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    にしな

    @P15_44C

    🔞吐き溜め

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    にしな

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    監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃんと、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語の序章。多分。ウツボとライオンが出てくるはず。

    #twstプラス
    twstPlus
    #twst夢

    地獄の門は閉じている➀ 最寄り駅のトイレでコンタクトレンズを直していて、あまりにも汚い鏡のせいで手こずっていたとする。小さい駅だ。路線は上下の二本、改札は流石に自動化されているし、かろうじて駅員も数名いるけれど、どちらかと言うと田舎寄り。交通の便はお世辞にもいいとは言えないような、そんな場所。
     で、そんな駅の最終電車が過ぎ去ったくらいの時間。家に帰るのが何だか億劫で、友達と遊んで帰って、もう少しくらい夜更かししてやろうって思ってた。あんまり遅いと怒られるんで、ギリギリを責めてやろうって。帰り際に寄った駅のトイレで用を済ませて、親から連絡が来る前に帰ろうって、正にそんなタイミング。
     やたら汚いトイレの鏡は壁に埋め込まれている嵌め込み型だった。珍しくもない、縦長サイズのそれは、今日に限ってめちゃくちゃ汚く見える。と言うか汚い。掃除くらいしろよって悪態を呟いて、それで、鏡は怒ったんだと思う。多分。
     鏡に感情はねえよって思うし、今なら冷静じゃなかったと胸を張って言える。でもその時はそう思った。何せ覗き込んでいた曇った鏡が、突然キラキラ瞬いて、パキッとひび割れたもんだから。え、って言葉を飲み込んで、ついでに割れた鏡は眩い光を放って、視界があっという間に真っ白になって。
     それで、鏡は私ごと飲み込んじゃったらしかった。


     ドシャッと嫌な音がして体が放り出される。奇妙な浮遊感。地面に体を打ち付ける鈍い痛みが後から襲ってくる。反射で手を付いた地面はコンクリート。でもって水溜りの中にいた。え、って思う前にバケツをひっくり返したような、正に滝のような雨がダメ押しで襲ってくる。
     駅のトイレにいた。田舎と言い切れない、でも都心に近いわけでもない、そんな小さい最寄り駅。で、鏡を見てた。ズレたコンタクトレンズを直そうとして。そこまでは普通だったのに、なんで今、外にいるんだ。
     状況整理が追い付かないまま、雨に打たれてコンタクトレンズがどこかへ流されて、視界がちょっとぼやける。雨で濡れる顔を袖で拭った。辺りを見回して現在地を確認する。見慣れない路地は薄暗くて、まさか駅があの短時間に爆弾で吹っ飛ばされたってわけじゃない事を悟った。左右を高い壁に囲まれている。何かの建物だろう、煉瓦作りの壁だ。小さな駅はそんな小洒落た造りじゃなかった。
     頬を抓る。右手で思い切りグリッとやって、ちゃんと痛いのを確認した。夢じゃない。そうか、悪い夢じゃないのか。或いは見知らぬ誰かに気絶させられたとか、白昼夢を見てるんだとか、色々考えて抓ったけれど、どう頑張っても抜け出せない。
     雨で服はぐしょ濡れ。何なら鞄や携帯は駅のトイレの、小さい棚の上に置き去り。何かないかとズボンのポケットを探って、出てきたのは数分前に舐めてた飴の包装紙だけだった。棒付きのそれは舐め終えたばかりだし、何の変哲もないその紙に、暗号の類や謎のメッセージが浮かぶなんてこともない。
     拭っても拭っても大量の雨が顔をすぐ濡らすから視界は最悪だった。服の裾を絞りながら、どうにか立ち上がってみる。上を見て、横を見て、ついでに後ろを振り返る。それでようやく、自分の真後ろがゴミ溜めだと気づく。すぐ足元、ゴミ袋から飛び出た少し大きい姿見の一部が、粉々に割れているのにも気づいた。鏡は小さな破片になって雨に打たれている。
     何故か濁った破片の一部をまじまじ見つめて、もう一度雨空を見上げた。嫌な予感がする。というか、そんな突拍子もないことを考えたくもない。どんなラノベだ、どんな異世界転生小説だ。自分の妄想に寒気がしてきて身震いした時、細長い路地の先で黒い影が足を止めた。らしかった。
     濡れ鼠も憐れむ様相の私へと視線が注がれる。ゆっくりした足取りが細い路地の奥へと向かって歩いてきて、それで、目の前で止まる。大きな傘が少しこちらへと差し出されるから、ようやく滝のような雨から逃れられた気がした。
    「こんばんは。こんな天気の日に、傘も差さず、どうしたのかな」
     柔らかい声が落ちてくる。随分背の高い影をゆっくり見上げて、声の主の方へ顔を向けた。蓄えた顎髭がサンタクロースみたいだな、なんて思ってすぐ、その頭に見慣れないものがくっついていて言葉を失う。人だと思った。二足歩行だし、言葉を話したから。
    「お友達かご両親は? 近くにいないのかな、もしかして、迷子かい?」
     黒い服に身を包んだその男が、胸ポケットから白いハンカチを取り出して手渡してくる。視線は男の、側頭部から生えた硬そうな角に釘付けだった。立派な角。ヤギみたいな角。男の首で十字架のついたネックレスが揺れている。
     ヤギ角を頭にくっつけた妙な男は、柔らかく微笑んでハンカチを私に手渡し、傘の中に入れてくれる。ビックリして後退った。踵がゴミを蹴っ飛ばして、ついでに割れた鏡を踏んだ。
     これが人生最悪の日。あの日、鏡に吸い込まれて異世界にすっ飛ばされ、ヤギ頭の神父に拾われた、この世界で最初の出会いを果たした日の話。


