接室に向かい合い、私の羽を触りながらゼウス神の発した第一声がこれである。
    「はい?」
    「とすると?」
     とブリュンヒルデが続ける。
    「ほれ背に翼持ち天使の像は中世あたりからじゃろう? わしらんとこ程の天使となれば翼なしがデフォじゃ」
     そう言って指を振る。なるほど例えば、私は見かけただけで世話になったことはないが、顔を半分隠した医務系のいでたちの彼女たちがそうなのだろうか。
    「お主のいでたちはわしの見立てじゃともっと最近……神界があっても小さいものじゃろ」
    『ええ、まことその通りです』
     突然増えた知らない声に振り向けば、いつ入ってきたのだろう、ひどく中性的な顔立ちの背に翼を持つ女性がーーいや見方によっては男性にも見える。とにかく一人の天使が立っていた。
    『我らは数年前に発足した宗教にて生を得た天使です。創始者様は多種多様な宗教を学び、独自の宗教形態を創り上げ、我々を創造せられました。
     この世は穢いもので溢れかえっている。人間の負の感情、酷さ、醜さ、七つの大罪を始めとする性悪さ。極論、それが果てに大気を、海を濁します。創始者様は元来の美しさ、否、それ以上の輝きを世界に取り戻さんとしているのです。全体が美しくなるためにはまず小さなもの、人間から変わらなければいけない。清廉潔白を掲げ、信者たちは魂を磨いているのです。
     とは言ってもまだ小さい神界です。力も数もまだまだです。そこで美しき方を天使として迎え入れているのです。貴方様には我々の手助けをしていただきたいのです』
     そう朗々と、歌うように言った。
    「みてくれですか?」
     ブリュンヒルデがこめかみに血管を浮き出たせながら言う。
    『まさか。総合的にです。心、身体、共にです』
     天使が苦笑で答える。
     それにしても素人がいきなりケルビム(智天使)かい。断ろうと口を開きかけると「行っちゃう? 科学者ちゃん」とゼウス神からまさかの提案をされた。
    「虎穴に入らずんば虎子を得ずって中国神界の諺じゃよ。その翼の扱いも教えてもらえるじゃろ。なァに合わなかったら戻って「すんなり戻ってこれるとお思いで?」
     言い終える前に我慢ならずという風にブリュンヒルデが噛み付く。
    「ブリュちゃん待ってわしとて考え無しに言ってない」
     と、扉が勢いよく開いた。
    「話は聞かせてもらったよ、おじいちゃんでさえも知らない場所にニコラを放り出すつもりなの?」
     登場人物は人類の父にしてエインヘリャル仲間のアダムだった。後ろにヘルメス神が苦笑顔で控えている。
    「嘘なんで坊主が、、、あ、果実祭の企画書の返事? 早くていいのう。ところで待って弁明させて。グーをパーに戻して」
     もめ始めた3名はさておき、目の前の天使は人手が欲しいらしいし、自分は翼を扱いあぐねているのは事実だし、自分はもう人間と言えなそうだし……と、火傷させてしまったエジソンと気絶した悪魔2名を思い出す。気になることといえば"戻ってくる"というのは環境(今いる天界)的にか本質(人間として)的にか、か……
    「分かった。共に行こう」
     やがて私は解を出した。「いいの? ニコラ」とアダムが眉をひそめながら言う。
    「ただし条件がある。今この場で、我が友人たちに事情を説明させてほしい」
     喜びかけた天使は「時間は有限です」と嫌な顔をしたが、ブリュンヒルデに睨まれていると気づくとしぶしぶこれを許した。しかしスピーカーで、そして人数制限も付けられたのでグループ通話を駆使してコールしていく。
     しばしの別れを科学者仲間は転生したと思って行ってこいと背を叩いて(比喩である)くれた。兄はやはり心配してくれた。
     そして緊張しながらのコールの結果、ベルゼブブも応答してくれた。
    「ベル……」
     条件がスピーカー通話なので、相手が人間だと思わせるように偽らなければいけない。
    「単刀直入に言う、今私の隣には天使がいる」
     彼相手ならばこれだけでも十分情報になる。数秒の間を置き、ベルゼブブは、、、
    『……この後君の隣のすまし面にも代わってよ。言いたいことが山ほどあるんだ』
     ガチリと、歯を嚙み鳴らすように言った。ああ、君は時々すごく激情家になる! けれど今はできるだけ控えてほしい!
    「結論を言ってしまうと、私はしばらく君と会えない。この身体は分からないことが多すぎるから」
    『その天使について行くつもり? 必要ないよ、僕がどうにかしてあげる。医学系の神だっているんだし』
    「ゼウス神の勧めでもあるんだ……」
     ああ、いつ文脈に悪魔というワードが出てくるかとヒヤヒヤする日がやってくるとは。
     彼はどうにも苦しげで、合間に聞こえる嚥下音に水を口に含んでいるのだろうと推察する。できるだけ簡潔明瞭に説明して負担を減らしたい、でもベルゼブブはもっと話したいようで、けど通話口向こうから『出血してる、通話を止めてください!』と聞こえて堪らなくなって。
    「苦しい思いをさせてすまない、ちょっと逝ってくるよ」と通話を切ってしまった。出血は耳だろうか。天使は声だけでも悪魔を傷つけてしまうのか。
     この話を受けた理由は2つ。未知が多すぎるためと、彼、彼らのためだ。対人間とは対面で話ができるが悪魔は違う。翼の扱いを学べるなら天使の力というか、天使らしさの制御もできないだろうか? それができれば対面とは言わなくも普通に通話ができるかもしれない、ベルゼブブの負担を減らせるかもしれない。
     他のみんなへの伝言はアダムとブリュンヒルデに任せて、やれることをしようと私は謎の天使の横に立ったのだった。

