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    おもち

    @mochichi12_

    成人済み/今は94で藻掻いてます。

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    POIPOI 15

    おもち

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    黄昏で夢叶1006のワンライ企画で書かせていただきました
    お題は「猫」を使わせていただきました
    ポイピクに載せていなかったので移しました
    ネタかぶりは、もうあきらめる方向で……

    「フフ、ミキサン可愛イデスネ」
     顎を指先でちょいちょいと撫でられると、抗い難い心地良さに、ごろごろと喉が鳴る。
     可愛い、可愛いと言われ、どうにも居心地は悪いはずなのに、気持ちに反して体は抗えない。とうに成人していて、二回目の成人式だってそう遠くない年になっているというのに、そんなものはここでは関係が無く、等しく可愛らしい猫だった。

     クラージィの誘いもあり、彼の勤める猫カフェに訪れたのが間違いだったのか。
     彼に猫カフェの仕事を紹介したということもあり、一度は店の様子を確認がてら来店してみるか、とは以前から思っていたのだ。そして、急遽シフトの空きが出たので、少しだけ顔を出すかという軽い気持ちで訪れた。
     その店は経営者が吸血鬼の猫カフェではあるが、入店して様子を伺う限り、ごく普通の猫カフェと変わりもなく、クラージィも問題なく対応出来ているようで安心する。
     クラージィ自ら説明に付いてくれて、三十分ほど滞在して店を出ようと考えていたが、一番のおすすめという、猫になって猫と触れ合えるというコースを一度は断ったものの、クラージィからのたどたどしいながらも懸命な接客に、三木はあっさりと完敗して、一時間のコースを申し込んだ。
     
     置いてある鏡で確認した姿は白地に黒のはち割れの眼光鋭い猫で、到底可愛いとは言えない。元々の体格が影響しているのか、猫としては大きいのもその一因となっている。
     猫と触れ合うといったところで、特段猫が好きというわけではない。お隣さんの愛猫たちはもちろん可愛いが。いまいち勝手が分からず、そして猫カフェの猫たちもそんな三木に近寄ろうとはしない。
     ぽつん、と一匹になりどうしたものか、と三木はキャットタワーを見るが、先客が居てそこにも行けそうにない。
     何もしないで過ごすというのが苦手で、どうにも時間を持て余してしまいそうだ。クラージィの接客に負けて一時間コースにしたものの、早めに切り上げてしまおうか。料金は先払い制のため、早く変える分には問題が無いように思う。
     何にせよ、姿を元に戻してもらわないことには帰れない。三木は、きょろきょろと辺りを見渡し、猫の姿へと変える能力を持つ店長を探すが見当たらず、にゃうん、と小さく鳴いた。
    「ミキサン?ドウシマシタ?」
    「にゃ、にゃぁ、にゃーん」
     三木がひとりでいる様子に気が付いたクラージィは、そっと近くにしゃがみ込む。早めに退店する旨を伝えようとするが、人間の言葉が出ない。だが、クラージィは、ナルホド、ソウデスカ、と真剣に相槌を打つので、吸血鬼相手だともしかして通じるのだろうか、と引き続き鳴き続ける。
    「ハイ。ハイ。ソウデスネ、デハ、私ト遊ビマショウ!」
    「ニャー」
     あ、ダメだ通じてない。真剣に頷くものだから、てっきり伝わっていると思ったのに。がっくりと項垂れたいが、猫の体ではそれも難しい。

     そうして、クラージィに顎や背を撫でられ、ごろごろと鳴りやまない喉に三木は人間としての尊厳を見失いかけながらも、為すがままになる。尻尾の付け根をとんっとんっと叩かれると、意識せず腰が上がり、うにゃうにゃと甘えた声が出てしまう。
    「可愛イ、ドスケベデスネ」
    「にゃあ、にゃっ、にゃっ!」
     可愛い、はぎりぎり良いけど、ドスケベは止めてください。抗議の言葉も、当然甘い鳴き声になってしまう。
    「ミキサン、オ膝ニ乗セテモ良イデスカ?」
    「にゃぅ、にゃあ……」
     何故かそれが、抗い難い魅力的な言葉に聞こえて、三木は大人しくクラージィの膝に収まる。少しひんやりとしたクラージィの体温が案外心地が良く、無意識にクラージィの太腿をふみふみと揉んでしまう。
    「ミキサン、オ利口サンデスネ」
     丸まった背を撫で、イイコイイコ、と褒められる。待ってくれ、この店もしかして如何わしい店なのか。クラさんは、俺以外にもこれをやっているのか。紹介したのは自分だが、一抹の不安と、それだけではない感情が胸を占めるが、クラージィに撫でられるとそれは簡単に霧散してしまう。

    「ア、オ時間デスネ」
    「にゃ……!?」
     ぱち、と瞼を開け、三木は辺りを見渡した。どうやらいつの間にか眠っていたらしく、壁に掛けられた時計を見ると、確かに一時間経過していた。
     そっと膝の上から下ろされると、急に心もとない気持ちになってしまう。
    「にゃぅん」
    「アトチョットデ、人間ノ姿ニ戻リマスヨ。ミキサン、マタノゴ来店オ待チシテマス!」
     こちらは後ろ髪を引かれる思いだというのに、当のクラージィはというと、すぐさま職務へと戻ってしまう。なんとなく分かっていたが、彼はどうも切り替えが早い。

     作るつもりの無かったポイントカードを作成してもらい、おキャバなクラにはまる人々の気持ちをほんの少しだけ理解できてしまい、三木はよろけながら、次の仕事先へと向かった。
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