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    にしな

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    にしな

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    初代ちゃん(監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃん)と、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語。多分。ウツボとライオンが出てくるはず。

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    #twst夢

    地獄の門は閉じている③ にこやかに微笑まれても、どんなに丁寧な物腰で声を掛けられても、その手を取ってはいけない。後から対価として何を要求されるか知れないから。それが例え死を目前にした危機的状況であっても、まずはよく考えることだ。
     その相手が、人魚であるなら尚更、警戒を解いてはいけない。


    ◆ ◆ ◆


     用心なさいと誰かは言った。誰だったか知らないが、確かにそう聞いた。
     慈悲の心だなんてそんなものを掲げるくせ、弱肉強食を素で行く彼らであるから、決して取引してはいけないと。同じ学年のたかが学生を相手に対し、なんて恐ろしげな肩書が出回っているものだと思った。それもまだ、入学間もない一年生を相手にだ。
     無法地帯にも等しいNRCだが各寮には一応その寮ごとの取り決めがあり、その寮ごとに掲げる座右の銘的な、指針的なものがある。その特性に見合った生徒が鏡に選ばれ、なるべくしてなるのだったか、つまりはそういうことだと暗に諭された。通常の入学とは違う手順を辿り、例外としてポムフィオーレに名を置く一人は別であるのだけど。
     かのオクタヴィネル現寮長ことアズール・アーシェングロットは入学早々、寮長の座を文字通り奪う形で世代交代を果たしたと聞く。この界隈では珍しくもないのか、確か一年前にも似たように、サバナクロー寮で一年生が入寮早々に決闘を申し込み、そのまま寮長の座についたと聞いた。或いはこの世界のルールとして罷り通る問題なのかも知れない。
     かくして当時のオクタヴィネル寮長はその任を解かれた。入寮間もない一年生を相手に、白旗という形で勝敗を喫した。瞬く間に広まった噂に尾鰭背鰭がくっついていないわけもないだろうが、寮の顔ともいうべきトップの座に座る一年生、という事実だけは未だ覆っていない。
     そんな”どう聞いてもおっかない”連中の寮長でさえヤバいやつなのに、その副寮長なんて席に名を連ねた男がまさに目の前にいるのだから、思わず意識を飛ばしたくもなるだろう。
    「ああ、どうかそう怯えないで。同じ一年生じゃありませんか」
     のんびりした口調でそんな風に宣いながら、リノリウムをコツコツ叩いて進む長躯が眼前を過っていく。床に這い蹲ったまま見上げるジェイドの姿は、さながら巨人族のようだった。見下ろしてくる表情は笑みを貼り付けたまま、長すぎるコンパスを器用に使って教室内を移動する。
     背中に跨っていた熊の先輩が訝しげに眉根を寄せた。てめえ何者だ、なんてありきたりな台詞付きで立ち上がり、ついでとばかりに無力な私を蹴っ飛ばす。教室の中をぐるり、数歩で歩き切ったジェイドをじっと睨む。ちょうど二人の間で絶妙な距離を保ち、ようやくジェイドの足は止まった。
    「いえね、楽しそうな歓迎会を行っていると小耳に挟みましたもので。一年生の身ながらそれは是非参加させて頂きたいと、会場を探して彷徨っていたのですが、サバナクロー寮の先輩の皆様がちょうど、こちらの教室から走って出てくるのをお見掛けしまして」
     こちらが会場だったんですね、なんて白々しい。僕もお邪魔してよろしかったでしょうかと続け様、既に侵入を果たしておきながらに問い掛けてもみせる。
    「ご存知の通り、陸に上がってまだ日の浅い人魚ですから、こちらの慣習には疎いものでして。親切な先輩の皆様にご教授頂けるならと、双子の片割れも共にとは思ったのですが、なにせ彼はすごく気分屋で、今どこにいるのかもさっぱり。僕の兄弟は困ったことに、楽しげな事には問答無用で首を突っ込む性分ですし、先に歓迎会にお邪魔しているのかもと思いまして、こうして僕もこちらにお邪魔させて頂いたのです」
     歓迎会に参加される一年生を探して、教室からわざわざ迎えに出てくださったようでしたので、とは先程勢い良く逃げて行った先輩たちのことだろうか。「残念ながら見当違いだったようですが」そう言って覗き込むように、影がのっしりと落ちた。見上げる程の高さから上半身だけを折って笑みを被せ、兄弟とは似ても似つかぬ小魚だとばかりに肩を竦めてみせる。
     リーチの双子と言えば既に名の知れた二人組だ。オクタヴィネルの寮長交代の折、その新寮長の左右に陣取ってニコニコしていたと聞く。見目での判別は素人には不可能かな、そっくり双子とも称される。中身に関してはほぼほぼ、真逆と言っていいのだけれど。
     当たり前だが面識なんてない。何せオクタヴィネルとポムフィオーレ、所属寮から違えばクラスメイトでもない。入学式で顔を合わせたわけも無し、入学から続く嫌がらせの類で居合わせたのも、記憶が正しければ今回が初めてだ。こちらがあちらを認識しているのは当然ながら、その他大勢に等しいこちらを、まさかあのジェイド・リーチが認識していたとは到底思えない。新寮長であるアーシェングロットならまだしもだ。
    「助けて差し上げましょうか」
