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    Ma2rikako

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    Ma2rikako

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    最近、入村という言葉をよく聞くので燈啓ちゃんを入村させてみた。
    特に大きな事件もなくたんたんと話が進む感じです。
    時代的には昭和くらい。

    ある村での出来事その村に年若い青年が2人、ふらりとやってきてもう一年が経つ。
    都市の近代化が進む中、未だに閉鎖的なその村では突然やってきたよそ者を警戒するそぶりも見られたが、今ではもうすっかり村の一員としてその二人は受け入れられていた。


    「燈矢~見て見て!!」
    ただっぴろい畑の真ん中で、サツマイモの束が連なった蔓を掲げて元気に手を振っているのがそのよそ者だったうちの一人だ。啓悟はいつも笑顔の絶やさない人好きのする青年だった。落ち着いた色の金髪は日に照らされるとふんわりと輝き、そこにいるだけで周囲の人間に安心感と笑顔をもたらした。
    「お~すげぇなぁ」
    そして、その泥だけの満面の笑顔で手を振られていたのがもう一人のよそ者、燈矢だった。燈矢は未だ一本目を掘り出せずに畑に座り込んで少し離れたところにいる啓悟に手を上げて応える。彼は啓悟とは真逆で自分から村人と交流を持つことに積極的ではなかった。だが、真っ白い髪に、村の若い女性たちは一度は見惚れるだろう整った顔立ち、常に気だるげな雰囲気を纏ってはいたが、不思議と冷たいという印象はなかった。
    2人の出自は謎に包まれていた。村人の誰もが2人がどこから来て、何を目的としているのかを聞き出せたことはなかった。もうひとつ、2人にはある変わった特徴があった。そう少なくはないが、もの珍しがられる生まれついて持った特殊能力。まれに、そういった能力を持った赤子が生まれる事がある。その能力は個性、と呼ばれていた。啓悟の背には赤い翼が、燈矢は掌から蒼い炎を出すことが出来たのだ。村人が最初に2人を警戒する一因となってもいた。だが、啓悟も燈矢もその個性を惜しみなく村のために行使してくれた。どんな嵐や大雪に見舞われても火や灯りに困ることはなかったし、迷子の老人や畑を狙う害獣からの被害を予め察知して予防線を張るのに一役買うこともしてくれた。

    村人は自分たちと同じように彼らを大事に大事に見守っていくことにした。
    仕事をしたいと相談されれば喜んで迎え入れ、野菜や食事のお裾分けをしたり、村の集まりには誘いをかけ、習わしや行事について丁寧に教えた。
    恐らく、2人はどこかから逃げてきたのではないかと村人たちは推測していた。個性をよく思わない集団もいる。また、時折ふたりの醸し出す雰囲気から、恋仲ではないのかと噂する者もいた。それが許されなくて逃げてきたのだと。
    その、後者の考えが噂ではなく事実であると知ったのはつい最近の事だった。野菜の収穫の手伝いを二人に依頼した畑を管理している年配の女性だが、彼女が燈矢から相談を受けたようだった。
    『指輪を買いたいんだけど、一番近い店、知ってますか?』
    村に宝飾店などない。だが、訪問販売として月に一度業者が来ることを伝えると次はいつ来るのかと聞かれた。どうして指輪など欲しいのかと控えめに尋ねてみたところ、啓悟にプレゼントするのだと、そんな返事が小さな声で帰ってきた。女性は業者に連絡を取り、いつもよりも種類も品数もそろえてもらえるよう頼んであげることを約束した。
    同性同士の色恋沙汰など、後ろ指差されるのが常だ。きっと、だからこうして二人はここにやってきたのだろうと、そんな認識で村人の見方が固まった。村人にとってはそんな二人の事情など些細な事だった。


    2人はとりあえず村役場の組合の一員として登録されている。燈矢は役場の雑務、啓悟は外回りをすることが大抵だった。その日、燈矢が休むことを告げたのは啓悟だった。
    「あいつ、今日は風邪気味で。季節の変わり目に弱いんだよなぁ。ま、その分今日は俺が働きますんで」
    いつも村内を移動する際にはその時の啓悟の仕事の相方が軽トラを出すのだが、その時に啓悟は少しばかり歳が上の先輩である村人にそんな事を言っていた。
    先日、春の嵐による倒木で村中停電になったことがあった。まだ肌寒い時期だ。そんな中、村中の家を一軒一軒回って火を分けてくれたのが燈矢だった。啓悟も付き添って、皆に声をかけてくれた。長い停電生活、備蓄の火種もすぐに尽きてしまう。だから、その蒼く熱くなぜかいつまでも消えないその燈火は人々に希望をも灯していった。個性を使うには気力体力も消耗すると言っていた。だからきっとそれが原因でもあるのだろうと、今回相方となった男性は啓悟に感謝と、申し訳なかったねとの総意を村人は伝えた。一方、啓悟の方は倒れた木々を片す作業や停電中の年寄りの誘導に尽力してくれた。
    異常気象の所為か、ここ数年、自然災害に見舞われることの多かったこの小さな村にとって、2人は密かに小さな希望として見出されていた。
    軽トラを運転していた男はふと、啓悟の首の裏、それから半袖でギリギリ隠れるぐらいの腕の位置に火傷のような痕を見つけた。それを指摘すると啓悟は「ああ、昔ちょっと……」とそれ以上教えてくれる気はなさそうだった。

