くぅ、くぅ、きゅるる「まだ、死にたくないなぁ」
ぽつり、と彼女が呟く。でもそこには悲壮感なんてまるでなくて。
「そう簡単に人は死にませんよ」
やれやれと肩をすくめ、
「ちょっとお腹が空いたくらいでは」
と傍らに座る少女に向かって進言する。
「ちょっとじゃないよう、もうおなかペコペコ! お兄ちゃんまだかなぁ」
お兄ちゃん、彼女の兄である桃山ダンジさんは「悪りぃ、ちょっと頼む」と言って偶然居合わせたライカにミレイを託すと顔見知りらしい困り顔を浮かべる大人達と共に商店街の方へと消えていった。
それから二人、ここでこうして彼が戻るのを待っている。
雑談はあまり得意ではないが高圧的でもなければ萎縮もしない彼女との会話は極めて平穏だった。
ふいに彼女が「お腹空いたなぁ」と呟いたかと思えば次に続いた言葉がそれだ。
大げさではあるけれど死なれたら困る。何かなかっただろうかと鞄を探ると「くぅ」と間の抜けた音が耳に届いた。立て続けにもう一回。顔をあげれば耳を紅くした彼女が俯いていた。ダメ押しでもう一回音が鳴る。
続いて空気が抜けるような音が自分の口から漏れ出ていた。
「──ふっ、ふふ。本当に空いてたんですね」
なんだろう妙にツボってしまい、笑いを抑えようと口元を押さえた。
「むぅ、笑うことないのに! ライカくんのいじわる!」
機嫌を損ねた彼女にポカスカと叩かれるが、まぁ、全然痛くない。それを察知したのか彼女はすっと手を止めた。すかさず笑ったことを謝ろうとするも──、
「そんなに笑いたいなら、いっぱい笑わせてあげる! えいっ!」
「え、ちょ、ミレイさん…! ふ、ふはは…!」
突然のくすぐり攻撃、全く容赦がないそれを止める術を自分は持たない。きゃっきゃとはしゃぐ声、どうやら機嫌は持ち直したようだ。少しホッとする。ただ、これ以上は息が──。
「お、なんか仲良しだなお前ら」
野菜とお惣菜の入った袋を抱えた待ち人がようやく顔を出した。その呑気な声を耳にして彼女の手が止まる。一息ついてズレた眼鏡をかけ直す。
「「──遅い…!」」
二人の声がピタリと重なった。