    ーー

     さて実際に行ってみると地盤は他の神界と比べて小さいものの豪華絢爛な居城があり、天使の人数も中々で皆規則然としている。地に降り立つと頭上に輪っかもついてしまった。使者の天使に自分の指導役の天使を紹介され案内を受ける。彼、もしくは彼女が一瞬ゲンドゥルに見えてしまったのは、きっと心細かったから。
     まず翼の扱いを教わり、数日のうちに自由自在に飛べるようになった。城には種類数多の武器もあり天使たちは剣技も教えたがった。天使の本質は武力ではなかったはず、訝しんだ私は、手一杯だと適当に躱した。
     自分に与えられた仕事は天使たちの名簿管理、そして夜明けと夜更けにトランペットを吹くこと。無論トランペットなんて吹いたことがないから、扱い方も曲も教えてもらった。覚えるまでは大変だったが覚えてしまえば日の大半は退屈だった。人に会ったりしないのかと問うと貴方様はする必要がないと言われ、会いに行きたいと言っても同じ。携帯端末は初日に徴収されているし、土地/領空から出ようとすると止められた。だから身の回りの改良案を練ってしまう。借り物の名簿はどうも見づらく使いづらい。例えば、ベルゼブブは悪魔王の名のもと冥界にいる全悪魔の名簿を所持しているのだが、ちらりと見せてもらったそれは整然としていて引きやすく、扱いやすそうだった。そのレイアウトを思い出しながら草案を指導役の天使に見せてみると、我らのルールに従ってくれとたしなめられてしまった。
     毎日のように大勢の天使が出かけていく。そして決まった時間に戻ってくる。
     たまに城内でゼウス神とブリュンヒルデを見かけることがあったが、会話を始める前に客神は連れて行かれてしまう。2柱の歯噛みするような切ない表情が脳裏を焦がす。
     城内には図書館があるが、蔵書の1冊1冊が行間が多くて中身はスカスカ、もしくは頁数が背表紙の厚みに反して少なく、多分一月もしないうちに全蔵書を読み切った。図書館には図書館長らしい天使がおり、毎日のように通うものだからおのずと仲良くなる。曰く蔵書は全て"創始者様"の選書乃至著書だという。図書館長は副職であり本職は天使の裁判官だという。罰するべき天使の天使権(力)を剥奪、堕天させることのできる唯一の天使なのだ。この神界には自分のように一人一人に役割が与えられているらしい。
     けれど、神界の外に出られない。内の天使らしい我々は、しかし歯車のように動きっぱなしなわけでもなく、一人一人にオリジナルの天使が世話役で付いており、身の回りのことをしてくれる。そんな緩慢な日々が続いている。
     まるで花瓶の花だ、と思う。

