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    Dictator_kana

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    Dictator_kana

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    「忠実であることが僕らの因果、 それでもいつも うまく笑えていますか?」

    出所後、コンビニの店長となった山本!横暴なエリアマネージャーに扱かれながらアルバイトの今井くんに癒されて…?

    僕、僕。Lyrics/ジュイ Music/ヒデ

    #オッドタクシー
    oddCab
    #山本冬樹
    toukiYamamoto
    #今井旬
    shunImai

    僕、僕。(今井旬×山本冬樹)やぁ、みんな!こんにちわ!山本冬樹です。俺は今どこにいるでしょうか?

    「お前舐めてんのか?」
    「いえ…。すみません。」

     床の上でした。

     エリアマネージャーの怒号が響く。

    「何だ?この売り上げ。前年比達してないしPB(プライベートブランド)達成率も低い。舐めてんのか!」
    「む…向かいにサンキューが出来たので…それで…」
    「ごちゃごちゃうるせーんだよ!」

     そう言って、関口エリアマネージャーが俺を蹴飛ばす。
     俺は吹っ飛び、ロッカーにぶつかった。エリアマネージャーが俺のあごを指でしゃくる。

    「だいたい犯罪者のお前をここまでにしたのは誰のおかげだ?」
    「せ、関口さんと矢野部長です。」
    「だよな?恩返しはしなきゃいけないよな?」
    「はい…」
    「何としても売り上げとPB達成率上げろ。それが出来ないならお前を僻地に飛ばす。」
    「は、はい…。分かりました…。」
    「じゃあ俺は芝浦埠頭行くから。」
    「お、お疲れ様です…」

     しばらく机に突っ伏していると…

    「店長、おはようございます!」

     今井くんがやってきた。今井くんはフリーターだが週五でシフトに入ってくれて、なおかつ地下アイドルを追いかけているいい子だ。

     …俺の犯した罪についてはきっと知らない。

    「お、おはよう。」
    「店長、ほっぺた赤くなってますよ!大丈夫ですか!?」
    「あ、あぁちょっとね。」
    「ちょっと待っててください!」

     そう言って今井くんが冷蔵庫からエナジードリンクを取り出す。

    「2本買ったんで、1本あげます!これで冷やしてください!」
    「今井くん…」

     やばい。天使すぎて泣きそうだ。いつの間にか今井くんは制服に着替え、エナジードリンクを飲みながらスマホをいじっていた。

    「今井くん、さっきはありがとな。」
    「いえ!大丈夫ですか?」
    「あぁ、もう大丈夫だよ。」
    「ちょっと、さっき店内まで怒号が聞こえてきたけど大丈夫なの?」

     パスタとヤミチキを片手にやってきたのは白川さん。ヤミリーマート渋谷センター口店オープンからいる大ベテランだ。ヤミチキを買ってくれたのはありがたい。

    「うん、大丈夫だ…」
    「またあいつでしょ?あれコンプライアンス違反なんじゃないの?コンプラ110番に通報したら?」
    「コンプライアンス対策室の室長は矢野部長なんだよ。部長兼コンプライアンス対策室室長なんだ。」
    「ふぅん…?」
    「要するに自分の管轄のコンプライアンスは握り潰すんだよ。通報したのが俺だってバレたら生きたまま芝浦埠頭に沈められるんだ。」
    「怖っ。」
    「我慢するしかないんだよ…」

     今井くんが珍しくうとうとしている。そっと頭を撫でてみた。

    「んぅ…」
    「何、店長そっちなの?」
    「そっちってどっちだよ。」
    「まぁいいけど。」

     しばらくして。竹田くんもやって来て今日のメンバーが揃った。

    「昼礼始めまーす。白川さんは食べながら聞いてて。」

     ヤミチキに食らいつきながらサムアップする白川さん。男らしい。

    「えっと、今日エリアマネージャーが来ましてやられにやられまくりました…。」
    「あの赤いほっぺたは関口さんのだったんですね!」
    「うん…。で、目の前のサンキューに食らいついていくには、推奨販売。PBと季節商材。お店のクリンリネス。元気な声。以上です。全員でやっていきましょう。あとはイベントを起こします。第一弾は店頭かき氷祭。店頭で作りたてのかき氷でお客さんを引きつけます。もちろん使うものは全てPBです。かき氷機は俺の自腹です…」
    「自腹なんすか!俺少し出しますよ!」
    「今井くん…」