     如何にも善人面を掲げてジェイドは言った。随分血まみれですねえ、これは大変だ、なんて今更のように長い脚の間に敷いた私の背中をまじまじ見つめ、困り顔に変えて顎に手を当てる。考える素振りで小首を傾げながら今一度、彼の色の違う二つの瞳が熊の先輩とを見比べた。
    「そちらのグリズリーさんはお友達でしょうか。見たところ貴方はポムフィオーレの所属、そちらの先輩はサバナクロー寮とお見受けしましたので、学年こそ違えど面識はありますでしょうから、きっとこれがマジフト部の歓迎会の一環であると仰るならば、僕は身を引く他ありません。しかし万が一にもこの教室で行われている歓迎会が、ただの残忍卑劣極まりない一年生いびりであり、ただの暴力行為であるというのならば、たまたま通りかかった僕とて見て見ぬふりは良心が痛みます」
     慈悲の精神などと誰が言ったか知らないが、彼の属する寮の掲げるモットーこそこれである。全く持って信じがたいのだが海の魔女とやらは全七寮からなるこの学園で唯一慈悲の心を謳っている。かくしてこの寮に関わるのであれば覚悟しろと言われた。まことしやかに囁かれる噂には尾鰭も背鰭もつき放題であるけれど、かの有名人、アーシェングロット含むオクタヴィネル一派に関わるならば心せよとのお達しなのだ。
     持ちかけられる取引には用心しろ、よく考えて約束をすべきだ。契約書には全てきちんと目を通して、自己責任でサインをとどこぞのゴーストも言っていた。先週逃げ込んだボロボロの一軒家のような場所にいたゴーストだ。彼らは楽しそうに噂話をしながら透けた手で怪我の手当てまで手伝ってくれたけれど、にわかに信じ難くてついさっきまですっかり忘れていた出来事である。
     熊の先輩がグリズリーだと言ったのはよくわかったな、あんなもん見分けつかねえぞ、と素直に感心してしまったのだけど、今正にピンチの最中であることに変わりなかった。なんなら背中の傷は今までのどんなものより深くて痛い。血は止まっていないからこのまま失血死さえ考えられる。
     蒼くなった唇で薄く呼吸した。色の違う二つの瞳がのっそりと影を落として上から覗き込んでいて、こちらの動向を静かに伺っている。深くて暗い海にできた巣穴から獲物を狙うウツボがのっそりと薄笑みを浮かべているようにも見えたのだけど、絶体絶命の危機に瀕した上に失血多量だった私には正常な判断などできなかった。
    「…………たすけて、ほしいです」
    「そうですか、そうですか、ではお取引と致しましょう。常であれば先に条件を提示の上で締結となりますけれど、そうは言っても貴方は既に満身創痍のご様子ですからお代は後で結構ですよ。特別に後払いでご案内いたしますので、ええ、ええ、どうかご安心なさってください」
     ジャケットを脱いでジェイドは笑った。口角をおっかないほど引き上げてくわりと開いた口の中にはびっしりと鋸歯が埋まっている。長い舌で獲物を吟味するみたいにベロリと自分の下唇を舐って濡らし、脱いだジャケットを足の間で震える子羊にかけてやる。私が食べるまでまだ死なないでくださいねと言外にそう諭している。
     汚れるのも構わず血濡れの背にかけられた大きなジャケットは化物のローブだ。ふわりと舞い落ちてきた布を跨いで一歩二歩、グリズリー先輩へと距離を縮めたジェイドは手袋をクイッと引っ張って指の股までしっかり嵌め「ではそういうことですので」なんて具合に再び長い脚を翳した。一瞬だった。
     不意を突かれて狼狽える間もなく側頭部へと打撃を受けてグリズリー先輩がよろめく。すかさず身を翻したジェイドは足を引き拳にした片手をグンと伸ばす。しなやかな長い腕がバネのように伸びてグリズリー先輩の顎を穿った。あっという間のKOである。脳を揺らされてひとたまりもないグリズリー先輩がドスンと白目を向いて巨体を伏した。カンカンカン!と頭の中でゴングが鳴り響き、次いで架空のレフェリーに片腕を掲げられて勝利を手にするジェイドの幻影を見る。頭に行き渡らなくなった酸素のせいか失血のせいか知れない幻覚かと思った。
     まるきり純粋な暴力でもって図体で勝る相手を一発KOで倒したジェイドは微塵の疲労も滲ませぬ足取りで踵を返し、また長いコンパスで持って一歩二歩の距離をこちらへ戻る。床に倒れたままだった私とグリズリー先輩の目線が同じなのがおかしかったけれど、そんなことよりこちらへ近づく化物が余程恐ろしかった。
    「大丈夫ですか、もう終わりましたので貴方の憂いはどこにもございませんよ。ああ、どうかそんなに怯えないで。背中の傷も心配ですねえ、このままでは死んでしまいそうですから、ついでに医務室までお送りしましょう」
     にこやかに膝を折ったジェイドが被せたジャケットごと私をくるりとひっくり返してから抱え上げる。軽々と細腕に見合わぬ剛腕が膝裏と背中とでしっかり支えてくるものだから、更に腕の中で縮こまるしかなかった。片腕に触れる背の傷が痛い。滴る血がボタボタと血溜まりに落ちた。ジェイドのシャツとベストにもきっと赤い染みがついたはずだ。
     身動ぎは拒絶を意図しての抵抗だった。降ろしてほしい旨を訴えるべく上げた視界の先でジェイドが笑った。
    「可哀想なお嬢さん、どこから迷い込んだんでしょうね」
     ゾワリと全身に鳥肌が立った。今ジェイドが何と言ったのかを理解したくなくて口を噤む。お嬢さん、お嬢さん。確かにこいつはそう言った。抱えた手に力を込めて、長い指で制服越しに皮膚を押す。何て奴と契約してしまったんだろう。教室を出て行くジェイドが軽い足取りで血濡れの足跡を引き摺って廊下を歩むのを、誰一人として止めてくれる親切はいなかった。
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    にしな