    ◆ ◆ ◆


     カソックのような服だなと思っていたヤギ頭の正体は正に聖職者だった。何なら教会に連れて来られて手厚い保護を受けたので、不幸中の幸いだったように思う。これですっ飛ばされた瞬間、極悪非道な殺人鬼とかに出会っていたら即死案件だった。
     児童養護施設的な役割も果たしている、慈善事業団体のそれに近い。定義は向こうの世界もこちらも変わらないんだな、なんて拾われて三日後にはそんな具合に、冷静に状況を把握できるくらいの知性は戻ってきていたように思う。未だ自分に起きた出来事は全く理解できないのだけど。
     神父はその肩書に見合う程の善人(善ヤギ)で、教会にいる訳ありの子供たちと同じように私を保護し、文字通りこの世界での保護者になった。
     茫然自失で殆ど言葉を喋らなかった私を前に、神父は都合のいい解釈で勘違いをし、結果「雨の日にゴミ捨て場に放置された捨て子」という認識になったらしい。育ての親について話を聞きたいと言われたが、そんなもん話せるはずもない。この世界じゃないところから突然すっ飛ばされてきたのかもしれない、なんて仮説は自分で言っていて噓くさいし、適当な事を言うより黙っていた方が得策な気がしたから。
     結果として事はそれなりに上手く運んだ。でもって教会にある膨大な書籍と、世話焼きなシスターのおかげで、ようやくこの世界のことを知るきっかけにもなった。
     ツイステッドワンダーランド。捩じれた時空を三段飛ばしくらいで超えて、すっ飛ばされてきたこの世界の名称。魔法なんて言うファンタジーなものが当たり前のように存在し、当たり前のように妖精なんてものが日常生活に跋扈する。そういう世界。
     こちらに来て二週間、すっかりこの状況を諦めてしまった私を前にして、神父は深刻そうな顔で「君から魔力を感じないんだ」と告げた。
    「君を路地で保護した日も思ったんだ。あの時は枯渇状態かと思っていたんだが、今日まで君の魔力は一切回復していないし、少しの魔力も感じない。こんなことは初めてでね」
     そりゃそうだろうな、だって元々持ってないですしお寿司。
     私の内心はそんな具合で楽観的だったのだけど、神父はそれをとても深刻な問題だと捉えていたらしい。所謂ネグレクト的な、幼少期に受けた深刻なストレスが原因で魔力が消えてしまったか、或いは覚醒が遅れすぎているのかもしれない、と勝手に色々推測した。深くは聞かないよ、と優しい声で告げるものだから、まさか異世界からすっ飛ばされてきたせいで、なんて話はできなかったのだけど。
     この世界は魔力の存在が絶対だ。魔法が使えなければ日常生活に支障をきたすし、どんなに小さい子供だろうと、生まれたての赤ん坊だろうと、誰しもが生まれながらにして魔力を保有している。稀に先天的な要因や両親の遺伝で、通常より発達の遅れた子供がいるらしいことはあるにはあるのだけど、それも極々一部の話らしい。
     どんなに発達が遅れようが、どんなに微弱だろうが、個々人の魔力が一切感知できない、なんてことは例外が無い、とのことだった。そりゃそうだ、私はこの世界の住人じゃない。この世界で生まれてすらいない。魔法なんざ生まれてこの方、見たことも使ったこともない。
     見たところ十六歳くらいかな、と神父は私の手を取った。祝祭日のミサを終えたその足で向かう先、知り合いに腕のいい医師がいて、と語る先は大きな病院だ。早めの治療がいいだろうとのことで、精密検査ついでに連れてこられた先、知り合いの医師とやらは深刻そうな顔で「奇病だな」そう言った。失礼だな。