     どうして今井くんはこんなにも天使なんだろう…。

    「大丈夫だよ。生きていけるだけのお金は持ってるからね…。」
    「とりあえずかき氷フェアやればいいんですね!価格は?原価は?利益率は?」

    竹田くんは将来関口さんみたいになりそうだなぁと思いながら、その説明を行う。

    「価格は250円。原価は全てPBを使うから大体100円くらい。利益率は…ごめん、計算してない。」
    「とりあえず売ればいいんですね!了解しました!」

     昼礼が終わり、一息付いていると後ろから声をかけられた。
    「コーヒーあげる。これ飲んで元気出して。」
    「…ミルク入りじゃん…俺ブラックしか飲めな痛いっ!」
    「あんたドリップコーヒーの原価知ってる?かき氷フェアもいいけど、ヤミドリップコーヒーも大々的に宣伝しなさいよ。」

     白川さんが缶コーヒーで頭を殴ってきた。しかも側面。かなり痛い。でも確かにヤミドリップコーヒーは盲点だったな…。

    「うん…。宣伝するわ。ありがとう。」

     白川さんがくれた缶コーヒーで一息付いたあと、売り場に出る。売り場に出て店長がやることはいろいろある。お昼のレジ点検、ヤミチキを揚げる、クリンリネス、声出しなどだ。

    「今井くんごめんね、レジ点検するから隣のレジに移動してくれるかな?」
    「はい、店長!」
    「ヤミチキいかがっすかー!揚げたてですよー!」

     横では竹田くんがヤミチキを必死に宣伝している。ありがたい。

    「今井くん、次こっちのレジに移動してくれるかな?」
    「はい、店長!」

     スムーズに、円満にコトが進んでいると思いきや…

    「え!?1万円マイナス!?」

     レジ金がズレていたのだ。マニュアルでは±5000円以上の差異はエリアマネージャーに報告をしなければならない。俺はその場に崩れ落ちた。

    「店長!?」
    「…今井くん。今日は嵐だよ…。ハハ…」

     何度数えても1万円足りない。俺は恐る恐るエリアマネージャーに電話をかけた。

    「あ、渋谷センター口店の山本です…はい。今、大丈夫でしょうか。はい、実はレジ金が1万円マイナスで出まして…」
    「んだとこのやろぉ!!!!てめぇが取ったんじゃねぇだろうな!?」
    「ち、違います違います!」
    「とにかく今から行くから待ってろ!!!」

     電話が切れる。俺はカバンから胃の痛みを抑える薬を取り出し、飲み下した。

    「てめぇふざけんじゃねぇぞ!!!!!!」
    「あうち!」

     関口さんが俺を思い切り蹴飛ばし、俺はロッカーにぶつかる。今日は矢野部長も来ていて、矢野部長は椅子に座り足を組みながらその様子を見ていた。

    「とりあえず防犯カメラ見んぞ!!!!」
    「はい…」

     今日は派遣が入っていて、レジはほぼ派遣が担当していた。

    「おい、こいつ床に落とした1万ポケットに入れたぞ。こいつが犯人じゃねぇか?」
    「…ですね。」
    「とりあえずこいつUSBに落とすぞ。USB貸せ。」
    「こ…これです。」

     関口さんがUSBに画像を落としている間、矢野部長が俺の肩を叩いた。

    「関口とドブさんどっちがいい?」

     矢野部長の口調がラップ調ではなくマジな時は、大体真面目な話をする時だけだ。店長会議でもそうだ。

    「せ…ドブさん?でお願いしたいです。」
    「近いうちに地区編成変わるから、お前んとこの担当ドブさんにしてやる。」
    「あ、ありがとうございます。」
    「矢野部長、落とし終わりました。行きましょう。」

     関口さんに続いて矢野部長が付いていく。手を後ろ手にヒラヒラさせて。いい方向に向かえばいいのだが…。

    ――――――――――――――
    「げっ、次のエリアマネージャー、ドブなの!?」

     白川さんがヤミチキを落としそうになる。俺は気にせず続ける。

    「あぁ。関口さんは別の地区だ。なんかドブさんだと問題あるのか?」
    「…元カレなのよ…」
    「えっ」

     流れる沈黙。俺は何を言っていいか分からずただ黙っていた。

    「えっと…まぁ、頑張ろうな。うん。」
    「おー。しけてんなー。お、美保じゃん!元気してたか?」
    「ちょっと!お尻触らないでよ!」
    「つれねーなー。エリアマネージャーだぞ?」
    「関係ないわよ!」
    「あ、あの、店長の山本です。よろしくお願いします。」
    「おう。あのシロクマに結構やられただろ。俺はあいつより優しいから安心しろ。」
    「あ、ありがとうございます。」