     どれだけの月日が経ったろう。
     名簿管理は私の仕事だから、あれから私の他にも連れてこられた人間がいることを知っているし、話してみると案の定全員オリジナルの天使たちに戸惑っている。自分たちの宗教の洗脳じみたことはしてこないものの(否、自分たちの宗教に絶対的な自信を持っているからこそか)、個々の思想を捨て置かれているらしい。取るに足らずと重要視されていないらしい。
     以前より違和感は感じていた。
     私の走り書きと言わず清書と言わず、紙を処分されてしまう。数式メモも詩も、画力はさておき友人たちのスケッチも。天使の勉強と分かる紙は容認されている風だと思ったが頃合をみて捨てられていることに気づいた。隠していた日記も創作の物語もやられた。
     この所業を咎めると寧ろ不思議そうに首を傾げられた。
    『貴方様は智天使なのです。遺すのではなく遺されなければ』
    『我々はもっともっと大きく力のある神界になります。学習意欲に溢れる貴方様は図書館の蔵書を読破したと聞きました。もう我々の宗教を隅々まで理解されたのでしょう。なら他の事共は思考を占拠するに不要でしょう』
    『特に貴方様、悪魔に心酔なされてるご様子。不浄なる悪魔王と闘ったことがあると評判の貴方様が何故? どうかお忘れなさい。あれは塵芥なのだから』
    『何故そんな顔をするのです? 私は当然のことをしているまでです。笑ってくださいましな』
     腹が立った。彼は個人の思考をきっぱりと不要と言った、ベルゼブブを不浄だと言った、彼のことをよく知りもしないで。
     あんまりな言い様に口をついて出たのは「帰らせてもらう」だった。
    「悪魔だって気のいいモノたちだ。きみはその目で彼らを見、話をしたのだろうか。日の暮れるのも忘れて意見交換をしたことがあるのだろうか。そして今まで学ばせてもらったところこの宗教はどうにも粗雑だ! 各宗教の良いところを継ぎ合わせただけで整合性に欠けるし、主張だけを前面に出していて矛盾点に目を向けようとしていない!」
     この宗教に感じていた思いつく限りの違和感・矛盾点を指摘し始めると、きょとんとしていた指導役兼世話係の天使の表情が初めて崩れた。
    『何をおっしゃる。創始者様を疑うような言動はたとえ智天使様でも許しませぬ!』
     そう言って飛びかかられ頭を両手で掴まれた。いっそこのまま輪っかでも壊して貰えないだろうか、そう思っていると『貴方様の"宗教"は"これ"ですか』と呟かれた。
     脳内でバキリと何かが壊れた音がした。
    "ここの天使たちに歯向かうような真似は止めておくことです"という、図書館長/裁判官の言葉を何故だか思い出した。

     気がつくとベッドに横たわっていた。あの天使は先刻の無礼を詫び、倦怠感に苛まれていた私はこれを許した。
     彼(彼女)が立ち去ってから紙とペンを引き寄せた。良かった、思考をとられたわけではないらしい。どうせ捨てられるのだからと化学式も数式もたくさん書いた。書きながら独りごちた。
    「この仮定をどう見る? エジソン。ああキュリー、その考えも面白いね。ああそれはとても君らしい着眼点だ、ガリレオ......」
     寂しさを、紙に埋めた。スケッチは捨てられると思うと悲しかったし名前も気が引けたから止めた。
     そうだ、この感じ、生前にも何度かあった……
     みんなに会いたいなぁ......

     あれからどれだけの年月が経ったことだろう?
     いつものように夜更けが来てトランペットを吹く。寂しさの最中吹きながら思い出す。
     そういえばトランペットを能くする悪魔がいた。彼女は、そうだ自分をニコたんなんて呼ぶサキュバスの彼女は楽しげに自前のトランペットを吹くのだ。
    "興味があるならニコたんの都合のいい時に教えてあげるよ♡"と笑っていた桃色の髪色の彼女は......
     どんな縁で知り合ったんだっけ......?
     ハッとした。言いようもなく背筋が凍った。そうだ、彼女だけじゃない、天界に遊んでいる悪魔たちだけでなく私はもっともっとたくさん、冥界の悪魔たちとも知り合っていた。この奇妙な付き合いのきっかけは何だったっけ? そうだ誰かがいたのだ、私を彼らに認知させて回った誰かがいた、思い出してきた、黒衣の、自分より背は低くて、悪魔たちから慕われて、、、いや仰々しいものではなかった気がするが確かに慕われていた、彼は......彼女は?

     顔が思い出せない。名前も思い出せない。

     科学者仲間、生前の家族、エインヘリャル、戦乙女、悪魔たち、神々、、、思いつく限りを紙に連ねてきたはずなのに、彼(彼女)に該当する顔と名前が無い。ああそうだアダマス神、彼が大抵隣にいた......気がする……なのに、何故君には顔が無い?
     彼は、彼女は、君は……あなたは誰だ。あなたと私はどうして知り合ったんだ。
     忘れてしまうヒトならばそれほど重要なヒトではない、そう思ってもいいのに思い出せないことがどうにも悲しくて、哀しくて、焦げそうで、、、恋しくて。どうして、
    「あなたに、会いたい......」
     トランペットなんてとっくに吹けたものじゃなくなっており、ただ自身の胸元に携えているだけになっていた。さっきから涙が落ちてゆく。
     ふいにパキリと硬質な音がして目線を下げた。トランペットの一部分が壊れていた。
     それで心が決まった。そもそもきっかけは何だってよかった。

