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    おもち

    @mochichi12_

    成人済み/今は94で藻掻いてます。

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    おもち

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    ノスクラ♀です。
    多分付き合っている二人です。ノスはスケコマなのに、クラさんには上手に振る舞えないの可愛いですね…。

    #ノスクラ
    nosucla.

     初めての出会いの時は、ウィンプルを身に付けていて、そのブルネットの巻き髪は隠れていた。二度目に彼女を見たのは教会を破門された後の事だった。ぼろをまとい、ブルネットの長い巻き毛は手入れされていないのだろう、あちこちに跳ねていた。
     三度目は、血に塗れ臓腑が腹からはみ出ていて、死の匂いが濃くした。うねる髪は、血や汚泥にまみれ、どろどろに汚れていた。まともに食事にもありつけなかったのだろう、頬はこけその身は痩せ細っていた。
     そして四度目は新横浜で。彼女は現代の服装を纏っていた。安物だが、どこにも汚れなどない清潔なものだった。
     コートをまとっていたが、それでも棺に納めたあの頃に比べれば随分と肉が付いていたことが一目で分かる。有り得ないと思っていた出来事に混乱をきたしてはいたが、女性に対してそのような言葉を言うほど愚かではない。
     だが、長いブルネットの巻き髪が背に流れ、彼女の清廉な雰囲気に良く合っていて美しいと思うのに、いつもは淀みなく回る口は、その時ばかりはろくに言葉を紡げずノースディンは、まともに会話を出来ないまま彼女に先約があったため、その場で別れることとなった。
     そして、逢瀬を重ねる度、クラージィは初めて出会った頃のような強健さを取り戻していた。相変わらずの清貧ぶりではあるが、当時に比べれば衣食住は事足りでいるのであろう。
     だが、転化親として、彼女の生活を保証する責任があるとノースディンは考えていた。彼女に少しでも不自由な思いをさせるわけにはいかない。
     それなのに、クラージィは頑なに金銭の類は受け取らない。服を贈れば、一応は受け取ったものの、困惑しきりで、あとで価格を知ったらしく、二度としないで欲しい、と厳めしい顔で言われてしまった。
     そんな彼女が前回会った時、ふわふわの髪をひとつにまとめていた。ヘアゴムにはふくよかな猫の飾りが付いていて、彼女の年齢からすると幼い装飾のようにも見えるが、ノースディンは口出しする愚は犯さなかった。
     だが、着飾る習慣の無い彼女が装飾品を身につけていることに驚き問えば、集合住宅の隣に住む男が飼っている猫に似ているものを店先で見つけて、じっと見ていたところ、猫の飼い主のさらに隣に住んでいる男から贈られたという。
     飄々とした、慇懃無礼なところのある男を脳内で氷漬けにし、深々とノースディンは嘆息する。それを実行すれば、クラージィが深く悲しみ、赤い瞳に憎悪が乗ることを想像すると、それだけで背筋が震えてしまう。
     クラージィのことだ、すんなりと受け取ったわけではないだろうが、髪飾りの類ならば衣服よりも受け取りやすいのかもしれない。ノースディンはそう気持ちを切り替えて、クラージィに合うものを探すことにした。
     彼女の黒髪に合い、清楚で美しいものを。華美なものは好まないだろう。そして高額過ぎてもいけない、と脳内でいくつかピックアップしていく。

    「………久しぶりだな」
    「そうだろうか?一週間ほど前には会っただろう」
     永きを生きる吸血鬼からすれば、一週間などほんの瞬きをするような時間ではある。だが、ノースディンはこの日を心待ちにしていた。高等吸血鬼としてのプライドからそれを表に出すことはけして無いが。
     待ち合わせ場所に現れたクラージィは、気温が上がったために、前回より少しだけ薄着になっている。クラージィは白の柔らかな半袖のブラウスに、ベージュのスカートというごくシンプルな服装をしているが、彼女の清楚な雰囲気に良くあっている。
    ―――そして、前回ひとつに結かれた髪は見る影もなく、ばっさりと短くなっていた。耳が隠れるほどの長さのくりくりとした巻き毛も愛らしいし、白く細いうなじも美しい。たった一度だけ牙を立てたその首筋には、今は傷一つないことを確認する。
    「髪を切ったのだな」
    「ああ。湿度が酷くて広がってしまうから。初めて短くしたのだが、首がスースーするが良いものだな」
    「そうか、似合っている」
    「ありがとう。……ノースディン、気分が悪いのか?体調が悪いようなら今日は解散するか?」
    「いや、何の問題もない」
     その後は、取り繕いカフェへと向かいながら、彼女の近況を聞いた。クラージィの髪にすら執着していたのか、と内心で項垂れながら、渡すことの出来なかった髪飾りはそのまま持ち帰ることとなった。

