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    藻屑の倉庫

    @mokuzu_sv

    キャラ解釈と書き手の趣味(9割後者)によりR-18系のハサ主♀は結婚済・aoi卒業/成人済でお送りします

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    藻屑の倉庫

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    ハサ主♀(ハサオイ)

    Twitterアンケ:『人混みのせいか、aoiくんが倒れてしまいました!どうしましょう!?』→ひとけのない境内で休ませましょう(84%) の結果です

    『ご利益:夫婦和合/子授け』――――――――――






    倒れたアオイを抱きかかえ、ハッサクは境内に立ち入った。
    ひとけの無いここならば、縁日の人出に酔ってしまったらしきアオイを休ませることが出来るだろう。

    「アオイくん、お加減はいかがでございましょう」
    「……うぅ……」

    腕の中の少女は未だ気分が優れないようだ。
    暑気にもあてられたのだろうか体はじっとりと湿っており、その頬は赤く染まっている。
    ハッサクは痛ましげに眉を下げた。
    入学早々チャンピオンランクに上り詰め、数多の輝かしい功績を打ち立て続けているこの子の強さを、ハッサクは身に沁みて知っている。
    然れどもアオイはまだ子供だ。幼くちいさな女の子なのだ。そんな子が苦しそうに瞳を伏せて、我が腕の中で喘いでいるのだ。
    ——守ってあげねば。
    そう強く思った。
    今一度抱えた少女をしっかりと抱き直し、ハッサクは朱塗りの本殿に一礼をしてから石階段に腰を下ろした。
    階段に横たえようかとも思ったが、体調不良のこどもを石畳に寝かせるのも忍びない。
    しかし、こう抱いたままでは自分の体温でますます具合が悪くなってしまうだろうか……。

    ——ざわ。

    「……?」

    逡巡のさなか妙な風が吹き付けて、ハッサクの喉元に悪寒が奔る。
    悪寒、あるいは虫酸と言い換えてもいい。どちらにせよ不快な『何か』である。
    体の中で軽率に触れられたくない場所を無遠慮に撫で擦られたような気がして、ハッサクは思わず眉根を寄せた。

    「……ん……っ」
    「……アオイくん?」

    ふと、アオイが腕の中で身じろぎをした。
    起きたのではなかった。声を掛けてもアオイの瞼は降りたままだ。寧ろ何かに怯えるように硬く目を瞑っている。
    元から赤かったアオイの頬が、更に朱く色づいていく。

    「アオイくん、——アオイくん!? 大丈夫ですか!」
    「はあ……っぁ……、…ああ…っ!」

    腕の中でちいさな体が小刻みに震え、濡れた唇からは苦しそうな声が零れる。
    両膝をしきりに擦り合わせながら、アオイはハッサクの胸元に擦り寄った。

    「や…ぁ……ハッサクせんせぇ……っ!」
    「アオイくん! しっかりなさい! 小生はここにおりますですよ!」
    「だ、だめだよせんせ、こんなとこで、かみさまの前でぇ……わ、わたしたちまだそんな関係じゃ……!」

    あくむにでも魘されているのか、真っ赤な顔でアオイは譫言まじりに喘いでいる。

    「あ、ぁ、やだ、はいってきちゃ————あっ」

    緩んだ口から唾液がひとすじたらりと溢れ、肌に浮かんだ汗と混じって、ハッサクの浴衣にじわりと浸みる。
    びくん、と腕の中でアオイは一度大きく震えたあとに、ゆっくりと目を開けた。
    その眼差しの色を目にしたハッサクが何かを言う前に、



    「… … … … …くひっ」




    真っ赤な唇が引き攣れて、歪んだ。




    「アオ、————ッ!!」

    信じられない程強い力で体を大きく振り回され、ハッサクはアオイに引き倒された。硬く冷たい石の床にしたたかに背を打ち付け、ぐう、と呻く。
    アオイはハッサクの腹に馬乗りに乗り上げ、にんまりと嗤った。

    「……せんせぇー……♡」

    アオイを降ろそうと伸ばした腕は、簡単に搦め取られて地面の上に押さえつけられた。
    弱った子供の力ではない。いいやこれは、およそヒトの力ですらない。
    アオイの体を通して、名状し難き大いなるものと相対しているような怖気がハッサクの背を舐め上げる。
    アオイは——『アオイ』は馬乗りになったまま、鼻先が触れる程顔を近付けて、小首をかたりと傾いだ。
    そして零れた一言に、ハッサクは絶句した。

