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    にしな

    @P15_44C

    🔞吐き溜め

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    にしな

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    監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃんと、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語の序章。その2。ウツボとライオンが出てくるはず。

    #twst夢
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    地獄の門は閉じている②「いいニュースと悪いニュースがある、どっちから聞きたい?」
     二本指を立てた金髪碧眼の美男子が言った。人好きのする屈託のない笑顔でこっちを見つめ、甘く細めた瞳を一つ二つ瞬かせる。テーブルに置いたコップには暖かいミルク、皿の上には美味しそうなホットサンド。パンの間から具材が零れるくらい分厚いそれを片手に取って、画面の中で彼は笑った。
    「じゃあ、悪いニュースから」
     どっちも聞きたくないんだけどなって言葉は、画面の向こうには届かない。そりゃそうだ、彼が語りかけているのは向かいの席に座る女優にだし、私は画面越しにそれを眺めるただの観客。オーディエンス。背中に花でも背負ってるんじゃないのかってくらい爽やかに、彼は口元をゆっくり撓ませている。さっき食べたホットサンドのパンくずさえ美しい。
     青空から強い太陽光が照り付けているテラス席だ。強すぎて肌が焼かれそうなくらいの、そんな眩しい画面でさえ味方につけて、彼は食べかけのホットサンドを持つ手をテーブルの端に置いた。
    「先週から君を付けてる男がいる」
     俺じゃないよと続け様にカラカラ笑って、彼は空いている片手を上げた。肩を竦めて見せながら、白旗を振るみたいにして紙ナプキンを取る。コップの縁いっぱいのミルクに口を付けて喉を潤し、それから「後ろの席にいる彼、」と視線をズラす。彼の視線に釣られて画面が後方を振り返り、後方の席で新聞を広げる男を映した。
     鼓膜には「親戚のひと?それとも元カレ?」なんて当てる気のない選択肢が囁かれ、やっぱりその後ですぐ「どっちでもないんでしょ、知ってる」と笑い声が上塗る。小鳥の囀りがセリフの合間を綺麗に縫った。ミルクの湖面に反射した光と、テラス席を彩る美しい花々に画面が流れる。本当に悪いニュースだ、と彼はホットサンドを平らげてから、盛大に背凭れに寄り掛かった。
    「全然知らない男だ、そうだろ。…あいつも、俺も、君は知らない」
     名前も顔も覚えがない、そうだろ。さも当然のように言って、美しいかんばせを緩める。途端に恐ろしい存在にしか見えなくなった彼を呆然と見つめ、苦しいくらいの沈黙を挟んでから、画面は突然暗転したのだった。


     そこまでを頭の裏側で思い出す。現実逃避終了。
     で、現実逃避を終えた瞬間、ついでに私の視界もグルリと360度回転したし、体はちょっと宙に浮いた。車に跳ね飛ばされて地面に体を打ち付けるような、そんな感じがする。
     こちらの世界に飛ばされてきた最初の時、鏡に吸い込まれて鏡から吐き出された、路地裏のあの日を思い出した。ドシャッと水溜りに体を打ち付けたあの日。少し違うのは、鈍い痛みを段々頭が知覚して、それから遅れて頭痛と耳鳴りが襲ってきたこと。
     顔が熱い。頬が痛い。口の中が切れたらしく、鉄っぽい味がした。ドロリと、一拍遅れて鼻の奥から温い液体が滴り落ち、唇を濡らした。