    それから、指輪を薬指に嵌めた二人が寄り添っている姿を度々見ることになるが、村人たちは何を言うでもなくそれを微笑ましく見守っていた。暖かい日は河原の斜面に座り、膝枕されながら本を読んでいる燈矢の髪で遊ぶ啓悟の姿、風の強い日は寒い寒いという啓悟を羽ごと抱き込む燈矢の姿、子供にせがまれれば炎も羽も自由に操って見せてくれる。二人は買い物でさえ村から出ていくことはなかった。そんな二人を外に誘うでもなく、村人たちも村内で賄えるものはなんでも用意した。二人は時々、どちらかが家に籠って出てこないことがある。その理由を聞くのも無粋かと思い言葉を飲み込む者も多かった。


    この村の片隅には祠があった。厄災から村を守り続けてくれているそこには、村の人間が持ち回りで掃除やお供えをしているらしい。今回、その順番が燈矢と啓悟にも回ってきたため、部落の代表者が同行し手順を教えてくれるとの事だった。
    「ずいぶん外れにあるんですねぇ」
    途中までは車で、古びた鳥居より先は徒歩で。
    「村の守り神にしちゃあ扱いが雑じゃね?」
    燈矢がそう指摘したが、そんな事もない。こうやって代々手入れを欠かさず誰かしらが顔を見せている。しかし、それも言い訳になてしまうのだろうか。こんな寂しい場所に進んでくる者などいないのだから。
    祠の隣には大きな鉄の扉があった。その奥には洞穴があるらしい。
    この村の夏祭りにはここの神様を祭る意味も込められている。夏祭りにはこの何もない祠に続く一本道が屋台で埋め尽くされるという。
    「へぇ~楽しみだなぁ」
    「おまえ食いもんの事考えてるだろ」
    「他になんかある?」
    「俺の射的の腕前を見せてやるよ。あ、射的とかもありますか?」
    同行者は掃除をしながらの2人の楽し気な会話に相槌を打ちながら、その背景に見える鉄の扉を眺めている。それに気付いた啓悟も思わずそちらに目をやった。
    「この奥、何があるんですか?」
    それは村人のほとんどが知らない事だった。最後に扉が明けられたのは50年ほど前の話だという。だが、その詳細を同行者は知らないと言った。
    「そっか……」
    燈矢はその扉をじっと見つめながら、その口元を僅かばかり吊り上げた。


    ある初夏の日、梅雨の開けた頃だっただろうか。ひとりの男が村へやってきた。その男は身体つきががっしりとしている大男で、着ているものから上流階級の人間なのだと誰にでも解った。またよそ者が来たのかと村人たちは警戒した。その男は村人の一人を捕まえて、写真を見せながら聞いた。
    「失礼、探し人がいるんだが……この二人をどこかで見かけなかっただろうか?」
    その写真に写っているのはまさしく燈矢と啓悟の二人だった。
    「さぁ~……この二人がどうかしたんで?」
    呼び止められた村人は即答した。
    「一年ほど前から行方不明なんだ。こっちの、コレは俺の息子なんだが、それとその友人だ。何か少しでも心当たりがあるのなら教えて欲しい」
    村人は答えずはぐらかした。その大男は村に一泊するという。宿は予約済みの為、断ったら余計に怪しまれるかもしれない。村人は一旦、その大男に別れを告げると、村長はじめ村の重役たちに連絡を取った。それはすぐに行われた。狭い村内の連絡網は瞬く間にその情報を共有する。次の日、燈矢と啓悟は村人たちからの依頼を受け村のあちこちを揃って移動することになる。昨日来た大男の移動先とは真逆の位置へと誘導され、とうとう大男は2人を見つけるどころか、会うことも痕跡を発見することもできなかった。
    村人たちは啓悟と燈矢をその大男から完全に隠しきったのだ。
    大男が去っていた後の村の緊急会議で、その不測の事態が滞りなく収まったことを皆に伝えた。
    「すまないな。あと少しなんだ……」
    村長がそう呟いた。