    ーー

     丘を飛び降り、渡り廊下を走る、走る。
     途中天使にトランペットがおざなりだったけどどうされたと腕を掴まれたが振り払い、走る。目指すは図書館だ。
    「図書館長殿!」
     果たして彼(彼女)は変わらずいた。読んでいた本から顔を上げこちらに歩み寄ってくる。
    「いや今は審判殿と呼ぶべきか」
     彼の前に膝をつく。
    「お願いだ、私を堕天させてほしい!」
     私の申し出に彼は無言で目線を合わせてきた。
    「私は無宗教者だと思っていたがその実心に住まわせていた神がいたらしい。いや今となってはあのヒトが神なのか否かすら判別しないが、それはきっとあの時消されてしまったからだと仮定すると話が通るんだ。……私には忘れたくないヒトがいた。それが今思い出せないんだ。あのヒトは私の生活の一部、私の発見、私のかけがえのない誰かだったはずなのに......思い出せるならばこの身分を喜んで差し出そうというくらい、思い出せないことがこんなにも悲しく、辛く、耐え難い......
     最早私は智天使なんて程遠い、感情に動かされるただの人間だ。心が完全に離れた今、この崇高な宗教の一部分なんて担えない......」
     そう言って泣き出す私の肩をさすりながら、審判殿は静かに言った。
    「堕天させてくれだなんて、直接的に言うものではありません」
     そう言って私の手を取り、促し歩き出す。
     ふと彼の背に眼がいく。どうして今まで気づかなかったんだろう? きっとその長髪と、翼を折りたたむのが上手いのだろう。貴方もケルビムだったんだね。
     天使たちを無言であしらいながら彼と私はやがて丘に出た。彼が私に向き直る。
    「判断するのは私。審判するのが私の役目」
     そう言うや、私の頭上に浮かんでいる輪っかを手に取った。(あの、自分で手に取って観察しようと試みるも掴んで頭から離したそばから磁石のように頭上に戻ってしまうあの輪っかを!)呆気にとられる私に構わず、彼は何と輪っかを足元に叩きつけた! 輪っかはガラスのように見事な亀裂を描いて砕けた。頷いた彼は私に向き直る。
    「これが堕天するべき天使の証です。信心を持ち得る天使のこれは、こうはいきません」
     丘と言ったが片側は崖になっており、彼は私を崖端に立たせた。
     下は神界の切れ端、夜の闇がわだかまっている。
    「智天使、ニコラ・テスラは我らが神に背き、これを捨てた! 最早天使で居続けることは赦されない!」と彼は厳かに宣言した。いつの間に着けていたのか、腰に佩いた剣を一閃、私の翼を断ち切っていった。(あの、ジャックも太刀打ち出来なかったあの翼を剣の一振で!)驚きと痛みが一時に襲う。けど痛みは、この心の痛みには敵わない。あのヒトがための喪失感に比べたら!
     全て切り落とすと彼は私の身体を回し、お互いが向き合う形になった。視線がかち合う。今私はどんな顔をしているだろう。
     彼は私の肩を押し、崖下へ突き落とした。
     堕天だ、気づいた私は今だ携えていたトランペットを彼に向かって投げつけた。彼がそれを受け止める。
    「どうか、想われる方に会えますように」
     そう言って彼は微笑んだ。その瞬間、"彼"の顔が初めて見えた。見慣れた中性的な顔の輪郭が歪み、長髪ではあるものの男性的な顔が確かに見えた。
     それで理解した。ああ、貴方も連れてこられた人間だったのだね。同時に、私もきっとああなっていたのだろうとも。

     身が風を切る。耳が冷たさでじんとする。反して血まみれの背は熱く、その熱が身体を覆ってゆくよう。いや実際、流れる血が脚と言わず首と言わず身体中を這うように塗りたくってゆく。
     天使は堕天すると悪魔に変わる。
     悪魔に変わったらまずどうするべきだろう、、、あのヒトと、友人たちに会いに行きたいが姿の変わった自分は訝しがられるだろうから、まず悪魔に接触しよう......悪魔と話して今後の身の振り方を相談しよう...そうだ...謁見しよう。
    「悪魔...王...様、に......」

