ねむり薬が効くまではあそこにいるのは…父さんと、母さん?
手招きしてる。色々話したいことがあるんだ。今から行くよ。
…ちゃん、兄ちゃん!
誰の声だ?俺を呼ぶ声。俺は振り返った。
そこには俺と同じ顔をした人が立っていた。
「兄ちゃん、まだそっちに行くのは早いよ!行くなら俺も連れてって!」
ノイズがする。何も聞こえない。
「兄ちゃん!」
そこで俺の画面はブラックアウトした。
次に明るくなったとき、目にしたのは白い天井と点滴。目の前には俺と同じ顔をした人間と、なにやら物騒な髪色をした男。
「兄ちゃん、気づいた!?」
「そのようだな、おい兄、心配かけんじゃねぇよ。」
見た事のない2人。俺はつい、こう言葉を発した。
「えっと…どちらさま?」
「えっ?」
俺と同じ顔をした人間が驚く。奇抜な髪の男は、額に手を当てて天井を見つめていた。
「おい弟。兄は確かODしたんだよな?」
「うん…。睡眠薬10シートと焼酎で。」
「あのー……」
おずおずと俺は手を上げる。
「あの、どなた様ですか?俺も知ってる方ですか?」
「これはお前の弟だ。」
「おと、うと…。」
医師や看護師が来て俺の処置をしている間に、弟と呼ばれる男と奇抜な髪の男は出ていった。
「なんだったんだろう…。」
俺と弟は状況を整理するために、病室前のイスに座り、今後の事を話し合うことにした。
「ODした薬の殻持ってきてるか?」
「あぁ。これだ。」
そう言って殻を見る。俺はまた額に手を当てて上を向く。
「なんだよ」
「こいつ睡眠薬じゃねぇわ。睡眠薬に扮した麻薬だわ」
「麻薬!?」
「声大きいわ、アホ!」
弟の頭をはたく。
「痛いな!」
「麻薬なんか何であいつが持ってるんだよ…。……あー、最近うちのガキどもが麻薬でアガリ稼いでるって言ってたな…。」
「黒田組は解体したんじゃないのか?」
「残った奴らが、新しい組作ったんだよ。」
「悪じゃないか!」
「そうだ。…俺は関わってないからな。」
疑いの目を向けてくる弟を尻目に、主治医が俺たちに説明をしたい、と伝えに来た。なんとはなしに弟に続いて診察室に入る。
「えーっと。胃洗浄した際の溶液から薬物が見つかりました。…まぁ、通報したりは、しませんけど…。」
「で、どうなんですか兄ちゃ…兄の記憶は戻るんですか。」
「今回の病名としては、ベンゾジアゼピン健忘という病名になります。ベンゾジアゼピン系と言われる薬物を大量に摂取すると起きる健忘ですね。今のところは治療法が無いので、経過観察です。自殺願望が出てきたりするのでその際は身体拘束の上、安定剤を投与します。」
「身体…拘束…」
弟と一緒に話を聞いたあと、行きつけのラーメン屋で昼飯を摂る。ふと見ると、弟が泣いていた。
「泣くなよ」
「なんで…なんでラーメン屋なんだよ…。兄ちゃんがラーメン好きなの知ってるくせに…」
「オシャレなフレンチの方が良かったか?」
「フレンチは苦手だからいい…。」
そんな事を言いつつも、弟は汁まで完飲して俺にこう頼んできた。
「しばらく、兄ちゃんを預かってくれ。ドブにならきっと心を開いてくれるはずだ。」
「めんどくせーなー。唯一の肉親だろ。」
「俺は仕事もあるし、兄ちゃんに何もしてやれない。ドブになら、出来るはずだ。」
「遠回しにバカにしたなお前。……分かったよ。オレの事務所で預かるよ。」
「頼んだぞ。」
2人分の会計を終わらせ、外に出る。秋風が吹いていた。
────────────
「あ…また来た。」
「また来たはご挨拶だな。今日で退院だってよ。」
「いったい…俺は誰なんですか?あなたたちは?」
困惑した表情を浮かべる兄に、自己紹介をした。
「俺は溝口恭平。まぁドブって呼んでくれ。」
「で、このチビが大門幸志郎、お前の弟だ。」
「いい加減に頭に乗せた手を下ろせ!兄ちゃん、俺だよ、幸志郎だよ、分かる?」
「いや…ごめんなさい、全然分からないです…。」
「まぁ記憶喪失だからな。無理もないか。今日からお前の面倒は、俺が見る。」
きょとんとする兄を尻目に、俺は医者から薬の説明を受けていた。
