宝箱の幸福知らない方が苦しくないよ。
宝箱の幸福
デンジの部屋での生活も長くなってきたある日、また1人誘拐されたらしい。この部屋に麻色の髪の女の子が住むことになった。
「おお!チョンマゲもおったのか!」
「いるって言っただろ〰」
「聞いておらぬ!」
その女の子は誘拐されてきたとは思えないほどとても賑やかだった。デンジのことを恐れることもなく、むしろ親しそうである。
「チョンマゲとは久しぶりじゃな!」
「え、だれ…?」
えー…なんだこいつ。デンジもなんでこんなヤバいやつ誘拐してきてんだよ。選択基準おかしいだろ。
「こいつはパワー。アキ、面倒見てやってくれ」
「ワシのことを忘れてるとは嘆かわしいのお!」
ヤバイやつと関わりたくない気持ちが大きかったから目を逸らした。絶対会ったことない。断言する。
「アキは昔のことは覚えてないから変なこと言うなよ」
「なんも覚えてないのじゃな〰。わしが教えてやろう!」
「アキに昔のことは教えなくていい。覚えてない方が良いんだよ」
「攫って閉じこめておいて何を言っとるんじゃ」
「うるせえな〰。俺仕事行くから2人で仲良く留守番しろよ。いってきます」
前からデンジから「昔の話」が出ることがあったが、俺の昔の話にしてはおかしい点が多く、妄想かと思っていた。しかし、パワーとは共通認識のようで、通じているように見える。もしかして、「昔の話」は見落としてはいけない話だったのだろうか。
考え事をしていると、パワーが近づいてきた。
「わしは腹が減った。飯を作れ!」
本当になんなんだよ、こいつ…。関わりたくなくてもこの狭い家の中では関わざるを得ない。仕方なく、ハムと卵を焼いて、パンとサラダと一緒に出してやった。すると、パワーは途端に嫌そうな顔をする。
「野菜は嫌いじゃ!ポイ!」
「あ!野菜を投げるな!」
むかつくという感情とともになぜか懐かしさも感じた。
「アキ、本当に昔のことは覚えていないのか?」
食後、パワーが少しいじけたように話しかけてきた。
「昔のことって、いつのことだよ」
「昔のことは昔のことじゃ。仕方ないのう。ワシが思い出させてやろう」
大きく振りかぶるパワーを見た後、頭に衝撃が走った。
「思い出させてやるって言って叩く奴がいるか!」
「人間も叩いたら直る。デンジのこともこれで直した」
「これで思い出すわけねえだろ!その昔の話してくれれば思い出すかもしれないから叩くのやめろ!」
パワーが話すそれは、いわゆる前世のことを言っているようだ。悪魔がいて、悪魔を殺す公安対魔特異課という組織がいて、俺とパワーとデンジは一緒に暮らしていたらしい。
「全然思い出せねえ。デンジは前世で一緒に暮らしてたから俺たちを誘拐したってことか?」
「そうかもしれんのお。デンジは今度こそ大事にしたいと言っておった。特に、仕方なかったとは言え、ワシとアキを殺してしまったことを気にしてるようじゃな」
話を聞けば聞くほどよく分からない。前世で一体何があったんだ…。
「パワーとデンジは前世の記憶が持って生まれ変わったから仲良いんだな」
「いや、デンジは死ねないからのお。悪魔を殺して殺されてを繰り返しながらずっと生きてきたんじゃろうな」
軽く返された言葉に何も言えなかった。不老不死というのは思っているよりずっと悲しいものだと思う。その上、大事な人を殺してしまった世界で、大事な人に似た俺たちを見て、デンジはどんな気持ちでいるんだろうか。
夕方、デンジが帰ってきて、3人で食卓を囲んだ。前世を思い出すことはなかった。
その晩、俺は夢を見た。雪合戦をする夢。
悲しみも、復讐も、虚しさも、嫌なこと全部少し気にしないで生きていけそうだ。自分を見てくれる人たちがいてくれるから。
とても楽しかった。
でも、一緒に雪合戦してるxxxはなぜか泣いていた。