    夏祭り。
    村の奥の祠の隣にある洞窟には神様が住んでいると言われている。そこに供物を備えるのがこの村の夏祭りのしきたりだった。
    この二人にとって初めての夏祭り。案内してあげようとかって出た近所の女性は浴衣まで用意して二人にあてがった。迎えに行ったとき、2人はすでにその浴衣に袖を通し、準備も万端の様子だった。白地に紺やグレーの柄でシンプルに彩られた浴衣は、柄違いとは言えど揃いで調和されている。
    「久々に着たな~」
    「俺はこんなちゃんとしたの着たの初めてかも。有難うございます」
    会話の端端から分かってきたことなのだが、恐らく、燈矢の方はそれなりにいい所の出なのだろう。以前訪ねてきた父と名乗る男からもそのような雰囲気が漂っていたのだという。対して啓悟の方はそうではない。着付けはきっと燈矢がしたのだ。
    けれども、もうそんな詮索は必要ないのだ。

    夏祭り実行役員の男性の車で、祭りの近くまで送ってもらった二人は、女性の案内で屋台をまわる。「もう食えねぇよ」と言われているにもかかわらず食べ物を買い込んでくる啓悟と、そんな啓悟にゆっくりついていく燈矢。燈矢は射的で見事商品に的中させ、人形を一つ啓悟に渡した。仲睦まじい二人の足取りを、その背を村人たちは見ていた。
    案内をしていた彼女は夏祭りの実行委員会の一員でもある。祭りの終盤で、祠へと赴き、供物をささげる儀式を行う。特に難しいものでもない。彼女の役割はただ、この二人をそこへ連れていくことだけだ。
    彼女の脳裏には、本日の祭りの手順を一通り話し合った後の、村人たちの会話が頭に反響してくる。

    とうとうこの日が来た……
    50年に一度の……
    特別な……
    無事、上手くいきそうでよかった……
    なぁ……
    なんだよ
    ……本当に
    今更……
    記録を読んだだろ?
    最近続いている災害を止めるには……
    そうだが……でも
    せっかくうまい具合に事が運んでいるんだ……
    あの二人には……申し訳ないが……
    行方不明者として登録されてるんだろう?
    だから隠したんだろ
    上手くやった……
    誰にも気付かれない……
    なんのためにこの村に囲って……
    今日のためだ
    ずっとここから出なかった、気づかれないだろう……
    でも……
    言うな……
    あんな、いい子たちを……
    もう決めたことだ
    でも……
    でも……
    でも……



