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    麻稀(VGではHNきむちーず)のSSやイラスト置き場(過去作品含む)にする予定。
    現行ジャンルVG。ザクトマ至上主義。oD中心オールキャラ。相手固定左右非固定。
    マシュマロはこちら→http://marshmallow-qa.com/mmr322_sub

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    ブシ□ード作品webオンリー「結局ブシなんだよな5」
    #結ブ5
    スペース31【びんづめ★じごく】小説展示『この感情に名前はまだない』

    ライカ&ミレイ 全年齢

    デラックス裏再現ファイトの良さよ……。タイトルを決めたのは最後だけどタイトル通りな気持ちで書き進めました。本当です。ユウユやハルカも出るしオールキャラだよ。

    この感情に名前はまだない
     サクサクの歯ごたえと共に品の良い甘さと濃すぎず、程よい抹茶の苦み味が口に広がる。焼きたてのそれを受け取った時に感じたずっしりとした重みから、思った以上に餡が詰まっていて食べ切れるだろうかと危惧したが気づけばぺろりと平らげていた。
    「──成る程、確かに人に薦めるだけのことはある」
     脳裏に過ぎる朗らかな笑顔。
     ほんの一瞬、締まりの無い顔を浮かべたような気がしてそれを誤魔化すように口元を拭い、備え付けのゴミ箱に折り畳んだ包み紙を捨て、足早に店を出た。
     ティルナノーグユースに向かう為のバスに乗り込み、車窓をぼんやりと眺める。
     夕暮れが近づく放課後の帰り道、滅多にしない買い食いをしたのは、ただの気まぐれに過ぎないが、不思議と心も満たされたような気がした。

    ◇◇

    「三十分程遅れます、か」
     狐芝ライカは待ち合わせをしたバス停の前でスマートフォンに視線を落としながら小さく溜め息を吐いた。事故渋滞に巻き込まれたのなら仕方がない、カードファイトの約束をしていた近導ユウユに「気にするな」と短くメッセージを返し、さてどうしたものかと顔を上げ、ズレた眼鏡をかけ直した。
     日本で開催されたデラックスを勝ち抜いた上位三名はエキシビションマッチを行う為、渡米をすることになっている。それに伴いユウユ達ブラックアウトが活動の拠点にしているワンダヒルまで赴き、壮行会と称したファイトをする約束をしていたのだが、日が高いとはいえ山の中にあるという遊園地に辿り着くまで、まだ大分時間が掛かりそうであった。
     数年前に閉鎖された遊園地『ワンダヒル』。
     そういえばそんな場所があったな、といった朧気な認識だったが、ユウユに誘われた際、「そんな場所に出入りしていいのか?」という疑問が真っ先に浮かび、問い質してみると、どうやら所有者の許可は得ているらしい。聞けば警察関係者も頻繁に出入りしているという。
     デラックスを通してカウンターファイター達に対する考えを改めたものの、無法者たちの集まりといった印象が強かったブラックアウトが法に則って活動しているのであれば忌避する必要もないだろう。
     そんなことをつらつらと思い返していたライカだが、さして時間は経過していなかった。チラリと周囲を覗えばバス待ちと思われる人間が数人おり、皆、手元のスマホに目を落としたり、音楽を聴いたり連れ合い同士でお喋りをして自由に時間を潰している。
     不意にデッキを仕舞った鞄に手が伸びるが、こんなところでカードを広げるわけにもいかずライカは手持ち無沙汰になってしまう。ならばデッキログでも確認するかと一度制服のポケットにしまったスマホに手をかけようとすると、すぐ隣で大きな声があがりライカはびくりと身をすくめた。
    「あっ! お前またその動画見てんのかよ!」
    「別に良いだろ。時間潰すのに丁度いいんだって」
     バス遅れるみたいだしあっちで見ようぜ、と話しながら少し離れたところに移動した二人組を一瞥し、ライカは手元のスマホに視線を落とす。成る程そういう時間の潰し方もあるか、と画面を開いた。
    「とりあえずヴァンガード、で検索してみるか……」
     ワイヤレスイヤホンを片耳に装着し検索画面でヴァンガード、と打ち込むと瞬時に結果か表示された。
    「う、思った以上に色々あるな……」
     公式チャンネルから対戦動画、新カード情報、は分かるが歌ってみたとは、一体? とライカは困惑した表情を浮かべながら画面を目で追い、次々とスクロールさせる。
     確かに多種多様で暇を潰すのには最適であろうが、いっぺんに選択肢が提示されたところから選ぶのは苦手だ。新弾の最速開封動画などもあり気にはなったが、ここで三十分以上もある動画を視聴するのはなんとも切りが悪すぎる。
    「ん? これは」
     ライカは画面を滑らせていた指を止めると、そこには見覚えのある顔がサムネイルに表示されていた。しかし、カードとは何ら関係なさそうなタイトルなので自分には関係ないだろうと、読み飛ばそうとするが、
    「あ」
     うっかり誤タップをしてしまい二十分ほどの動画が始まった。慌てて再生を止めようとするが『ハローブレイク…! デイブレイク〜♪』という陽気な声を耳にした彼の指の動きが止まる。画面の中では簡単な自己紹介と共に企画の説明が始まった。
    「…………」
     彼は逡巡し、停止を思い留まると、周囲を見回し近くのベンチに腰を下ろした。

