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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    brmy
    戦衣都

    味のある大根について

    #戦衣都
    #brmy男女CP

    辛さが喉元通り過ぎれば(そよいと) 七……八…………。
     バーベルを持ち上げる腕が、回数を追うごとに重たくなってくる。
    (オーソドックスなのは煮物かおでんだろうか)
     九…………。
     視界の端にトレーナー、もとい新開さんの姿を認める。余計なことを考えてしまうのは、目の前にのしかかる負荷からの逃避なのだろうか。
    (けれど、この時期ならもっと、さっぱりしたものが食べたい。となると)
     …………十。
    (さっぱり…………大根サラダ?)


    「よし、休憩」
    「ふう……」
     取り敢えずの結論が出たと同時にカウントが終わり、十キロのバーベルを所定の位置に戻す。仰向けの体勢のまま私は、天井の壁の無機質な模様の一点をぼんやりとみつめていた。
     当初は五キロほどで息も絶え絶えだった私が、今は倍の重量をそれらしく動かせる程度には進歩している。とはいえまだまだ初心者の域を出ない重量に違いはないし、まだまだトレーナーもとい新開さんのサポートは必須だけれど。いつものジム内、ほぼ貸し切り状態で行われるトレーニングは定期的に続けている甲斐あって、微々たる成長とともに「ある」寄りの体力に近づきつつある。
     継続に伴い、多少の慣れが出てきた点は一概に悪いことではないと思う。

     けれど慣れてくると、どうにも思考の隙間に余計なものが入り込んでしまうのでいけない。

    (いや冷静に考えて、大根サラダだとドレッシング必須? いや、カロリーのことを考えると許されるのは塩まで?)
     先日のドレスアップ及び店内代行の兼ね合いで話題に上ったキャラ代行の適正について。新開さんを「味のする大根」と評する一幕は一連の慌ただしさで忘れかけていた……はず、だった。ところが落ち着いた後、初めて新開さんと顔を合わせた今日、唐突に思い出してしまったのが運の尽き。
     新開さんと大根がセットで連想された結果、強制的に大根が食べたくて仕方がない気分になってしまったのは、不可抗力だったと思いたい。
    「弥代、今のセットで気ィ散ってただろ」
     仰向けからゆっくりと起き上がった刹那、思考が停止する。
    「あ……えっと」
     そしてさすがは、感情の機微に聡いトレーナー。けれどその察しの良さを今発揮されるのは少々、答えに詰まるものがある。
    「今の時期に食べられる大根料理は何かなと」
     上手い言い訳が浮かばなかったばかりに、部分的に話してみることにしたものの、下手な方向に話が伝わるのは避けたい。顔の火照りが引かない無表情の裏側で、背中を冷汗が伝う。
    「大根? なんでまた」
     少し離れたところで相沢くんが小さく吹き出したのが見える。口元を押さえ、肩を震わせているのでおそらく、私の考えを正確に読み取ったのだろう。
    「城瀬さんの買い出しに同行した時、安くなっていたから気になったもので」
     嘘は言っていない。朝イチでカフェを手伝った時、切らした食材を求めてスーパーに赴いたのは事実だ。間違ったことは言っていない……言っていない、はず。 
    「ですがいざ考えてみると、圧力鍋で煮込むようなメニューしか浮かばなくて。これからの時期にはちょっとな……と思いつつ」
    「あー。まあ言われてみれば、そうだな。年中出回っているが、一応旬は冬だったか」
     上手くはないけれど、不自然な返しでもなかったらしい。一応は納得した素振りを見せた新開さんに、内心ほっと胸を撫で下ろす。ポーカーフェイスに定評のある己の表情筋に少しだけ感謝しつつ、汗の滲んだ首元をタオルで押さえた。
    「大根ならすりおろしてポン酢かけてそのままか、何か適当に乗せるなり添えるなりすれば良い。よほど変なもんじゃない限りは合う」
    「なるほど、その手が」
    「大根は食物繊維が含まれていて腸内環境を整えるし、抗酸化作用があって肌にも良いからな」
    「おお……」

     なんてことのない、世間話の延長のような話しぶりだ。今みたいに知性が垣間見えることもあれば、代行では力業でねじ伏せることも多々あり。
     新開さんの言動は明快だ。どれもが一貫して思いやりに溢れている。
    (キャラ代行の適性が本当に「難あり」なのだとしたら。裏を返せば、新開さんの言動には嘘やごまかしがないことと同義だ)
     新開さんのこういった一面は、人として魅力的で好ましい。今更過ぎる気づきだ。ある種の爽快ささえ覚える言動に、好感を持つ人が多いのも当然のことだろう。
    「生の大根は食べ過ぎると胃を痛めるが、何グラムまで許容範囲だったか……今日のトレーニング後に調べとく」
    「……お手数をおかけします」
     けれど、同時に思うところもあった。