    ◆ ◆ ◆


     男のくせにだとか、名門校に裏口入学してきた卑怯者がだとか、そういった罵倒は割とある。こう言っちゃなんだが、名門校に所属する割に生徒の柄はちっともよくないのがNRCだと知ったし、何なら寮ごとの派閥争い的なものは毎日のように起こる。君たち喧嘩しかする事ないのかってくらい日常茶飯事だ。
     プライドは最高峰。自我の形成と魔法の使い方ばかりは一丁前なもんだから、喧嘩が始まったら一筋縄ではいかない。破天荒なんて言葉で収まらないくらいの暴れん坊があちこちに放し飼いにされていて、学園もある程度は放任主義を貫いているせいもあって、余計に事態は悪化の一途。流石に器物破損だとか、学内の壁を破壊しただとかになれば教師も黙ってはいないのだろうけど。
     彼らもただの喧嘩好きのバカじゃないので、どこまでやったらアウトかセーフかを探るようにはなったらしい。だからこそ、こうやってこそこそ教師の目につかないように変な配慮のある悪餓鬼に限っては、人気のない教室で多勢に無勢を仕掛けるわけだ。
     で、私は別にこの手の嫌がらせ行為を受けるのは初めてじゃない。入学が通常より二ヶ月遅れの編入、でもって裏口入学。魔力は皆無。前例のない奇病を治療中。寮では異例の一人部屋。そりゃ彼らにとってはいいカモでしかない。
     日々の鬱憤の捌け口。或いは目に付いたから。思春期特有の暴力衝動。理由は尽きないのでもう聞くのもやめた。編入からひと月とちょっと、医師と神父の賢明な治療の成果は出るはずもない。残念ながらこれっぽちも魔力の宿っていない私は、彼らから盛大な歓迎を受ける羽目になっている。

     とは言え奇妙なことに、治療の為に送られてくる錠剤と静脈注射キットは、どうやら微塵の魔力も持っていない私に不思議な力を与えてくれてしまった。らしい。憶測に過ぎない。
     治療開始から数日後にはほんの少しだけ魔力が宿り、多少の魔法を使える事が判明した。それもこれも、錠剤と注射に含まれる神父の魔力のおかげである。元来全く魔力耐性のないはずの私の体を、そんな突拍子もない事態に耐え得る体にしてしまったのが、これまた仕事熱心な医師のせいでもあった。
     医師の持つ魔力は対他者にしか作用しない。身体能力や細胞の活性を促す力があるとのことで、治療の為にとその効果を錠剤に含ませていると聞いた。そのおかげで多少の魔力を蓄えられる体と、一時的に魔法を使えるバグが起こってしまったらしかった。
     全部憶測に過ぎない。詳しい検査は二ヶ月先だし、少し魔力が使えるようになったと報告すれば、医師も神父も凄く喜んでいたので、どうやらこの治療はまだ続きそうだ。何の病気でもないのだけど。
     幸か不幸か、この錠剤と静脈注射のおかげで日常生活に支障の無い程度の魔力は使えるようになったし、クソみたいな奴らの中でも勉学に励んだおかげで、何とか日々の授業はやってこれた。問題なのは休み時間だとか昼休憩だとか、放課後自由を手にした野蛮人共に絡まれることくらいで。


