記憶を持って生まれ変わったタルタリヤは前世では鍾離と恋人同士だった。でも今世では鍾離の姿は見当たらず、璃月という地名は今も残ってはいるものの、歴史を辿ると岩王帝君は没後との記載がある。
記憶有る無し関わらず、ちらほら見覚えのある姿もあって、もしかしてあの人はなにかやらかして生まれ変われていないのではないか?と、当時の時点でやらかした数は6000歳超えの鍾離よりもかなり若いタルタリヤの方が圧倒的に多く、お前が言うな案件が思い浮かんでしまう。
今は牙が抜かれたような戦闘意欲だが、行動力の権化とも表現できそうなほどのやんちゃ坊主は健在で、何かに囚われているなら俺が呼べば来てくれるだろ!という何処から湧き出ているかよく分からない自信から、召喚術から口寄せ、はたまた人体錬成なる怪しげな本を買い集め、噂話を集め、実行する。
前世で鍾離に教え込まれた審美眼や詐欺師の見分け方は覚えていて、怪しすぎるものや信憑性の薄いもの、ニセモノには手を出していないためにそれはそれはもう様々なものを呼び寄せる。取り敢えず物理でヤれるものはヤって、出来ないものは胡桃に除霊をお願いして、胡桃の最高の顧客にもなりお互いWin-Winな関係になった。
今回はかなり有力な情報筋から入手した術で、手応えがありそうだった。なので大事にとっておいた岩王帝君時代に使っていたとされる、見覚えのある槍の欠片の触媒を使った。
今まで準備したものがうんともすんとも言わなかったのに、目の前で水と岩と様々な化合物質が混じり合って人型になっていく様を期待して見つめる。
ようやくだ、ようやく会える!と、その人型を見れば鍾離ではない。いや、形は鍾離そっくりではある。
瓜二つながらも、それは岩王帝君モラクスだった。何が違うかとははっきり言えないが、鍾離はタルタリヤをこんな目で見ない。直感で生きるタルタリヤには、それだけで理由になった。
触媒がモラクスのものなら、それは鍾離ではなくモラクスが生まれるか…と、落ち込んでいると、槍を自分に向けて構えるモラクス。この時代に武器は無いし、戦闘狂ではないタルタリヤは流石に焦る、だが鍾離に似たナニカに殺されるなら良いか…と、諦めた気持ちも何処かにあった。流石に、タルタリヤもそろそろ疲れたのだ。
フッと力を抜いたその時、突然扉を強く殴るような音が響いた。驚いて振り返ると、其処には今世に生まれ落ちてからずっとずっと待ち続けていた鍾離の姿があった。
「えっ、扉可哀想」
ボッコボコになった扉を見て思わず同情した。
鍾離はとくに何も武器を持っていないので多分素手だ。何してんだコイツという気持ちしかなかった。
モラクスの標的はタルタリヤから鍾離へと移っていた。槍を突き刺そうと踏み出すモラクスに、素手の鍾離。流石に不利だと思ったタルタリヤがナニカに襲われた時用に準備していた鉄パイプを握った瞬間、鍾離がグーパンでモラクスの形をしたナニカを破壊する。そう、破壊という言葉がしっくりきた。
「土人形風情如きに俺が負けるとでも?」
拳についた土のような固まりをパッパッと払う。床には土と水とそれ以外の化学化合物質が散らばっている。久々に会った鍾離は、昔のままだった。そう、服も見た目も強さも何もかもが。
鍾離が此処に来た理由を聞くと、どうやら鍾離は死んではおらず、そのまま生きていたらしい。いや、生きていたと言うよりはタルタリヤが死んでから眠っていた、とのこと。
最近のタルタリヤの行動を思った仙人の誰かが流石にヤバいと思ったらしく、眠る帝君を起こしに向かった。呼び寄せたものを倒すのは出来ても、タルタリヤを止められるのはきっと帝君だけだからだろうと。
そして起きて話を聞き、タルタリヤが転生している事実に喜ぶ間もなく、強烈なナニカを感じた。過去の神の目持ちには簡単に倒せても、今の人々は守っていた璃月の民と同じ、いや、それ以下に弱い。それはタルタリヤも含まれる。
急いで向かう道中で「コスプレ…?」なんて声が聞こえたりもしたが、急いでナニカの元に向かった。凡人離れした跳躍にちょっとした騒ぎになった。
そして今に至る、と。
「なんで俺が転生して先生起きてこないんだよ?!愛してるって嘘だったわけ?」
と、荒ぶるタルタリヤを横目に鍾離はため息を吐いた。
「いや、愛してはいるが、起こし方は教えたぞ」
「いつ?」
「お前が死ぬ直前だな」
「意識朦朧としてんじゃん!」
というやり取りをしつつも二人は漸く出会うことが出来た。転生後も熱烈に自分を求めてくれたことが嬉しくて愛しさが更に深まっていく鍾離。
「また凡人一年目だ、公子殿の世話になっても良いだろうか?」
「今世は俺、モラ…は、もう名前が変わってるけど、かなり有限だから……そうだな、先生の今の服、全部骨董品だから売れば良い値段になるんじゃない?」
出会い早々追い剥ぎをしようとするタルタリヤと抵抗無く服を差し出す鍾離という二人が居ましたとさ。おわり。