    ーー

     気が付くと茂みの中に倒れていた。辺りを窺うにここは天界(の、人間界)側のビフレスト付近らしい。そして……
    「……子供……?」
     自身の手を見て驚いた。声が出た。声は前のままだ。そのことに少なからず安堵し、茂みから姿を現す。こちらは雨だったのか大きな水たまりがある。そこに自身の姿を映し込んだ。
     まず目に飛び込んできたのは大きな耳。次いで小さな体躯は、人間の頃の半分もない気がする。覚醒した瞬間から感じていた尻の違和感の正体は膝裏まであるしなやかなしっぽだった。鼻は犬のようなそれで、体皮は所謂皮膚ではなく、産毛のような繊毛が生えている。頭髪はある。瞳は黒だが光の加減によって青色が見て取れる。
     恰好も変わっていた。ワイシャツにサスペンダー、足にはバッシュ、頭には耳を出す穴のついた帽子にゴーグルが……ああそうだ、あの神界にいる間も肌身離さず着けていたゴーグルが日を受けて光っていた。
     人相(悪魔相か?)も含め、総合的に犬っぽい。だが手指は人間のそれだ。これは何という悪魔なのだろう? ひとまずいかつい顔でなくて良かったとは思う。
     さてこの姿だ。やはり落下しながら考えていた通りまずは悪魔に会おう。そうビフレストに向かおうとして足を止めた。随分感覚が麻痺しているが、そういえばあの門は誰しも自由に出入りできる代物ではないのだ。人間なら私とエインヘリャル仲間の始皇帝こと、冥界通行許可証なるパスポート(ラグナロク以後突貫的にできた代物)持ちくらいである。
     私と始皇帝の、冥界来訪頻度の高さ故だ。始皇帝はハデス神に会いに行くために。私は……何のために? 何かか、誰かか。うっすらとした記憶の中でアダマス神やニスロクと共にいる"あなた"のためなのか? いやきっとそうなのだ。
     とにかく今動くのは最適ではない。迷ったが改めて茂みに隠れ、私は悪魔が通りかかるのを待つことにした。
     どれだけ息をひそめていただろう。果たして待望の悪魔がやってきた。牛頭の悪魔、あれは確かグエルという悪魔の師団員ではなかったか。人の身であるころにX線の話をしたことがある輪に彼もいた。大きな紙袋を抱えている。ここぞとばかりに私は駆けだし、彼の前に立ち健気にも頭を下げる。
    「冥界へ向かう悪魔の方とお見受けします。私はこの度住処を追われてここへたどり着いたモノ、悪魔王様の評判を聞き、今後の身の振り方等相談したく遮二無二やってきました。どうか冥界へご一緒させてください」
     フル敬語なんて死後初か? レアだな。
     牛頭の悪魔は私を見下ろし、「"グレムリン"か」と言った。
     グレムリンーー20世紀になってその名が流布し出した、機械いじりをする小型の魔物。その姿は小型の犬っぽいモノとも爬虫類のような皮膚を持つともはたまた飛行膜を持っているとも言われ判然としない。とすると私のこの身体は子供ではなく成体ということになる。
    「他所の神界の観光客が騒ぎを起こしたり、モグリが何ぞやらかしやがったことが昔あって、普段ならよそ者はそう簡単に連れて行かねえところなんだが」
     やはり一筋縄ではいかない、そう肩を落とした時悪魔は笑った。
    「お前はどうにも、オレの知り合いに似ているから連れてってやる」
     ついて来い、と牛頭の彼は歩き出した。礼を言い、私も後に続く。人のニコラ・テスラとは気づかれなかったものの、彼の記憶に私がいる、そのことがやけに有難くて鼻がツンとした。

     久しぶりの冥界の空気は重苦しい。目に入ってくる悪魔たち、彼らはおしなべて元気がなく、その身体は酷い火傷と切り傷だらけだった。医療班か、グエル師団を筆頭に身体の小さな悪魔等が行き交っている。
    「ここの悪魔たちは今天使と喧嘩中なのさ」
     気を遣って牛頭の彼が声をかける。
    「悪魔王殿のお気に入りの人間が天使に盗られちまってなあ……神連中も交渉しているらしいが業を煮やしてこの有様さ。まあ悪魔王殿なら一人でも行ってたさ。オレたちがついて行ったんだ」
     オレたちにとってもその人間はもう友達だったから、そう言って彼は困ったように笑った。
     悪魔王様のお気に入りの人間……私は新たに名簿入りを果たす人間たちにはくまなく会ってきたつもりだったが、私と始皇帝、ノストラダムス以外の、冥界に出入りする人間がいただろうか? それにしても悪魔王を動かすだなんて相当な人だ。……感心すると同時に羨ましく感じてしまう。私が焦がれるあのヒトも、そんな風に必死になってくれていたとしたらどんなに素敵だろう?
     やがてハデス神の居城が見えてくる。牛頭の彼を介してケルベロスを回避、「ここでお別れだ」と城門前で別れた。
     いっそハデス神に謁見した方が早く事が進むだろうか? ハデス神ならば"あのヒト"の特徴を聞いて、該当者を挙げてくれるだろうか? そうも思ったが教えられた通り、悪魔たちご用達の悪魔王様研究室直通通路への連絡扉を開けた。