「これが…抗不安薬で、これが…睡眠薬です。強いので決して本人には渡さないでください。あと、これは抗精神病薬です。これは毎日欠かさずに。」
「分かったか?兄?」
「覚えられない…。」
「ドブさん管理してくださいね。」
「わかってるよ。じゃあな。」
「月に1回は受診してくださいね!」
そう言う医者の言葉を適当に受け流し、兄をハイエースに乗せる。
「あの、俺は何処に行くんですか?」
「俺の家だよ。」
「えっと…恭平さん?」
「ドブでいいよ。めんどくさいだろ。」
「ドブ…さん」
「なんかお前にドブさんって言われるとくすぐったいな」
ハンドルを握りながら、タバコの火を消す。
「まぁ、お前に悪いようにはしないからよ。安心しろ。」
んなことを言っている間に、事務所兼自宅に着いた。エレベーターに乗り、事務所へ行く。
「ここは俺の仕事場だ。冷蔵庫ん中にビールは必ず入ってるから勝手に飲んでいいぞ。」
「はい。」
「んで、4階。ここが俺の家。お前の部屋はここな。ベッドも好きに使っていいぞ。何か必要な物があれば言ってくれ。」
「…分かりました。」
そう言いながらベッドに倒れ込む。今日1日色々なことがあったから疲れたんだろう。
ドアを閉め、作業用のイスに座ると、ポケットの中のスマホが震えた。
着信相手は、弟だ。
──────────────
待ち合わせ場所は弟の職場からは程遠い喫茶店だった。
「いらっしゃいませ」
「アイスコーヒー、あと灰皿ある?」
「お持ち致します。」
店員が去っていた後、なんで弟の職場から程遠いここを選んだのかを尋ねた。
「現職警察官が半グレと一緒だとまずいだろ!兄ちゃんとドブの関係じゃないんだから。」
「うるせぇ弟だな…。」
運ばれてきたアイスコーヒーにガムシロップを入れ、しばらくすると弟が尋ねてきた。
「…兄ちゃんは、どうだ?」
「今は部屋で休んでるよ。」
「薬は?」
「俺が持ってる。」
「そうか。」
どこか安心した表情を見せる弟。…俺は少し、弟をからかった。
「このまま俺の物になるかもなぁ。」
弟が立ち上がり、叫ぶ。
「お、お前のものにはさせないぞ!」
「うるさ。座れよ、冗談だから。」
弟が座り、俺がアイスコーヒーを飲み干したところで、尋ねた。
「…兄ちゃんに会いに行くか?」
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車に弟を乗せ、自宅へと向かう。
「おーい、兄ー?お土産だぞー!」
「誰が土産物だ誰が!兄ちゃん元気にしてる?兄ちゃんの好きなフルーツゼリー買ってきたよ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
フルーツゼリーを食べている兄を見つめる弟と、フルーツゼリーのフィルムを見つめる俺。沈黙の時間が流れる。
「なぁ、兄よ」
「はい?」
「記憶喪失になる前のお前はな、こういったベルマークやらキャンペーン用のバーコードをちまちま集めてたんだぞ。」
「そう、なんですか?」
「デタラメを言うなドブ!」
ゲンコツを落とされる。逞しくなったものだ、弟も。
その様子に、兄がクスッと笑った。
「笑えるようになったか」
「いや、幸志郎くんと溝口さんのやりとりが面白くて。」
実の兄に「幸志郎くん」呼ばわりされたのがショックだったのか、若干顔をこわばらせた。そんな弟を横目に見つめながら、薬を渡す。
「しばらくはお粥だからな。とりあえず、抗不安薬だ。飲め。」
兄の顎をしゃくりあげ、口を開けさせる。口の端から垂れた唾液を指で拭い、舌の上に薬を乗せる。
「苦い…」
「ほら、水。」
「じゃあドブ、あとは任せたぞ。俺は仕事に戻る。じゃあな兄ちゃんまた来るよ。」
そう言って弟は部屋を出ていった。
「さぁて、どうするかな…とりあえず飯にするか。おい…堅志郎、飯作るの手伝え。」
「けん…しろう?」
「お前の名前だよ。ほら、手伝え。」
堅志郎が首を傾げながら、台所へやってきた。
「味噌汁かき混ぜててくれ。味噌とほんだしはもう入ってるから。」
「はい。」
「んー、なんか敬語で話されるの慣れねぇなぁ。タメ口でいいぞ。」
