チャイムは今日も鳴る毎晩、チャイムが鳴る夢を見る。
それは恐ろしいことの始まり。
夢だと気づかない俺はいつもドアを開ける。
変わり果てた姿で大切な人が俺の名前を呼ぶ。
元に戻れと願う。どうかどうか、あいつがこれ以上人を殺す前に。俺があいつを殺す前に。
ぬるりとした
あたたかい
赤
殺したところでとび起きる。やっと夢だったと気がついた。
洗面台で顔を洗う。いつも夢ばかりで寝た気がしない。鏡で見る自分の顔は青白くてお化けのようだ。今日の朝飯は肉と玉ねぎの生姜焼きにするかな。夜眠れないせいで昼間すっげえ眠くなる。仕事中に寝てたら悪魔に殺されちまうから公安に相談したら、睡眠剤をもらえることになった。
錠剤を1つのんでみる。本当に効くのかよ?なんて思いながら横になっているとだんだん眠くなってきた。いいぞ。
今日もチャイムは鳴る。
ドアを開けて。
悩んだ末に開けてしまったその先にはケーキ。
大切な人が俺の名前を呼んだ。
そうだった。
今日は俺の誕生日だ。
ばんと祝福が鳴る。
赤が飛び散った。
寝つきは良くなったが結局夢を見る。また今日も夢を見るのかと思うと寝ることにうんざりしてきた。報告ついでに公安に再度相談することにした。
医者が言うには、睡眠剤は「寝つきを良くするもの」と「睡眠を継続するもの」をのむといいらしい。最初から2種類渡せよ。
錠剤を2つのんでみる。
夢は続く。
チャイムが鳴り響く。
あたたかい赤。
俺はこれが夢だとはいつだって気付けない。
1週間続けてみたが全く良くならない。むしろ幻覚を見るようになった。最初は目の端に何かある程度だったのに、最近は大きく見える。再度相談すると今度は3種類渡された。
錠剤を3つのんでみる。
まだまだ夢を見る。幻覚は人の形をしている。
錠剤を4つのんでみる。
睡眠剤は増えるばかりで効きやしない。飲んでも夢を見るし眠れないけど、飲まないともっと恐ろしい夢を見て眠れないんじゃないかってなんとなく思ってしまう。つい飲むけどやっぱり眠れないし、眠れたとして悪夢でとび起きる。
幻覚はよく見えないが、銃の魔人とケーキを持ったパワーなのかもしれない。シリアスなことばかり考えても仕方ない。いくつものもしかしたらが頭をよぎる。もしかしたら来てくれたのかも。もしかしたら心配で見に来たのかも。もしかしたら本物かも。もしかしたら本当は生きてるのかも。もしかしたら、目が覚めたら、そんなわけないのに。
今日も仕事に行く。この頃には睡眠剤は金がかかるだけの無能だと気がついた。のんだって意味ないならのまない方がいい。金は使わないに越したことはない。
悪魔と幻覚の日々は続く。気が狂いそうだ。