     彼が持つ類の潔さはおそらく、私には到底手が届かないものだと。

     * * *

     寮まで送り届けてくださった新開さんや相沢くんと解散してからすぐ、キッチンに立つ。
     あらかじめ買ってあった大根に包丁を入れて、簡単に皮を剝いてからおろし金を取り出した。手元に気をつけながら大根を擦ると、小さなボウルの中はやがて水分をはらんだ大根おろしでいっぱいになった。
     お行儀は良くないけれど、気まぐれにすりおろしたばかりの大根をひとつまみ、口に含む。鼻に抜けるツンとした痛みとともに喉の奥を通り過ぎる辛み。

     理由もなく涙が零れそうになったのは辛さのせいであり、決して新開さんのせいではない。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    戦衣都(+🌹&🧹)
    お付き合い済の戦衣都、主に⚔の破壊力が凄まじそうだ……と妄想した結果

    * * *

    新開さんはどこぞの王子様よろしく、ダンスにでも誘うのかと問いたくなるほど恭しく丁寧に手を取り、かれこれ数分が経っている。
    (私は一体、ドウスレバ……)
    お前のこと、全部に決まってんだろ(そよいと) この状況は彼の、あるいはその周囲の策略だったのかもしれない。

    「綺麗なもんだな」

     至近距離には今、新開さんがいる。私の手を取って、指先を矯めつ眇めつ、眺めている。

     新開さんが釘付けになっている青色のポリッシュは、水の泡を彷彿とさせる爽やかな水色から呑み込まれそうな深海色のグラデーション。小さなパールが光をはじき、親指と薬指には、真っ白な線画で漂うクラゲのイラスト。それらは指先に閉じ込められた水族館を彷彿とさせる素敵な仕上がりではあるけれど――

    (ミカさんへのお土産だったはずなのに、ここまでは聞いてない……)
     水族館のお土産コーナーにさりげなく陳列されていたのが、海の生物たちを模したネイルシール。これは、と思いミカさんや真央さん用に確保して手渡したのが一昨日。複数のポリッシュと渡したはずのシールを携え「その御御御手を拝借するわよ」と休憩室へ連れ込まれ、見事な手際で装飾を施してくださったのが昨夜の仕事終わり。
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    tang_brmy

    PAST⚠️パソスト公開前に書いたので公式の設定と齟齬があります

    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25044306 の続きのふたりのおはなしというか、起承転結の起に当たるはなし。
    なので、衣都ちゃんが出て来ない吏衣都です。出て来るのは吏来さんとミカさんだけ。
    「その日」に思いを巡らす吏来さんを捏造しました。
    on that day「あら、吏来。いらっしゃい」
    「お疲れ」
     勝手知ったる何とやら。ジム帰りにAporiaに寄った吏来は、案内されるより先にカウンターの隅の席に腰を下ろす。
    「いつもの?」
    「うん、お願い」
     おしぼりを手渡しながらオーダーを確認したミカが、何かにあてられたように目を細めた。
    「機嫌がよさそうね」
    「わかる?」
    「それはもう。詳しく教えて……と言いたいところだけど、聞くまでもなくお嬢のことなんでしょ」
     首を横に振って肩をすくめるミカに、吏来は口の端を上げて答えとする。
    (お嬢のこと貰う約束した――とは、流石に言えないよな)
     たとえ親友と言えど、衣都を良く知る相手に詳しい話をするつもりはない。ただ、彼女とうまく行っているのが伝わればいいと、曖昧に濁す。ミカもその辺りの機微には聡いので、それ以上は何も聞かずに笑って、吏来の酒を作り始めた。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    戦衣都

    味のある大根について
    辛さが喉元通り過ぎれば(そよいと) 七……八…………。
     バーベルを持ち上げる腕が、回数を追うごとに重たくなってくる。
    (オーソドックスなのは煮物かおでんだろうか)
     九…………。
     視界の端にトレーナー、もとい新開さんの姿を認める。余計なことを考えてしまうのは、目の前にのしかかる負荷からの逃避なのだろうか。
    (けれど、この時期ならもっと、さっぱりしたものが食べたい。となると)
     …………十。
    (さっぱり…………大根サラダ?)


    「よし、休憩」
    「ふう……」
     取り敢えずの結論が出たと同時にカウントが終わり、十キロのバーベルを所定の位置に戻す。仰向けの体勢のまま私は、天井の壁の無機質な模様の一点をぼんやりとみつめていた。
     当初は五キロほどで息も絶え絶えだった私が、今は倍の重量をそれらしく動かせる程度には進歩している。とはいえまだまだ初心者の域を出ない重量に違いはないし、まだまだトレーナーもとい新開さんのサポートは必須だけれど。いつものジム内、ほぼ貸し切り状態で行われるトレーニングは定期的に続けている甲斐あって、微々たる成長とともに「ある」寄りの体力に近づきつつある。
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