「え、でも…」
「いいから。」
「…分かった。」
俺はネギを刻み、堅志郎が味噌汁をかき混ぜ、たまに味見をする。
「お前味覚とかも失ったの?」
「い、いや、味覚も嗅覚も視覚も残ってる。無いのは記憶だけみたいだな。」
「確かに弟の顔と名前も判別付かなかったもんな。」
「同じ顔だなぁとは思ったけど。」
「なるほどな…ほい、ハンバーグ。味噌汁はどうだ?」
「いい感じだな。ほれ。」
そういって味噌汁を入れた小皿を俺に渡す。
「うん、いい味だな。火ぃ止めていいぞ。」
「お皿、借りるね」
「おう」
皿にハンバーグを盛り付け、ちょっとした野菜なんかも付け加えたりしてダイニングテーブルへと持っていく。堅志郎が味噌汁を盛り付けていた。
「じゃあ食うか。」
「いただきます。」
テレビでは、違法薬物の特集をやっている。俺は気まずくなってテレビを消そうとしたが、堅志郎が止めた。
「…へぇ、こんな危ないやつらいるんだね」
堅志郎もそうだったんたぞ、そう言いたかったが、黙った。
「風呂入るか?俺はシャワーでいいから、入るなら湯船洗うけど」
「入る…」
眠そうに目を擦る堅志郎。
「まだ寝るなよ。食器の片付けがあるんだからな。」
「分かった…」
堅志郎が食器を洗ってる間に、俺は湯船を洗う。最後に洗ったのいつだろうか。
「おい、堅志郎沸いたぞ」
「うん…」
「眠そうだな。一緒に入るか。」
堅志郎の服を脱がし、自分の服も脱ぎ、洗濯を回す。
2人で浴槽に入る。
「気持ちいいね」
「洗い立てだからな。」
ふと、堅志郎の腹を触る。驚いた表情でこちらを見た。
「お前結構筋肉あるんだな。」
「…まぁ」
「こっちの方も元気だな。」
触っていると、いつの間にか堅志郎のアレは勃起していた。
「何だ?記憶喪失になってもこっちは覚えてるんだな」
「…うるさい」
「丁度風呂場だし、楽にさせてやるよ。 」
そうして2人で風呂に入り、ローションを用意する。
頭を洗ってる堅志郎にローションを当てる。
「記憶喪失になる前には良くやったんだぞ」
後ろから堅志郎を抱きしめて、秘部にローションを塗る。
「未だ頭洗って る最中なんだけど。」
「後で洗い流せばいいよ、」
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しばらく擦っていると、堅志郎が「くっ……」と声を出す。堅志郎のアレは我慢汁で濡れていた。耳元で囁く
「淫乱だなぁ、おい」
「ドブさんの手、気持ちいっ……」
指の先に我慢汁を絡め、尿道口を刺激してやると。
「んあっ!」
堅志郎は体を仰け反らせた。堅志郎の我慢汁と唾液を指に絡め、堅志郎の口の中に突っ込む。
「うむ!?」
「味わえよ。」
散々堅志郎の口内をいじったあと、ふとみると堅志郎のアレからは白濁が流れていた。
「気持ちかったか」
「……うん」
「よーっし、体流してやるかー」
いつもはしないが(させてくれない)頭と体を洗ってやり、ドライヤーを掛けてやる。髪のさらさら具合に驚いた。
「お前覚せい剤はやってないんだな」
「そんなのやるわけないだろ!」
「(麻薬はやってたくせにな)」
冷蔵庫からビールを2缶出し、1缶を堅志郎の前に置く。
「とりあえず酒盛りしようぜ。ワインから日本酒まで揃ってるぞ。」
「…うん」
…1時間後
「だいぶ飲んだな。堅志郎大丈夫か?」
「らぁいじょうぶらぁいじょうぶ」
そうして立ち上がった堅志郎は早速足を滑らせ、頭をしたたかにぶつけた。
「痛い…」
「当たり前だろ。血は…出てねぇな。」
堅志郎がしたたかに打った頭にデコピンをし、代わりの酒を持ってくる。つまみがもうないので買いに行かないと。
「堅志郎、コンビニ行くけど一緒に行くか?」
「行く!」
千鳥足で立ち上がる堅志郎。こいつを連れていくのは心配だが、またODされたりリスカされたら迷惑だ。
家から徒歩10分のコンビニに行くのに30分もかかってしまった。
「えっとさきいかと…ポテチ食いてぇな。」
「恭平さん恭平さん!?これ食べたくなりません!?」
「堅志郎、それはいいから置いときなさい」