     クラージィは窓から見えるちらつく雪を見るともなしに見ていた。道理で冷え込むわけだ、と眉間に皺を寄せる。
     パチパチと心地良い暖炉の木が爆ぜる音は、この部屋が暖かいことを証明しているが、新横浜に帰る時のことを考えると身震いしてしまう。
     屋敷の主であるノースディンは、ドラウスから電話がかかってきて席を外してしまっていた。好きに過ごしていてくれ、と言い置かれクラージィは暫くは大人しく座っていたが、雪を眺めるのにも飽きてきて、立ち上がると部屋をぐるりと一周する。
     部屋は充分暖まってはいるが、つい穏やかな炎に惹かれて暖炉の前に来てしまう。どうしても冷えてしまう手を火にかざし、視線の先にあるマントルピースを見た。小さな絵画や写真が品良く飾られているのをなんとはなしに見ていると、美しい白い花の飾りが置いてあることに気が付いた。
     中央の花芯には、大粒のパールがあしらわれていて、よくよく見るとそれはバレッタで、クラージィは首を傾げた。女性物の装飾品が、何故ノースディンの家にあるのだろうか。
     彼の愛弟子の言うところのスケコマシであるから、連れ込んだ女性の忘れ物である可能性は充分にある、とクラージィは嘆息した。
    ぱたぱたと慌ただしい足音に気付き、クラージィは視線を髪飾りからドアへと移した。
    「クラージィ、ひとりにしてすまない。どうした?そんなところで……寒いのか?」
    「いや、寒くない」
    「そうか、ならばいい、が、……待て、違うぞ、それは違うからな」
     口早に違う、と繰り返されクラージィは首を傾げる。けして責めるような顔などしていないというのに。
    「私は何も言っていないではないか」
    「では、何を思った?大方女性の忘れ物だとでも思ったのだろう」
    「違うのか?」
    「違う。お前以外の女性をここに連れて来たことなど一度も無い。それは以前お前に贈ろうとした髪飾りだ」
     クラージィは己の癖のある巻き毛をくしゃりと撫でた。夏場は丁度良かった短髪も、冬に近付くにつれ寒くなり再び伸ばして、今は肩口ほどまである。
    気まずそうに見下ろしてくる長身の男が少しだけ憐れになり、クラージィは美しい髪飾りをもう一度見た。
    「触ってみてもいいだろうか」
    「ああ。それは、お前のためのものだ」
     クラージィは繊細なつくりのバレッタをそっと手に取った。白い大輪の花に、中央のパール。けして派手ではなく上品にまとまっている。だが、装飾品に疎いクラージィにも、見るからに高額な品だと分かってしまう。
    「クラージィ、受け取ってくれるか?」
     懇願の色さえ見える言葉に、クラージィは眉尻を下げた。これに見合う品を返せはしないのに、受け取るのは抵抗がある。だが、もし受け取らければこの髪飾りは役目を果たせず、ずっとマントルピースの飾りとなってしまう。そして、ノースディンは分かりずらくも落ち込むのだろう、と短い付き合いでもクラージィは徐々に学んでいた。
    「ありがとう、ノースディン。ありがたく頂こう。だが、次からは購入する前に私に確認してくれ」
     バレッタを手に包み込み、クラージィはノースディンを見上げる。釘を刺す言葉にノースディンは美しい眉を顰めるが、それにはクラージィは気が付かないふりをすることにした。
    「ノースディン、付けてもらって良いだろうか?」
     バレッタをノースディンに手渡すと、彼は機嫌を持ち直したようで、器用にクラージィの髪をハーフアップにまとめ上げ、ぱちん、と音を立て髪を飾り立てた。
    「似合っているだろうか」
    「ああ、よく似合っている」
     ノースディンの満足気に頷く姿には偽りはどこにもなくて、クラージィは気恥ずかしくなりながらも、小さく笑った。
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