    「せんせえ、はっさくせんせ。だいて♡」

    ——は、と小さく息を漏らすことしか出来ないハッサクに、『アオイ』は続けた。

    「わたしねえ、アオイねえ、せんせーの赤ちゃんがほしいの」
    「せんせーのたまご、うみたいの」
    「だいすき、ねえ、ハッサクせんせい、せかいでいちばん、だいすきなひと……」
    「ねえ、ねえ」
    「だいて、せんせい」
    「せんせのこだね、ちょうだあい♡」

    甚平が着崩れ、薄く尖った子供の肩が月明かりに淡く照らされている。
    『アオイ』はハッサクの両手を片手だけで易々と頭上に縫い付けると、なまめかしい手つきで腹を撫でてくる。
    丹田がひどくむず痒かった。
    ねえねえと擦り寄りながら甘える声は、あまりにアオイそのもので、つい全てを許してしまいそうになる。

    ——だが。

    「お断り致しますですよ」

    ハッサクは『アオイ』を真っ直ぐに見つめて言った。
    どしてえ、と『アオイ』が首を傾げると、ヒョオ、とあの生温く不快な風が吹き付けて、やわらかな髪が風と一緒にハッサクの肌をくすぐった。
    縁日を回る前に頑張って結い上げたのだと、彼女ははにかみながら言っていた。
    どうして、と『アオイ』はもう一度言った。
    風が強くなった。
    ざわわ、ざわりと、境内を取り囲む木々の枝葉の擦れ合う音が、さざなみのように重なりながら、ハッサクと『アオイ』を取り巻いた。
    蒸し熱い夜である。
    風はやはり生温かい。
    だが。
    ——顔にあたる『アオイ』の吐息は、恐ろしく冷たかった。

    「返しなさい」

    その息のこごえるような冷たさと同じくらいに冷ややかな声が、ハッサクの口から零れ出た。
    風が吹く。
    木々がざわめく。
    不躾に耳の中を撫で付け、心を不用意に掻き乱すその音は、姿を見せぬ悪鬼羅刹のせせら嗤いそのものだ。
    だがその嗤い声を聞いてハッサクの中に生まれたのは、断じて恐怖ではない。
    ハッサクは『アオイ』を見つめた。
    年端のいかぬ少女とは思えぬ婀娜な目元に見つめられても、ひとかけの欲情も感じない。
    この内に沸々と溢れるのは、そう——。

    「返せ……」

    白目を埋め尽くすほど真っ黒な両目が、ぬらぬらと妖しく照っているさまを見つめながら、吐き捨てた。

    「アオイくんを、————小生のたからものを、返せ……!」
    「、————ッ!」

    奔流のように溢れる激情に身を任せ、ハッサクは自分の両手を頭上で押さえつけている『アオイ』の手を跳ね退けた。
    間髪入れずに肩を掴み、今度はハッサクが『アオイ』を苔むした地面に押し倒した。
    か細い首をわしりと掴む。
    大の男に押さえつけられても『アオイ』は少しも怯えたそぶりを見せなかった。ただ驚いた様に目を丸くしたのみである。
    黒い瞳が月明かりを受けててらりとした光を纏う。
    全くあの子の目の色ではなかった。物理的な色素の問題ではない。
    ハッサクはそれを睥睨しながら声を絞った。

    「……この子に、何をしたのですか」

    この小さなからだに秘めた、力強く輝かしい生命のエネルギー。
    それに彩られたアオイの瞳はこの世の何より美しい。
    今己が見下ろしている空洞のような目とは全くの別物である。
    ハッサクはアオイの中に『何か』がいることを確信していた。
    その『何か』が何者なのか、その目的がわからずともどうでもよかった。未知なるものと相対する恐怖もこれっぽっちも沸いてこない。
    ハッサクの心を制圧するのは、ただ大切なものを奪われたという烈しい怒り。
    ただそれだけである。