「やーだーたべる!」
周りの視線が痛かったので、仕方なくかごに入れた。
─
10分後
ストロングゼロ2缶で唐突に意識を失った堅志郎。お姫様だっこでベッドに連れて行くと。が
いきなり堅志郎が抱きついてきた。
「お、おい、堅志郎?」
「俺が記憶喪失になる前は、頻繁にやってたって聞きましたよ!」
「それは。まぁ……」
「……きゅうりさん」
「恭平だ、ばか 。」
「俺と、セックスをしましょう。」
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「……は?さっきヤッたろ。」
「恭平さんの匂い嗅いだら、すごく懐かしく感じた。もしかしたら…その…記憶喪失になる前の俺を思い出すかもしれない。」
一瞬絶句したが、それは確かにあるかもしれない。そういう実験もあると聞いた事がある。
「なるほどな。ヤッてみるか。」
そう言いながら2人で風呂場へと行く。堅志郎の匂いに俺の中の野獣が目覚めた。
「うわっ!恭平さん!んむっ」
無理やりキスをしながら、堅志郎のモノを触る。しばらく握っていると、そいつが熱を帯び固くなって、俺はそいつを擦り始めた。
「んむっんー……」
口を離すと、案の定文句を言ってくる堅志郎。
俺はそれを気にせすに風呂場へ向かう。不服そうな顔を見つつ、風呂場へ向かった。
「よし、後ろを向け、堅志郎」
「俺、タチの方がいいんですけど。」
「一生俺がタチです。」
そう言いながら、堅志郎の穴を拡げ、ローションで解す。
「んっ……」
「堅志郎ここ弱いんだよなぁ」
そう言いながら、俺は堅志郎の前立腺を執拗に攻めた。
「んっ…あっ、恭平…さんっ」
「何だぁ?」
「そこ、!だ……め……っ」
「聞こえねぇなぁ」
「んあっ、くっ…」
顔をしかめながら唾液を垂らす堅志郎。その唾液を手で掬い、穴をほぐした。
「記憶喪失になってもエロイな、お前」
「うるさい…です……」
「挿入るぞ」
堅志郎の中にいきなり挿入る。堅志郎は「あっ……くっ……」と言いながら悶えていた。
「気持ちいいだろ」
「あっ、う…ん。あっ」
腰を振りながら、堅志郎のモノを扱く。
「ぁああっ」
大量の白濁が俺の手に絡みつく。俺はそれを舐め回す。
「お前意外とフルーティな味してるな。」
「……うるさい!」
その後、普通に頭と体を洗い風呂を出る。堅志郎のや酔いも覚めてきたようなので、ビール500mlで乾杯した。白熊のぬいぐるみを抱きしめビールをチビチビ飲む姿に、俺はふと思った。
「こいつもう記憶戻ってるんじゃないか?」
「え?」
「いや。なんでもない。」
ビールを飲み終わり、堅志郎がベッドに倒れ込み、眠ってしまった。
俺はやれやれとした顔でタオルを掛けてやり、自分も眠ることにした。
しばらくして、ふと目覚めると隣に堅志郎がいた。
「どうしちゃったんでちゅか~?」
そう言いながら頭を撫でてやると、いきなり堅志郎は泣き始めた。
「…どうした」
「俺、俺の記憶、もう、戻らないんじゃないか、って、不安で。」
ポロポロと涙を流す堅志郎の頭をそっと撫でてやる。
「心配すんな。必ず俺がお前の記憶を取り戻してやる。その為には時間が必要だから、結意義な日々を過ごしてりゃいいよ。」
ガラにも無い言葉だが、今の堅志郎に言えるのはそれくらいだ。
───────────────
翌朝。味噌汁の匂いで目を覚ます。
「あ、恭平さん、勝手に台所借りてます。」
後ろから見ていると、何見てんすかwと言いながらネギを刻んでいた。
「お前刻むの上手いな」
「そうですか?」
「だから敬語やめろっつの。気分はどうだ?」
「だいぶ楽だよ。鬱の薬が効いてるみたい」
「そうか。何よりだ。」
食卓に堅志郎作の卵焼きと味噌汁。白菜の浅漬けが並ぶ。
「「頂きます」」
思っていた以上に、堅志郎は料理が上手かった。
「この白菜の浅漬け美味いな、自分で漬けたのか?」
「いや、セブンの。」
「そうか……」
あっという間に食事は終わり、2人で食器を片付ける。エプロン姿が何気に可愛い。
「よし。食器洗い終わり。今日は何する?」