     蠅のレリーフの扉は何故か見覚えがあった。
    「悪魔王様研究室直通通路」をどこも曲がらず真っ直ぐ進んだ奥から4番目の部屋だと教えられたとおりの場所のはずなのに、開けられないまま、ただ立ち竦んでいる。
     理由なら分かっている、怖いのだ。見覚えのある場所に立っている私の頭の中は霞がかっていてたよりない。それでも、何かが確実にこの扉の向こうに在るという確信がある。直観は時に知識を超越する……なのにそれに対して私自身がピンと来なかったらと思ったら。

    『誰だお前』
     どれだけそうしていただろう。その声に振り返ると、アダマス神が眼の前に立っていた。ああ! いつ見ても素晴らしいそのボディは、、、そうだ、部位の一つ一つの説明を受けたことがある……
    「アダマス……神……」
    『おっ、オレのことを悪魔じゃなく神と言ったか。初めましてにしては見る目があるじゃねえか。最近の若い悪魔共はオレのことを悪魔だと言いやが……おい止まれ! オレの知り合いみてーなことしてんじゃねえよ』
     抱えられてしまった。待ってくれ、もう少し観察させてほしい、記憶のとっかかりがここまで、ここまで来ているんだ!
    「ああ申し訳ない、あなたの身体がどうにも素晴らしくて! 私は悪魔王様に会えたらとここまで来たんです」
    『悪魔王……ああベルゼブブか』
     そう彼はすげなく言った。
     "ベルゼブブ"
     脳が、心臓がハウリングを起こしたような心地に駆られる。
     ベルゼブブとは高位悪魔だが、本来は移民たちによって認知改変され悪魔に堕ちた神だ。姿は巨大な蠅型とされているが……何故だろう? それは文献上の話で、記憶の中の、名前の向こうに見えそうな姿はそうじゃない。この名前も多分、忘れたくなかった名前。
     固まってしまった私にアダマス神は、
    『用があるならさっさと入れよ』
     扉を開けた。

     大きなモニターと培養槽だけが光源の部屋は薄暗い。薬品と紙の匂いが充満している閉塞空間は窓もなく、少々息苦しく感じるような、それでいて心地良いような。
     ああ、私はここを知っている。アダマス神が顎で促すので、部屋の奥、本棚の向こうを目指して足を踏み入れた。
     椅子に座っているらしいモノーー彼が"ベルゼブブ"だろうか? 画面越しに誰か……ああ、あれはニスロクだーーうっすらとクマを作っている目、その瞳に普段の輝きはなく、熱をかけたように薄白い。彼とビデオ通話をしている。
    『あの羽虫共の報告書は、もうハデス神にお渡し済で、明日にでもゼウス神の手に渡るのでしょう? 少しお休みになってもバチは当たりませんよ』
    「……君だって、眠れてないんだろ?」
     その声に目を見開いた。言いようもなく目頭が熱くなる。
    『もう、こう言えばああ言うんですから……彼、どうしているでしょうね』
     眠れているだろうか、退屈がっていないか、その結果変なものを分解していないだろうか、等その後もぽつぽつと両者は言葉を交わし、やがて、薬を塗ったら寝ると"ベルゼブブ"が言って会話を切り上げたようだった。
     画面向こうのニスロクがちらりとこちらを見た気がすると、『お客様ですよ』と言って通話が終わった。
     少々キーボードを操作する音が聞こえ、モニター画面内が整理され、、、椅子が回転した。
    「お待たせ。さて、何の用?」