    『──というわけで、甘いのがちょっと苦手って人にもオススメだよ!』
    「苦手なやつはそもそも食べないんじゃないか…?」
     顎に手を当て思わず疑問を口にする。ライカが動画を見始めてから十五分程の時間が経過していた。
    『食べ比べはここまで! 後半ではハルカも交えて利きたい焼き対決をやりまーす。チャンネル登録と──』
    「あっ、ミレイさんのサブチャンネル! それ面白いですよね」
    「──うわッ! 近導ユウユッ!」
     画面を注視していたライカの心臓が跳ねる。焦ってスマホを落としかけた。
    「えっ、あ、すみませんっ!」
     そんなに驚くとは思わなくて、とユウユはわたわた慌てた様子で謝罪の言葉を口にする。
    「嗚呼、いや、謝らなくていい。今のはこちらの落ち度だ」
     ライカはバツの悪さを誤魔化すように眼鏡の縁に手をかけ視線を反らし、何事もなかったかのようにイヤホンを外してスマホをポケットにしまった。
    「そう、ですか?」
     内心穏やかではない様子のライカに気づくことなくユウユはホッと胸を撫で下ろす。
    「あっ、でも、こっちが誘ったのに遅れてしまって──」
    「それこそ今回の遅刻はお前のせいではないだろう。謝罪で時間を浪費するより、移動に時間を割いた方が良いんじゃないのか?」
    「そ、それもそうですね。じゃあ、向かいましょうか。えっと、次に来るバスに乗ればすぐに着きますよ」
    「──嗚呼」
     ライカはベンチから立ち上がりユウユと連れ立って歩き出した。
    「そういえばライカさんも動画とか見るんですね。ちょっと意外でした」
     ユウユが笑みを零す。彼からしてみれば取っ掛かりやすい話題だったのであろうが、ライカからしてみれば少し気恥しいのであまり掘り返して欲しくなかった。
    「いや、そういったものはあまり見ない。先程見ていたのも初めてで──」
    「あ、そうなんですね。だったらミレイさんの──、デイブレイクの配信はメインとサブの2種類があってメインの方は戦術指南とかもやっているので勉強になるし、サブの方はバラエティ色が強くて面白いですよ」
     オススメです。と力説しユウユは人の良さそうな笑みを浮かべる。
    「随分と楽しそうに話すんだな。まぁ、気が向いたら見てみないこともない」
    「ハイ、是非!」
     ユウユの声と重なるようにプシュー、とバスの扉が開く。ブラックアウトも配信をしてみようという話は上がるが中々意見がまとまらないという話を聞きながらバスは目的地に向かって緩やかに走り出した。