    「『あなた』、この子ではないでしょう。……何が目的か知りませんですが、今直ぐこの子を解放なさい。さっさとアオイくんの体から出て行きなさい」

    煮え滾る臓腑に反して冷えきった声は低く、低く、地の底よりも低く、殆ど獣の唸りのようだった。
    『これ』はアオイを苦しめている。
    大事な生徒を。か弱きこどもを。
    宝物のようにうつくしいこの娘を。
    それだけでハッサクが敵意を向けるには充分すぎる理由だった。

    「……」

    『アオイ』から表情が消えた。媚びたような笑みが無くなる。
    『アオイ』は闇の中にぎらりとかがやく獰猛な目を見上げ、
    ——目をぱちくりと瞬いて、言った。



    「……。なんじゃ。めおとではないのか、おまえたち」



    「……。……は?」




    ……ハッサクもまた目を瞬いた。
    『それ』はもはやアオイの声ではなかった。女のようにも男のようにも聴こえる。
    だがその不可思議な声そのものに気がいくまえに、ざわりとまた木々が哭いた。
    ざわめきに混じって声がする。鼓膜を通さず、直接頭の中に響いてくる——。



    (イウタロ マダワラベジャト)
    (シカシ コノモノラ タマシイガ ヒッツイテオルゾ)
    (メオトデナクバ アリエヌホドニ)
    (ダガマダウメヌ ハラメヌ ナンジャ ツマラン)
    (エイユウノ胎 ジャ)
    (リュウノ 血 ジャ)
    (マッコト ■■■■■サマノ ウツワニ フサワシキ)
    (ツガイジャ メオトジャト オモウタノニナア)
    (クチオシヤ)
    (クチオシヤ……)


    「あな、くちおしや」

    『それ』はハッサクを見上げながらはふうと冷たい吐息を吐き出した。

    「このむすめがもうちとうれたら、またこい。竜の子よ」
    「——な」
    「さらばじゃ」

    ザア——、と、何度目かの風が吹く。
    くちおしや、くちおしや、未練がましく尾を引くように何度も頭のなかに纏い付く声を振り払うように、ハッサクは一度大きく吼えた。
    闇の支配する境内に、何度かドラゴーン!と己の声が木霊して、あたりを彷徨していたうろんな声を掻き消した。
    ……今のは一体何だったのか。アオイのあの変わりようは、アオイの体に『降りていた』モノは。……夫婦だの番だのとあれらは言った。鬼退治の英雄を祀る地には縁結びの加護があると聞いた覚えはあるが、よもやその由縁は『ここに来た男女は結ばれる』という可愛らしい伝承ではなく、『ここに来た男女に強制的に契りを結ばせる』というなんとも迷惑極まりない現象ではないか……などと邪推してしまいそうになる。


    「……う」
    「! あ、アオイくん! 大丈夫ですか!」
    「…………せんせい……?」


    うっすらと目を開けたアオイの瞳がいつもの色に戻っていたのを確認すると、ハッサクはほっと安堵の息を吐く。
    はたして今のは鬼か蛇か、神か魔性か知る術も無いが、よからぬモノからこの子を守れた。アレの正体はわからずとも、一先ずはそれだけで充分だ。

    「は……ハッサクせんせい? ……あれ、わたしなんで先生と……」

    アオイはぱちぱちと大きな目を瞬く。
    朝焼けの海の色をした美しい瞳に見つめられると、込み上げる安堵と喜びを押えられずに、

    「アオイくん……! よかった、あなたなのですね!!」
    「えっ、……ひゃあっ!?」

    ぎゅう、と彼女を抱き締めた。今の彼女がどんな有様で、自分たちがどんな体勢でいるのかも忘れて。
    自分の下で、着物をはだけさせたアオイが焦った声を上げているのも気付いてやれずに。


    「よ、よかった……! 一時はどうなることかと思いましたですよ……!!」
    「せっ、せせせ先生!?だだだだめですようこんな所で!!あっなんか思い出しそう!そ、そうだ私お祭りで倒れて…せんせいに境内に連れてきてもらってそれから、先生に角が生えたり二人になったり前から後ろからアレやソレやされて…ああっ、私は世界一幸せで罪深いサンドウィッチの具材!!」

    『あれ』に体を奪われている間妙な夢でも見ていたのだろうか、ひどく混乱しているアオイを何とか落ち着かせてから、二人で宿舎に戻った。


    ——アオイの着衣の乱れやら、その肩や首に残った手の痕を見たフカマル先輩にハッサクがテラバースト(こおり)されたのは、また別のお話。



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