     全ての点が繋がった。
     その顔、その姿。
     人の姿の彼は人形なのかと疑いたくなるような艶麗さで、しかしながら身体中包帯と滲む血痕だらけで痛々しい。白い肌はいっそ病的で血痕の赤が映えてしまう。長めの黒髪の頭にも包帯が施されており、その顔には火傷痕が堂々と居座っていた。顔半分を占める火傷は皮膚を爛れさせ、片目を変形させてしまっている。
     あまりにもおどろおどろしく、悪魔然とした姿。なのに、むしろ美しく感じた。生前目にしてきた芸術よりも、例の天使も凌駕して、何よりも、気高く美しかった。
     ああ、私の神よ。私の唯一よ。
     彼との付き合いは、こっそりと彼の眉間の皺を数えることから始まった。会うたびにしかめ面と目を合わせ、視線を外すタイミングで数えた。当初は本数に変動がほぼ見られなかったが、会合を重ねるほどに訝しむような睨みも本数も減って、これまたこっそりと測っていた彼の心身負荷(ストレス)値が0になった時、初めて私に笑いかけてくれたあの嬉しさを、忘れることなどできやしないと思っていた。否、思い出すということは、完全に忘れていないということの裏返しだ。
     視界がぼやける。胸の中が熱で充満する。鼻の奥がツンとする。
     会いたかった。
     フリーズし嗚咽すら漏らす私に訝しんだベルゼブブは立ち上がり、なんとこちらに歩み寄ってきた。ああ、片足を引きずっているじゃないか。なあベルゼブブ、牛頭の悪魔から色々聞いたんだ。私は自惚れてもいいんだろうか? "君"、私のために頑張ってくれていたのかい?
    「ねえ、黙っていられると分から……」
     彼が足を止めた。
     彼の、闇夜に映り込む火星のような瞳と、涙をぬぐった私の、今は夜の中のラピスラズリのような瞳がかち合う。
     どれだけそうしていただろう。まだ扉口にいたらしいアダマス神の困惑したような呻き声が聞こえた。
    「あの……」
    「……~~~~~~~~~」
     流石に何かしゃべらなくては、そう思い上げた声はベルゼブブの突として上げた声に、、、数式に上書きされた。この数式は物理演算の基礎中の基礎だ。私はつい解を答える。すると次が問われる。また答える。次が来る。答える……
     いつぶりだろうか、こんな言葉の応酬は。ああ、奇遇だな、その数式は超人自動機械βを構成する大事な一要素だ、ああ、その数式は君との交流の最中見つけたものだよ、おやひっかけかい? 元素記号番号は全て頭に入っているつもりだよ、ああ今度は詩になった、シェイクスピアだ。次はゲーテだ、ミニョンだ。君は本当に博識だな!
     お互いとっくに涙でぐちゃぐちゃで、でもやめられなかった。嬉しくて、楽しくて、愛おしかった。
    「……"君"が、僕を殺す最後の手段に、選んだ技は?」
    「プラズマ、パルス……パンチ……クロス……!」
     言い切る前に彼が膝を折り、抱きしめられた。
    「ニコラ……!」
    「ベルゼブブ!」
     彼とこんな風に触れ合うのは初めてだったが嫌悪感はまるでなく、私も力いっぱい抱きしめ返した。ハーブと軟膏の匂いが鼻腔に満ちる。
    「僕さ、ねえ、君を迎えに行きたかったんだ。天使どもを潰しまくってさ、でも君の方が早かったね……ねえ、もっと顔を見せて? ああ何て愛らしいグレムリンになったことだよ、君……」
    「私ね、私だと気づかれなかったらって、柄にもなく怖かったんだ……なあ、君、悪魔の一人から聞いたんだ。自惚れてもいいのかな? 私は君のお気に入りなんだって?」
     もうお互い呂律も怪しくなってきて、それに笑って、また手放しで泣いた。アダマス神の慌てたような、結局ハデス神にでも報告に行ったのか足音が遠のいていった。
     ベルゼブブ、私は君に会いたかった、
     僕だって、ニコラに会いたかった、
     そう返ってくる声のあることが、なんて幸せなことだろう。

    ーー

     天界の友人たちに再会したのはそれから4日後だった。
     気を利かせたのか、研究室にやってきたハデス神は「天界連中にはまだ言わぬ」と言って戻っていったのでベルゼブブがまず悪魔たちに報告したためだ。色とりどりの歓声や悲鳴や涙声を上げる悪魔たちに文字通りもみくちゃにされた。ベタベタと触られることは好きじゃないが、でも彼らがあんまり安心したように笑うから私も笑った。
     科学者仲間たちはベルゼブブと似たような反応(自分たちの代表的研究を順々に問われた)の後ラグナロク復活時を彷彿とさせるような歓待を受けた。エインヘリャル仲間たちも驚き、しかし生還を祝福してくれた。我が兄デンと我が相棒ゲンドゥルには泣かれた。
     それからゼウス神の居城で事の真相を聞いた。
     実は数年前から天界の人間の魂が行方不明になっていたのだと言う。いつ、どこで、どんな条件で行方をくらますのか掴めず、捜索しても見つからず、その内にもじわじわと人間が減っていく事件は一部の神間でのみ周知されていた。そこに現れたのが翼を持った私だったというわけだ。ゼウス神は迎えに来た天使を一目見て感づき、有体に言うと私をGPSにし、追跡したのだ。
     あの天使と神界は数年前現世にて発足した新たな宗教であったが、主張はさておき実際に何をしていたかと言うと、清貧にと説いて断食まがいのことをしており、怪我や病気を患っても薬を与えず自然治癒を推奨していた。何より諸悪・穢れの根源は財であり富だと言ってそれを手放させ、寄付活動にと言って自身が蓄えていたという。(とどのつまり詐欺)
     神界を特定したゼウス神とブリュンヒルデは天使と接触、連れてきた人間を解放するよう交渉していたという。それが時折見かけた2神の姿だったのだ。
     これに進展がないと見るやベルゼブブが進軍、天使と悪魔の戦争になっていたという。何故それに気づけなかったのか。もしかしたらそれこそが天使たちが私たちを外に出さなかった追加の理由だったのかもしれない。
     ベルゼブブは強いし悪魔たちも相当の実力者ではあるのだが、詐欺だろうと集団洗脳だろうと、信心があれば信仰対象は力を持つ。ハリボテの天使でも悪魔には毒だったというわけだ。
     それが2日前現世にて、創始者様こと教祖が告発され罪が露見、教団は解散の運びとなったのである。かの神界は急激に力を失い崩れ、天使たちもゆっくり消滅していった。天使化した人間たちはそれに伴い人間に戻った。私はその後かの審判殿に会うことができた。壮年の、柔和な笑みを浮かべる彼は図書館司書だった。
     そして私ニコラ・テスラはというと、あの後「また天界で暮らせるな」と喜ぶ仲間たちと「え? ニコラは僕のところに引き受けるつもりだけど?」というベルゼブブとでひと悶着あったが(何でも、悪魔にとって名とは命そのものであり、どんなまじないより強い効力を持つというので魔物(悪魔)となった私は誰ぞ師団に名を連ねる方が色々と安全だという彼の主張vsそう言って冥界から出さないつもりではないか? あと戦乙女嘗めるなというこちらの主張)、どっちみち人間に戻れない私は双方の譲歩の末、ベルゼブブの、形ばかりの師団の下に名を連ね、天界と冥界を今日も駆け回っている。