     そう言いながら売り場を巡回する溝口さん(と言うらしい)と俺。細かく指摘をしていく。

    「全体的にPB少ないな。ここの棚一本PBの菓子にしちまえよ。渋谷センター口だから、上2本はスティックタイプの菓子にして、その下3本はスナックだな。」
    「は、はい!」

     俺は今猛烈に感動している。的確な指示をしてくれているのだ。関口さんはそんな事してくれなかったぞ。

    「…まぁこれくらいだな改善事項は次回の巡回までに改善しとけ。じゃあな。」
    「あ、ありがとうございます!」
    「お疲れ様です!」
    「お!えーっと、今井くんか。新しいエリアマネージャーだ。よろしくな。」
    「よろしくお願いします!」
    「じゃあな。」

     そう言って溝口さんは帰って行った。

    「やっぱりエリアマネージャーがくると緊張するなぁ…」
    「あー、ドブムカつく…」
    「まぁまぁ…とりあえずここの一本PBの菓子にするから。今日発注しとくよ。」
    「バカみたいな量注文しないでよ。」
    「分かってるよ…」

     2日後。

     菓子の山が出来ていた。こんなに発注した覚えな…。あ、数間違えてる。

     ゴンッ

    「あたっ」
    「あんた馬鹿じゃないの!?どんだけ発注したのよ!」
    「すまん…数間違えた…」

     ゴンッゴンッ

     ビニール袋に入れた缶コーヒーの威力というものはすごい。後頭部が凹むかと思うくらいの衝撃なのだ。

    「数間違えたどころの騒ぎじゃないわよ!レジのところまで段ボール並んでんじゃない!ケイシャーダお見舞いするよ!?」
    「勘弁してくれ…何とかするから…。」

     まぁ、何ともならないのだが…。

    「店長こんなに同じ商品取ってどうするんですか?」
    「売れてる店に移動かける…あ、もしもし、渋谷センター口の山本ですが…はい…実はPBのポテトチップスをですね…240ケース頼んじゃいまして…」

     白河さんと今井くんが話している声が聞こえてくる。

    「240なんて入力したら警告出るでしょうに…」
    「眠くて警告無視したらしいですよ。」
    「馬鹿じゃないの?」

    「はい…え、10ケースもですか?ありがとうございます。はい、今日のセンター便で送らせて頂きますので…はい…すみません…ありがとうございます。失礼します。」
    「何だって?」
    「三郷駅前店が10ケース引き取ってくれるって。溝口さんも引取先探してくれてるからなんとか…」
    「そう…あんた気をつけなさいよ。」
    「はい…」

     竹田くんと今井くんは店頭でかき氷フェアをやってくれている。俺はバックルームで来たる溝口さんのために土下座の準備をしていた。

    「うーす。引取先なんとか見つかったぞ。店頭のかき氷フェアいいじゃねぇか。」
    「大変申し訳ございませんでした…!」
    「まぁ顔上げろや。次回から気をつけろよ。」
    「ありがとうございます…」

     店内では今井くんと竹田くんが必死になって、カゴ車に商品を積んでいる。俺と溝口さんは店内を巡回していた。

    「ヤミチキ、もう少し大々的に展開した方がいいんじゃないか?高粗利商品だぞ?」
    「はい。」
    「特に渋谷センター口は若者の街なんだから売れるぞ。ここ一段全部ヤミチキにしろ。」
    「分かりました。」
    「それくらいだな。クリンリネスは行き届いてるし、店の活気もある。だいぶ持ち直してきたな。」
    「ありがとうございます。」
    「じゃあ俺は南青山行くからな。斉藤によろしく言っておけよ。」
    「分かりました。ありがとうございます。」

     そう言って溝口さんは帰っていく。一息ついていると今井くんが声を掛けてきた。

    「店長、今日飲みに行きませんか?」
    「飲みか。いいよ。行こう。」

     それが悲劇の始まりだとは誰も知らなかった…。
     
     
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