🐈⬛ オレの布団に大きな猫が体を丸めて眠っている。いつの間にか懐かれて我が家に居座るようになった雄猫。いつ見ても寝てばかりいるヤツだが、艶々とした黒い毛は窓から入る光を反射して大変美しく、大きな体躯は余計な肉を持たずにしなやかな筋肉を纏っている。
外に連れて歩けば周囲の視線は釘付けで、声をかけられる事もあるし、貢ぎ物をもらう事だって多い。連れ歩きたい人だって多いはずだ。
だけど自分以外には全く懐かないものだから、仕方なくオレがお世話係に甘んじている。
というのは建前で。
本当はかなり、大分、ものすごく楽しい。
だってこいつ本当に美しいんだ。いつも寝てばかりのくせに、いざ起き出してみれば走るのも早いし、ものすごく高く跳ぶ事だって出来る。他の人には全然触らせないくせに、自分には平気で頭も撫でさせるし、顔を寄せれば向こうからも寄せてくれる。
優越感に浸っても仕方ないと思う。
困った事と言えばやたらと距離が近く、すぐに匂いを嗅いで来ること。匂いで安心するのか、膝の上で寝てしまう事もある。終いには人の着てる服まで引っ張ってきて、しかも力も強いもんだから昨日は着ていたTシャツの首元が少し伸びてしまった。
そしてもう一つ。今まさにその状況にある。
寝ている隙に体の上に乗り上がって来て、ぺろぺろとあちこち舐め始めるのだ。重いしくすぐったいし、寝てられないからやめてほしい。
「重いー退けろー」
頭を押さえて上から退けようとするが、ちっとも動いてくれない。さすがにそのまま寝ていられず、嫌々目を開く。そこには「構え」と言わんばかりに口を尖らせた不機嫌気味の美しい顔。真っ直ぐ覗き込んで来る綺麗な瞳に一瞬時が止められて。
おはよう、と言いかけた言葉は形の良い唇の中に吸い込まれた。