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    DB vs ???

    ##路地裏の話

    この街に簡単な仕事なんてない vol.1基本仕事で外にでることはない。
    モニターがよく見えるように薄暗い部屋でキーボードを叩く、それがいつもの仕事。

    ただ、稀に外に駆り出されるときがある。
    もちろん前線で戦うわけではない、そんなのは死んでも嫌だ。安全圏で活動できることが保証されていないと絶対に足を運びたくない。
    そう言っていたけど、この街で絶対的な安全圏を探す方が難しい。警備の堅いビル内でも、頑丈な護送車の中でも、どこででも、危険は寄ってくる。

    「なんでこうも、危ないもんは寄ってくんだろうな。虫かなんか?」

    手持ち無沙汰にキーボードを叩きながら呟くと、ヘッドホンの向こうから声が聞こえてきた。独り言、と返すとマイクを切れと呆れた声が聞こえ、ブツリとマイクを切った音を最後に無音になる。

    今回は抗争があった現場付近での情報回収。大きい組織のアジトが襲撃され、壊滅までとはいかないが、大きい騒ぎになったらしい。
    ケイが現場に到着した頃には、辛うじて息のある人間が何人いるか、といった有り様。ドロ同士でもナワバリ争いがあると思うと、それこそ生きた心地のしない世界だと椅子に腰かけてぼんやり考えていた。

    自身も足を踏み入れかけた世界だが、そんないいもんじゃない。そこにいることを望まない人間もいるのかもしれないが、望んでいる人間もいる。到底理解できないが。

    「命知らずなやつばっか。ここもそうだけどさ」

    アジトでは、証拠を処分しようとした形跡がいくつか見られたが、それどころではなかったのだろう。HDやパソコンは、叩き割れば済むと思っているのかもしれない。もちろんデータはほとんど読み込めなくなるだろうが、必ずしも、すべてなかったことにできるわけではない。

    「それならHDだけもってくりゃいいだろ、めんどくさ…」

    近くの監視カメラの映像が繋がれたモニターに目をやる。アジトを襲撃する側の人間がいるのなら、情報を狙っている人間もゼロではない。ケイと同様に、データを回収するために訪れる存在がいないか、監視も兼ねて現場に呼び出された。
    現場近くに乗用車に扮した中継車の中で、周辺の監視カメラをモニターし、状況を報告する。
    監視カメラのハッキングなんてオフィスから出なくてもできることなのに。そう溢すと同じチームの人間に肩を叩かれる。しかも、わりと強めに。

    監視カメラの映像にブレはない。電子機器や書類関連など、あらゆる情報源の回収も順調らしい。
    現場で見つけたHDをリモートで繋いで、モニターを積んだ車の中で情報が拾えるか確認する。思いの外、あっさりと終わりそうだ。

    「いくつか名前くらいなら拾えたわ。それでいけそう、持ってきてくんね」

    そう言ってマイクを切り、伸びをした際にふとあるモニターが目にはいった。
    画面端に信号がうつる路地に続く道の入口付近の監視カメラ。信号の色は赤。

    信号が赤になるのはおかしいことではないし、たまたま目にした時に赤だっただけかもしれない。だが、その時はやけに、長く感じた。
    モニターから目を離さず、手だけキーボードにゆっくりのばす。気のせいであってくれ、と願掛けしながら。

    監視カメラの起動状況を確認するモニターが出た途端、ヘッドホンの向こうで耳障りな雑音が流れた。

    「DB、直ちに退避してください!」

    その声と、モニターに表示された数字と共に、バックドアを叩く音が聞こえてきた。突然の情報量に思わず手が止まり、静かになったバックドアに目をやった。ノックの音は、3回。

    「……One shot、今どうなってる」

    小声でマイクに語りかけても、反応はない。
    ノックの音もそれっきりで、横目でモニターを確認する。一部の監視カメラの再生時間は、ぴたりと止まっていた。こういうときだけ勘が当たるのは、全くもって嬉しくない。

    運転席に人がいない車のバックドアをノックするのであれば、そこに人がいるとわかっているからだ。ただ、同じケイにはこの車はノックしないように指示がいっているはず。退避するように言ってきた同じチームのケイを除いて。

    なるべく音を立てないように、モニター前にあるノートパソコンのUSBを抜いてポケットにいれる。退避もなにも、このドアの前にケイじゃない人間がいたら、詰んだも同然なんだが?

    そんな悪態をヘッドホンに再度投げ掛けようにも、ノイズ一つすら聞こえない。完全にスイッチが切れているか、切られたのか。嫌な考えが連想ゲームのように溢れてくる、もはや目眩までしてきた。

    「…これだから、現場にでるのは嫌なんだ」

    思考を巡らせていた矢先、急になにかがぶつかったような鈍い音が聞こえ、足元がふらつくほど車両が揺れた。車に体当たりしてるのかと思うほど強い衝撃で、さすがに後ずさると耳を劈く金属音が響いた。

    「武装者2名!現場にも複数名確認、至急応援を!」

    車の外から聞こえるくぐもった声は、さっきまでやりとりしていた聞き覚えのある声だった。マイクは本部とも繋いでいるが、自分のヘッドホンから聞こえてこないあたり、呼び掛けているのは本部ではない。
    後部座席から無理矢理助手席に移動し、ドアを開ける。その間にも車が揺れるほどの振動が幾度か起こり恐らくこの場で交戦している。

    応戦?まさか。
    こういった状況になったときにすべきことはひとつ。自分の命を最優先する。

    「くそっ…しばらく現場はごめんだからな!」

    ドアは閉めずに、すぐに人気のない道に走り出した。遠くでも人の声が聞こえる辺り、交戦している現場はここだけじゃない。そんなにドロがわいてんのか?

    嫌な考えと共に、振り返ることなく影が濃い路地裏の奥まで走っていった。
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