宝箱の中身何もわからないまま箱に詰められた。元の場所に帰りたい。
「宝箱の中身」
寒い夜だった。塾の帰り道、あまりにも寒くて早く帰りたかった。
そこで、近道を通ることにした。その近道は暗いトンネルを通らなければならないが、今のところ何も起こったことはないから大丈夫だろうとたかを括っていた。
トンネルを通ろうとした時、奥から男の声がした。
「アキ…?」
暗いトンネルから自分の名前が呼ばれたことに驚いた。
街灯が少なくどんな男か分からない。しかし、聞いたことのない声だったため知らない男であることは確かだと思った。
現状を知れば知るほど怖くなって、返事をせず踵を返して走ってこの場を去ることにした。
どんなに寒くても近道ではなくいつもの明るい道を通ろうと考えていると、後ろから走る音が聞こえた。
振り向くと男が追いかけてきていることが分かった。
まずい。
子供の足でどうにかなる相手じゃない。
どうしよう。
どこかに逃げ込めないか。
どこに…
そこから記憶がない。
気がついたら知らない家だった。
「アキ、目ぇ、覚めたか?」
トンネルから聞こえた声と同じ声の男がいた。その男は金髪でガリガリで、俺が目覚めたことにとても嬉しそうだった。
「ひぃ」
「なんでそんなに震えてんだ?」
突然後ろから追いかけてきて、知らない部屋に連れ込んだ男を怖がるなという方がおかしい。自分はこれからどうなるのだろうか。さらに怖くなって何も言えないでいると、男から変な質問をされた。
「もしかして俺のこと覚えてない?」
どうしてそんなことを聞くのだろうか。母か父の知り合いなのだろうか。男の顔をもう一度見てたくさん考えてみたが、自分には知らない男だった。
「知らない…」
「そっかー…」
俺の返答に、男は俯き、とても残念そうな声音でため息をついた。
嘘でも覚えていると言った方が良かっただろうか、覚えてなければ殺されてしまうだろうか、と戦々恐々としていると、男は突然顔をあげ、俺の手を握ってきた。
「俺はデンジ、よろしくな」
「これからアキは俺の家で暮らしてくれ」
意味が分からなかった。
「なんで…」
「アキは俺の大切なものだから。家の中では自由にしてくれていいけど、外には絶対出ないでくれ」
突然の宣言にパニックになった。
「い、いやだ、帰してくれ、家に帰して」
「え〰、俺の家でいいじゃん。外は危ないから絶対出ないで」
男は心底困った顔をして、でも、断固として帰してくれなかった。
この日から監禁生活が始まった。