    「神父様は君から魔力を殆ど感じないと言ったが、残念ながら殆どどころか全く感じない。少しの魔力も検知できなかった。それも精密機器を通しての検査でだ」
     そりゃそうだ、だって持ってないんだもの。
    「恐らく幼少期の、ご両親によるトラウマが原因だと思う。飽く迄推測に過ぎないけど、君は心身を守ろうとして、防衛反応が過剰に起こってしまったんだと思う。魔力と共に記憶を抑え込んで、封印してしまったような状態かな」
     医師とやらは神父同様、昔の話を無理に話さなくてもいいと言った。過去の記憶やトラウマを乗り越えてこの封印状態をどうにかする、なんて治療法はまだ確立されていないどころか、専門家さえいない。特効薬もなければ明確な治療法も手探り状態だと告げながら、医師はそれでも力強く手を取った。逆の手は神父が優しく包んでいる。
    「この年まで君が虐げられてきたことも、魔力が定型発達者のように上手く成長しなかったのも、君のせいじゃないんだ。そこだけはわかってほしい。君は何も悪くない」
     未知の病を前に、何もできないからと言って逃げ出す医者はいない。そうとも語って医師とやらは、長期化するだろう病の治療に尽力すると告げた。君を治したい。少しでも魔力が回復し、前を向いて歩める手伝いをしたい。そう言った。
     ぶっちゃけその思考と患者に寄りそう姿勢は凄くいいと思ったし、神父の知り合いで医師と名乗るからには善人だろうとは思った。思ったんだけども、治療法は多分見つからないだろうと知っている。何故なら病気ではないからだ。元々無い物が感じられないのはごく当たり前だし、魔法のない世界から来ているのだから至極当然なのだ。大変申し訳ない。
     意気込みを語った医師を前に、何も言わずにいた私の頭を撫でてくれた神父が、その生まれ持った善性を最大限発揮し、この治療に助力すると語ったのもすぐだった。
    「学校に通わせようと思っていてね。十六歳なら丁度高等学校の年頃のはずだ。物覚えは悪くないから、基礎学力くらいはすぐに身に付くはずだ」
     知り合いに高等学校の理事長をしている男がいて、と神父は医師との話の中でそう言った。どんだけ顔が広いんだ。
     魔力回復の治療と同時並行して学園生活を送り、同世代との交流の中で何かしらの刺激を受ける方がいいと思ったらしい。神父の中でどうやら私の過去は最大限に過酷なものに誤解されているようだった。そりゃそうだろうな。
     治療の為にまず既存の投薬から初めてみて、それで体が慣れてきてからの入学がいいだろうと、これまた善性を爆発させた医師が乗っかってくるものだから大変だ。行きたくない、教会でのんびり過ごして、図書館とかでどうにか元の世界に帰る方法を探りたい、だなんて言えそうもない空気にされた。この野郎。
     学園はこの世界でいう離島にあると言う。移動には特殊な鏡を使用するから、公共交通機関で何度も乗り換えなくてもいいと聞かされた。その鏡を使う為にも、微小ながらの魔力が必要だと言う事も知った。
     そんな辺鄙な場所にある全寮制の高等学校は所謂名門校。ナイトレイブンカレッジ、通称NRC。既に入学の時期は過ぎ、同学年の生徒は入寮を済ませているらしい。治療と並行して時季外れの編入扱いになるけれど、と神父は医師を訪れたその日の夕方、早速電話で学園長に掛け合って入学許可を取り付けた。