「ドライブしたい!」
「ドライブか。まぁたまにはいいか…」
車を走らせていると、堅志郎は楽しそうに周りを眺めていた。
「そんな珍しいものあるか?」
「いや、無いけど。」
東京タワーに登りたいという堅志郎の希望により、東京タワーに来たが、1つ問題があった。
「俺、高いところ苦手なんだよな……」
「ふーん、ドブさんにも苦手なものあるんだ。」
「あるよ、そりゃ。」
展望台。堅志郎は楽しそうにしていたが、俺はなるたけ席に座っている事にした。
「ドブさん、楽しいよ!ほら!」
「そうか…やめろ、連れていくな!!」
散々東京タワーを楽しみ、観光地を楽しみ、自宅へ向かった、俺は風呂に入り、堅志郎はビールを楽しんでいた。
「相変わらずだなぁ。」
「まーな。あ、今日はサンキューな。」
「おう」
食事もそこそこに、ベッドへと倒れ込んだ。堅志郎がもそもそと布団に入ってきた。
「なんだよ」
「今睡眠薬飲んだからさ。傍にいてよ、ねむり薬が効くまでは、さ。」
しばらくすると、堅志郎の小さな寝息が聞こえてきた。俺もさっさと眠ることにした。
─────────
「い…おい!」
誰かに思い切り蹴られた。不機嫌なまま目を覚ますと、
「なんで俺がお前ど添い寝してるわけ?」
「兄…か?」
「そうだよ、今更何言ってんだ。」
記憶が戻ったらしい。俺は思わず抱きしめた。
「おい、なんだよ。気持ち悪いな」
そういいながら、満更でもなさそうに兄が笑う。2人で笑いあったあと、朝飯を作ることにした。
「お前記憶喪失の時の記憶とかあんの?」
「んー、全くないな。何も覚えてない。」
「そうか……」
初々しい大門くんにはもう会えないのか。
一抹の寂しさを覚えながら、食事を取り、食器を洗う。
「あ、買い物行こうぜ。食料もう尽きそう」
「よし、行くか。」
スーパーに行き、一番最初に向かったのが、酒売り場だ。酒を大量に購入し、米やらなにやらを買い込んでいたら、かごが4個になってしまった。
「…車で良かったな。」
「あぁ。」
家に帰り食品の整理をしていたら、堅志郎が抱きついてきた。
「んー?淋しいんでちゅかー?」
「……そうだよ、。抱きしめろ。」
「ほれ、後は酒だけだから、好きなだけだきしめてやるよ」
堅志郎は素直に抱きついてきた。
「俺の居場所は…お前しかいないんだよ。」
「なんだいきなり」
「好きだ」
「知ってる」
今日の夕飯はとんかつにしてみた。油物が食べたかったからだ。
「お前揚げ方上手くなったな」
「そうかぁ?」
「あぁ。美味しい。」
こいつが人の飯を褒めるとは。記憶喪失になってみるもんだな。
そしていつものように風呂場でヤッて、風呂から出て晩酌をしているところである。
「あんまり飲みすぎんなよ」
「あいよ。」
今日のバブは森林の香りだ。バブの炭酸効果で体はぽかぽかに温まる。そこには冷たいビール。
最高だ。
優雅な風呂を堪能して頭を拭きながらリビングに戻ると、堅志郎が眠って居た。
「飲み過ぎか……」
堅志郎をお姫様だっこでベッドに寝かし、食器やら空き缶を片付け、ベッドに潜り込んだ。バブの炭酸温熱効果で体はぽかぽかだ。
眠気が襲ってくる。うとうとしていると、堅志郎が布団に入ってきた。
「なんだよ。こっちはバブの温熱効果でぽかぽかなの。自分のベッドで寝ろ」
「添い寝してくれよ。ねむり薬が効いてくるまでわさ。」
「…しゃぁねぇな」
そのまま朝を迎える。弟に連絡を入れると泣いて家にやってきた。
「兄ちゃん……兄ちゃん!」
「悪かったな。幸志郎。」
「ドブ!お前もよくやった!褒めてつかわす!」
「うるせえんだよ。」
拳骨を食らわす。外を見ると、鮮やかな緑が広がっていた。
「よし、森林浴行くぞ」
「えー、行きたくない」
「たまには緑を取り入れるんだよ。」
おにぎり、サンドイッチ、お茶。必要なものをカバンに入れて、外に出る。
「あー、風が気持ちいいね。」
「そうだな。行ってきます。」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
…どこか聞いた事のある声がした。