     昨日帰ってから見ていた映画のワンシーンが脳裏を過って、束の間の現実逃避は痛みによって終わりを告げた。鼻の奥の粘膜がヒリヒリする。明滅する視界と耳鳴りの中で顔を上げれば、全然見たこともない糞餓鬼がそこにいた。黄色のベストが視界に入る。サバナクローの寮生だとわかってから、ゆっくり床に手をついて体を起こした。
     頭上に掲げた獣耳、揺れる尻尾。見下ろしてくる視線は威圧的で、いかにも鍛えてますといった分厚い胸板と太すぎる腕を順に見る。握った拳の甲の部分に擦れた小さな傷があった。どうやら私は見ず知らずのサバナクロー寮生に裏拳を食らったらしい。人気のない教室の入り口で、わざわざ声を掛けられて。
    「なんだよ、ちょっと挨拶しただけでこれとか、マジで弱っちいなお前」
     挨拶ってなんだ、どんな斬新な挨拶だ。生憎とこっちの文化には、出会って数秒の相手の頬を裏拳で殴るような、そんな挨拶は存在していない。
     もはや彼らが先輩なのか同期なのかもわからなかった。学内でもしかしてすれ違っていたかもしれないし、ついさっき目が合っただけとか、そんな事かもしれない。マジで覚えがない。
     サバナクロー寮に所属する生徒は特に独特で、彼らなりの独自過ぎる出迎えの儀式があるらしく、ここ数日はこの有様である。ちょっとここまであからさまに過激なものは初めてだったし、殴られて鼻血を出すなんてのは人生でも経験がなかったが。
     ボタボタ垂れ落ちる鼻血が床を汚す。これ普通に雑巾で拭いて落ちるんだろうか。ずずっと鼻を啜りながら袖口で鼻の下を拭った。クリーニング代が高いから、もう最近は汚れっぱなしの制服のまま出歩いているせいで、ちょっとシャツが埃っぽい。逆の手で床を押して立ち上がろうと踏ん張ったら、投げ出した太腿の上に靴が乗っかった。硬い革靴の裏側グリグリ、制服越しに骨を踏みつける。
    「魔力も殆どねえんだって? よくお前、ここ入れたよな。あーなんだっけ、シンプサマってやつに、泣きついてお膳立てしてもらったんだって?」
     孤島にある全寮制学園は文字通りコミュニティが狭い。あることないこと、噂話はあっという間に広がるし、余計な背鰭も尾鰭もくっついて独り歩きする。誰が言ったか知らないが、多分これも噂のひとつとして広まったに違いなかった。だって私は誰にも治療のことだとか、境遇だとかを話したことはない。話せる友人も残念ながらいない。
     ひとの足をゴミみたいにグリグリ踏みつけながら、そいつは凄く気分がよさそうに笑っている。悪役もびっくりの顔つきで、ご自慢の立派な爪まで見せてきて、巨体をつかってゴミを潰そうとしているみたいに。
    「俺らはさあ、お前を心配してやってんだよ。弱っちくて小さいお前が、こうやって簡単に吹っ飛ばされて殺されねえよう、鍛えてやってるわけ。わかるだろ? 優しい先輩に出会えて嬉しいだろ? なあ?」
     あ、先輩だったんだ。そうだったんですね、今知りました。
     鍛えてやってんだから、さっさと立てよ。ありがとうございますだろうが。そう言って先輩と名乗ったそいつの爪先が、思い切り顎下を抉ったもんだから、またしても視界がグルンと回った。ついでに鼻血が盛大に床に血溜まりを作る。この制服、もうダメかもしれない。
     床に這うようにして噎せた。思い切りゴホゴホやっとけば、大抵のやつらはやりすぎたと焦って引き下がる。鼻血も結構出ているし、演出にはピッタリだと思ったのだけど、今日の輩はそんなものでは気が済まなかった。デカいなと思っていた先輩をチラと見上げて、巨体の理由が何となくわかった。熊だ、この先輩、熊の血が入ってる。
     肉食獣の血が入った生徒がサバナクロー寮には多い。と言うか、血の気が多い奴らが集っているので、大体学内の揉め事の中心には彼らがいる。誰も好き好んで近づこうと思わない筆頭であるし、こうして今、横行する理不尽の餌食になっているのだから、今日はついてなかったのだ。
    「新しい制服も用意してもらわねえとだろ?今着てるゴミ、捨てやすくしてやるよ」
     尤もらしい言い訳を並べた熊の声が、随分近いところに落ちた。え、と思うより早く、バリバリッと布地の裂ける音がすぐそばで鼓膜を打つ。少し遅れて、背中を焼くような痛みが脳天を突き抜けた。
     息が詰まる。ぶわり、脂汗が浮かんで額を濡らし、髪と鼻血を肌にくっつける。
     背中全体を覆う灼熱。激痛を引き連れて肌を焼く、未知の感覚。視界の端に制服だったものの残骸が見える。先輩の高笑いと下品な声が耳鳴りの奥でくすぶり、制服を破いた彼の爪が血を纏って空を切る。頭が真っ白になった。

