covers 1 ふと会いに行こうと思い立ったのは本当に偶然で、もしかしたらそれを運命と呼ぶのかもしれない。
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「すみません、予約してないんですが」
「構いませんよ、どうしまし……律?」
ノックの後、聞こえた声は思い出のまま。胡散臭い営業用の笑顔。記憶と違うのは、眼鏡をかけていることと、ガラス越しに見える目尻の薄い笑い皺。
「霊幻さん。…少し相談をしたいんですが。今から1時間くらい空いてますか?」
「今日はこの後予約無いよ。なんか飲むか?」
「…コーヒーで」
「カフェオレな」
最後に事務所に来たのは5年程前だった気がするが、見回してみても記憶と大きな差異はないようだ。
グレーのスーツと、山吹色のネクタイ。明るいネクタイが何故か様になるところも、律が疲れた様子だとコーヒーを頼んでもカフェオレにされるところも。
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