    着きましたよ。
    女性は2人を振り返りもせず到着を伝えた。
    鳥居をくぐって、祠の前に辿り着く。重厚な扉が岩肌に取り付けられている。その奥は洞穴だった。その中を村人の誰もが見たことがない。
    目にしたことがあるとすれば、それは——。
    「これから始まるんですか?その祭りの儀式ってやつが」
    女性は頷いた。
    「へぇ」
    燈矢は先日目にした時と同じように、興味深そうにまじまじとその祠と鉄の重そうな扉を見つめている。
    そんな二人の背後には幾人もの人間が取り囲んでいた。二人は振り返る。見知った顔が何人も無表情で立っている。皆、震える手で農作業に使うための鍬や鋤や斧を握りしめている。男二人が、鉄の扉を少しだけ開く。数人の女性がその入り口に供物や県成仏を置いてく。
    2人の前に村長が立った。
    「君たちは人柱なんだ」
    静かにそう話し始めた。50年に一度、厄災に見舞われないように若い人間を生贄として差し出すという風習がこの村にはずっとあるのだと。個性を持っている人間だとなおよい。今、この村には個性を有している人間はいない。其処へ君たちがやってきた。君たちはおそらくいずこかから住処を追われてきたのだろう。だったら、ここでいなくなっても誰にも気付かれない。だから、申し訳ないのだが……。
    ごめんなさい。ごめんなさい。と人込みから女性の声が聞こえる。縄を携えた男性が一歩前に出てきたが悲壮な面持ちで涙を流していた。
    すると、その場には似つかわしくなく、非常に落ち着いた声がその場を収めた。
    「みなさん。落ち着いてください」
    啓悟だった。啓悟は村に来てから絶やすことのなかった穏やかな笑みを浮かべていた。燈矢がそんな啓悟の手を握る。燈矢の動きに縄を持った男性がたじろぐ。それを見て燈矢が言う。
    「炎も出さねぇよ。抵抗しない」
    騙された、と。嘘だ、と。泣いて、喚かれるものだと思っていた村人たちは、すっかり落ち着き払った様子の二人に唖然とする。
    「最初からこのつもりでこの村を選んで来たんだ。むしろ、お前らが俺らに利用されてたってわけ。俺のお父さん、来ただろ?追い出してくれてありがとうな」
    「俺たちはだいたいあなた方の予想通り、ここに逃げてきたんです」
    「あそこじゃ駄目だったんだ。あそこに居たら絶対にこんな風に二人で暮らせなかった」
    2人は手をぎゅっと握り合った。
    個性を恐れられて?身分違いの、同性での恋慕の情を疎まれ、反対されて?
    そうして、逃げてきたのなら話は分かる。でも、わざわざこの村の風習をを知って、それでも選んで来た意味が分からない。
    「もうひとつ、一番の理由は……」
    啓悟は言い淀んだ。そんな啓悟を見て燈矢は笑った。
    「俺。余命宣告されてんだ。もってあと数年。ここで過ごしてて環境が良かったのかだいぶ楽だったけど、最近またちょっと辛くなってきてさぁ」
    「……ふたりで静かにすごそうって、辿り着いた先がいい場所だったら、そこで人の役に立って、穏やかに暮らそうって、そう、決めてここに来ました」
    燈矢は風邪をひきやすいと言っていた。サツマイモ一本も掘り出すのに難儀していた。よく、啓悟の隣で眠っていた。燈矢が走っている姿を見たことがなかった。個性を使うと気力体力ともに消耗するという。それなのに、村中に火を分け与えてくれた。そしてそんな燈矢の隣にはいつも啓悟が付き添っていた。笑っていた。微笑んでいた。燈矢の体調を周囲に悟られないように振る舞っていた。二人はどこからどう見ても普通の、ごく普通に穏やかに幸せを謳歌している恋人同士にしか見えなかった。
    「祠の奥にはちゃんと二人で行きます」
    「だから、おまえらは何にもしなくていい」
    「優しくしてくれて、ありがとうございました」
    少しだけ開いた扉の前まで二人は歩き、そしてぺこりとそろってお辞儀をした。そうして真っ暗闇の洞穴の中へ足を踏み入れた。
    「おい、早く閉めろよ」
    最後に聞こえた声に触発されて、門の両側に控えていた男二人がその取っ手を掴む。二人は村長に目配せした。そして村長は呆気にとられながらも頷いた。ゆっくりと閉められていく鉄の扉。最後にその隙間から見えたのは、啓悟の肩を抱き寄せ、抱きしめ、こちらを射抜く蒼い瞳と、瞬時に二人を包み込んだ蒼い炎だった。
    そうして扉は閉じられた。

    もうやめよう……

    誰かがそう呟いた。




    それ以降、50年が過ぎてももう生贄や人柱をなどという人間はこの村には現れなかった。その代わり、そこには新たな神が祭られている。蒼い炎を司る神と、赤翼の鷹、この2神だ。供物をはその歳一番の作物や工芸品を祭りの時に供えられるようになった。それ以降、この村に大災害や飢饉などは起きておらず、火にも困ることはなかった。

    そう、この村には二人の守り神がいる。
    伝承は現代までそう残されている。


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    Ma2rikako

    DOODLE最近、入村という言葉をよく聞くので燈啓ちゃんを入村させてみた。
    特に大きな事件もなくたんたんと話が進む感じです。
    時代的には昭和くらい。
    ある村での出来事その村に年若い青年が2人、ふらりとやってきてもう一年が経つ。
    都市の近代化が進む中、未だに閉鎖的なその村では突然やってきたよそ者を警戒するそぶりも見られたが、今ではもうすっかり村の一員としてその二人は受け入れられていた。


    「燈矢~見て見て!!」
    ただっぴろい畑の真ん中で、サツマイモの束が連なった蔓を掲げて元気に手を振っているのがそのよそ者だったうちの一人だ。啓悟はいつも笑顔の絶やさない人好きのする青年だった。落ち着いた色の金髪は日に照らされるとふんわりと輝き、そこにいるだけで周囲の人間に安心感と笑顔をもたらした。
    「お~すげぇなぁ」
    そして、その泥だけの満面の笑顔で手を振られていたのがもう一人のよそ者、燈矢だった。燈矢は未だ一本目を掘り出せずに畑に座り込んで少し離れたところにいる啓悟に手を上げて応える。彼は啓悟とは真逆で自分から村人と交流を持つことに積極的ではなかった。だが、真っ白い髪に、村の若い女性たちは一度は見惚れるだろう整った顔立ち、常に気だるげな雰囲気を纏ってはいたが、不思議と冷たいという印象はなかった。
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