     ビシャッと鼻血に劣らない量の血が床を濡らす。殺人現場宛ら、かろうじて前面に残る制服と体を真っ赤に染めて尚、それは止まらなかった。ドクドク心臓が脈打って痛い。熱した鉄を押し当てられたような痛みが背中に巣食っている。寒気がして肩を抱いた。ビリビリに破けたシャツの一部が指に触れて、背中を抉られたのだと知る。
     流石にやべえって、オイ。焦ったように熊の後ろで取り巻きが足を引いた。バタバタと慌てたように教室から逃げていく。きっと先生を呼んでくれる事もないだろうし、医療キットを持って戻ってくるわけでもないだろう。痛みの現況と二人きり、最悪の状況にされて尚、頭は冷え切っていた。
     ヒュ、ヒュ、と喉を擦る浅い呼吸が自分のものだと知る。痛みと寒気。出ていく血の量が、これ以上は危ないのだと警告している。背中から馬乗りになったまま、熊の先輩は興奮した様子で鼻を鳴らして喚いた。俺の自慢の爪が汚れちまっただとか、制服にまで血が飛んだだとか、そんなようなことだ。よく聞こえない。
     跨ったままの彼の股間が俄かに隆起してズボンを押し上げているのを、押し付けられた臀部から伝わる硬さで知った。最悪だ。最低だ。人を傷つけておいて勃起させるなんて、どんな性格してやがる。
     ふうふう荒いままの鼻息が首裏を掠め、項から耳殻へと辿ってくる。このまま慰み者にされて、出血多量で死ぬのかもしれない。血濡れの床と壁際に転がったマジカルペンを霞む視界に捉える。叫ぶ気力は残っていない。彼を押しのける体力なんぞ、元々持ち得ない。
     遺書を認めておけばよかったなあ、なんて思った。先週治療の報告で電話をした神父に、お世話になりましたくらいは伝えて死にたかった。凄く嬉しそうに喜んでくれたのだ。頑張って治療しようって、泣きながら言ってくれた。異世界からすっ飛ばされてきて、魔力のマの字もない私を、誤解したままでどうにかこうにか救ってくれたのに。
     色々走馬灯のように流れてきて、ちょっと後悔までこみあげてきて、力を抜いた。もうこれ以上痛いのは嫌だ。死ぬならなるべく、痛くないままで死にたい。
     諦めの境地に立って、熊の先輩の硬い股間がグリグリされるのを我慢する。吐気さえ催してきたのを嗚咽に噛み殺した。耳朶にぬちゃ、と濡れた音が響いて絶望に重なった。
    「随分、面白そうな事をなさっているんですね」
     ドカンと爆発音が教室に割って入り、目の前で壁が粉砕された。木端微塵もいいところ、細長い足がコツリコツリ、ゆったりと吹き抜けになった教室へ歩みを寄せる。一歩二歩。リノリウムを掻いて革靴がピタリ、目と鼻の先で止まった。
     柔らかい物腰に丁寧な口調。横に引いた口元は口腔に潜ませた鋸歯を隠し、笑みの奥に凶悪な色を湛える瞳を閉ざす。長すぎる手足を器用に使い、乱入者は制服に散った埃を払って微笑んだ。
     ターコイズブルーの海で黒い差し色の髪が揺れている。オクタヴィネル寮の問題児、海のギャング。双子のリーチと聞けば、同期で知らない者はいない。ヤバい方の、と冠がつく片割れと同等かそれ以上に無秩序で厄介。得体の知れなさは随一とも言われる男、ジェイド・リーチがそこにいた。
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    にしな

    MOURNING初代ちゃん(監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃん)と、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語。多分。ウツボとライオンが出てくるはず。
    地獄の門は閉じている③ にこやかに微笑まれても、どんなに丁寧な物腰で声を掛けられても、その手を取ってはいけない。後から対価として何を要求されるか知れないから。それが例え死を目前にした危機的状況であっても、まずはよく考えることだ。
     その相手が、人魚であるなら尚更、警戒を解いてはいけない。


    ◆ ◆ ◆


     用心なさいと誰かは言った。誰だったか知らないが、確かにそう聞いた。
     慈悲の心だなんてそんなものを掲げるくせ、弱肉強食を素で行く彼らであるから、決して取引してはいけないと。同じ学年のたかが学生を相手に対し、なんて恐ろしげな肩書が出回っているものだと思った。それもまだ、入学間もない一年生を相手にだ。
     無法地帯にも等しいNRCだが各寮には一応その寮ごとの取り決めがあり、その寮ごとに掲げる座右の銘的な、指針的なものがある。その特性に見合った生徒が鏡に選ばれ、なるべくしてなるのだったか、つまりはそういうことだと暗に諭された。通常の入学とは違う手順を辿り、例外としてポムフィオーレに名を置く一人は別であるのだけど。
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