    MOURNING初代ちゃん(監督生が来る前に現代からすっ飛ばされてきたオリジナル男装夢主ちゃん)と、愉快な同級生たちとのハートフル学園物語。多分。ウツボとライオンが出てくるはず。
    地獄の門は閉じている③ にこやかに微笑まれても、どんなに丁寧な物腰で声を掛けられても、その手を取ってはいけない。後から対価として何を要求されるか知れないから。それが例え死を目前にした危機的状況であっても、まずはよく考えることだ。
     その相手が、人魚であるなら尚更、警戒を解いてはいけない。


    ◆ ◆ ◆


     用心なさいと誰かは言った。誰だったか知らないが、確かにそう聞いた。
     慈悲の心だなんてそんなものを掲げるくせ、弱肉強食を素で行く彼らであるから、決して取引してはいけないと。同じ学年のたかが学生を相手に対し、なんて恐ろしげな肩書が出回っているものだと思った。それもまだ、入学間もない一年生を相手にだ。
     無法地帯にも等しいNRCだが各寮には一応その寮ごとの取り決めがあり、その寮ごとに掲げる座右の銘的な、指針的なものがある。その特性に見合った生徒が鏡に選ばれ、なるべくしてなるのだったか、つまりはそういうことだと暗に諭された。通常の入学とは違う手順を辿り、例外としてポムフィオーレに名を置く一人は別であるのだけど。
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