     事情を聞いて学園長は快く編入を許可したと聞く。治療と並行して過去に類を見ない奇病の研究、治療に成功すれば多額の報酬が、なんて口八丁手八丁も聞こえた気がしたけれど、耳が遠いふりをした。壁一枚を挟んだ向こう側、神父がほっと一息ついたのを聞いて、ついによくわからない世界の、よくわからない全寮制学園編入が決まったのだと、色んな事を諦めた。
     本来NRCへの入学は「闇の鏡」とやらによる選抜で行われる。でもって入学の際は黒い馬車が迎えに現れるとも聞いた。どっちの手順も踏まず、まして魔力のマの字もない異世界すっ飛ばされ女が、まさかとんとん拍子で編入を果たせるとは思わなかった。裏口入学とは正にこのこと。
     この世界に来て二ヶ月と少し、編入を果たしたその日に渡された制服のベストは濃い紫色。入学と同時に「闇の鏡」によって選別される寮に関しても、学園長の計らいがあったと聞く。というか心配性の神父のお節介により、比較的まあ協調性がありそうな寮に入れてもらったらしい。全部後から聞いた話だ。
     青紫の魔法石を埋め込んだマジカルペンを胸ポケットに差し、ポムフィオーレ寮の前で深呼吸する。通常相部屋らしい寮部屋は、なんと幸いなことに変なタイミングでの編入のお陰で一人部屋だと告げられる。というか治療の関係でその方がよかろうと勝手に判断されたらしいともシスターが話していた気がする。
     全寮制の閉鎖空間。離島の学園NRC。四年制のここを卒業するまでに、どうにか元の世界に戻る方法を模索したい。最悪帰れなかったとして、この世界で生きていく術を身につけてやろう。
     そう心に決めた初日。この学園が全寮制男子校だと知ったのは、この直後だった。
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    にしな

    MOURNING初代ちゃん(監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃん)と、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語。多分。ウツボとライオンが出てくるはず。
    地獄の門は閉じている③ にこやかに微笑まれても、どんなに丁寧な物腰で声を掛けられても、その手を取ってはいけない。後から対価として何を要求されるか知れないから。それが例え死を目前にした危機的状況であっても、まずはよく考えることだ。
     その相手が、人魚であるなら尚更、警戒を解いてはいけない。


    ◆ ◆ ◆


     用心なさいと誰かは言った。誰だったか知らないが、確かにそう聞いた。
     慈悲の心だなんてそんなものを掲げるくせ、弱肉強食を素で行く彼らであるから、決して取引してはいけないと。同じ学年のたかが学生を相手に対し、なんて恐ろしげな肩書が出回っているものだと思った。それもまだ、入学間もない一年生を相手にだ。
     無法地帯にも等しいNRCだが各寮には一応その寮ごとの取り決めがあり、その寮ごとに掲げる座右の銘的な、指針的なものがある。その特性に見合った生徒が鏡に選ばれ、なるべくしてなるのだったか、つまりはそういうことだと暗に諭された。通常の入学とは違う手順を辿り、例外としてポムフィオーレに名を置く一人は別であるのだけど。
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