    [That’s the end of the story.]

    by@i_jelly_302

    参考文献:原作略
    『幻想悪魔大図鑑』監修:健部伸明 カンゼン
    『地獄楽-うたかたの夢-』「第三話 心動かすもの」原作:賀来ゆうじ 小説:菱川さかく 集英社
    『AandD』新國みなみ
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    ふららふいきれ(再び)

    DONE天使→堕天→妖魔転換博士のブブテス(未満だけど双方クソデカ感情)
    ※魔的、王的ブブちのため本編のブブちを吸いたい方はブラウザバック!
    ⚠天使自己解釈
    ⚠悪魔たちと博士の仲が友好
    ⚠悪魔主従あり
    ⚠博士可哀想
    ⚠ブブちズタボロ
    ⚠記憶障害アリ ←new!
    会いたかったと言いに来た。 私の名前はニコラ・テスラ。種族人類、欧州出身の科学者である。死後後継者からは『人類史上唯一の魔法使い』と称されがちだが私はこの肩書があまり気に入っていない。私の手がけるものは非科学的極まりない魔法ではなく、理論と物理法則のもとに成り立つ科学だからに他ならない。まあこれ以上は今回話すには長くなる自覚があるので興味のある者は拙作を覗いてみてほしい。
     そんな一科学者である私はひょんなことからラグナロクという神と人類のタイマン試合の闘士に選出され、半神半人という稀有な乙女と力を合わせてとある神と戦った。(一科学者が! 神と!)素晴らしい研究となった試合の結果私は相手の神に敗れ、しばらく眠っていたような気もするが(眠っている間に何があったかわからないが)全試合決着がついており、、、いや話してあげたいのは山々なんだがこれ以上を舌にのせようとするとフリーズしたように顎が動かなくなってしまうんだ。これも非科学的である。いけ好かない。ともかくなんやかんやあって復活した私はまた仲間たちと研究を続けることができている。
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    ⚠博士可哀想
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    会いたかったと言いに来た。 私の名前はニコラ・テスラ。種族人類、欧州出身の科学者である。死後後継者からは『人類史上唯一の魔法使い』と称されがちだが私はこの肩書があまり気に入っていない。私の手がけるものは非科学的極まりない魔法ではなく、理論と物理法則のもとに成り立つ科学だからに他ならない。まあこれ以上は今回話すには長くなる自覚があるので興味のある者は拙作を覗いてみてほしい。
     そんな一科学者である私はひょんなことからラグナロクという神と人類のタイマン試合の闘士に選出され、半神半人という稀有な乙女と力を合わせてとある神と戦った。(一科学者が! 神と!)素晴らしい研究となった試合の結果私は相手の神に敗れ、しばらく眠っていたような気もするが(眠っている間に何があったかわからないが)全試合決着がついており、、、いや話してあげたいのは山々なんだがこれ以上を舌にのせようとするとフリーズしたように顎が動かなくなってしまうんだ。これも非科学的である。いけ好かない。ともかくなんやかんやあって復活した私はまた仲間たちと研究を続けることができている。
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