    ◇◇◇

     大型複合施設の一角にある貸会議室を後にしたライカはエレベーターに乗り込みネクタイを少し緩めた。矢張りプロファイターとの対戦は良い経験になる。今日は来て正解だったな、と一人満足げに頷いた。目的階に止まったエレベーターを降り、駅へと向かう為、建物の裏手に位置する出入り口から外に出ると聞き覚えのある女性の声がライカの耳に届き、足を止める。
    「ん? あれは──」
    「ねぇ、貴方。一体今何処にいるの? はぁ? そっちは正面ゲート。真逆じゃない。私、人通りが少ない裏に回ってって言ったわよね?」
     苛立ちを帯びた声はよく通っていて、電話の内容までライカの頭に入ってくる。
     背もたれのないベンチにちょこんと座る少女と少女の前に立つ長身の女性はボブカットの髪を掻き上げながらスマホを耳に当て会話を続ける。
    「全く、よくそれで便利屋なんてやれてたわね。待って動かないで、私が今からそっちに、──いや、ちょっと待って、待ちなさい。ミレイ様をお一人でお待たせするわけには……」
     女性は困った様子で空いた手を額に当てた。
    「ハルカ。私、一人でも大丈夫だよ」
    「いえ、しかし、そんなわけにも……」
    「あの、何かお困りでしたら手をお貸しましょうか」
     見過ごせない事態だと判断し、ライカは彼女達に声をかけた。
    「貴方は確か……、狐芝ライカ君」
     惣川ハルカは驚いた様子でライカの名前を呟き、
    「えっ、ライカくん?」と御薬袋ミレイは小首を傾げた。

     その後、ややあってハルカからミレイを託されたライカは一人分の距離を置いて彼女の隣に腰を降ろした。ライカが石のように黙しているとミレイがおずおずとライカに声を掛ける。
    「──えっと、加賀から離れているのにライカ君はどうして此処に?」
    「今日はプロファイター同士の勉強会があったのでそちらに参加していました」
    「へぇ、凄いね。そっか、ライカくんもうプロだもんね。勉強熱心で偉いなぁ。私は地鎮祭のお仕事で来たんだ」
     この建物のすぐ隣、と彼女は言う。
    「はぁ、そうなんですね」
     デラックスで対戦する際に事前に調べた彼女の経歴を思い出す。自分とそう変わらない年頃なのにもう家業を継いで働いていてそちらの方が凄いと思うのだが上手く言葉が出てこない。
    「「…………」」
     会話が続かず何処となく気まずい空気が漂う。何か話題は無いだろうか、とライカは思考を巡らせ口を開いた。
    「──そういえば、この間、動画で紹介していた鯛焼き、食べてみました」
    「えぇ…! 本当? どのやつ、どのやつ? たい焼きってことはフェスの時の食べ比べかな?」
    「は、はい。ええと、最後に紹介していた抹茶餡の……、食べやすくて、美味しかったです」
    「あ〜、あれかぁ。能登大納言と抹茶の塩梅が絶妙で良かったなぁ。焼き立てはもっと美味しいんだろうね。そうだ、他の味は? そのお店、抹茶クリームも人気らしいんだけどそっちは食べてみた?」
    「いえ、動画で紹介されていたのだけで、ミレイさん、ちょっと、近い……」
     鯛焼きの話題になった途端、ミレイはずいずいとライカのすぐ傍まで詰め寄っていた。
    「あ、ごめん。つい嬉しくて、嗚呼、なんだか話してたらまたあのたい焼きが食べたくなっちゃったなぁ」
    「甘いものが本当にお好きなんですね」
    「うん、好き。だ〜い好き!」
     さっきも今日のご褒美にハルカとパフェを食べてたんだよ、とミレイは花が咲くように可憐な笑顔を惜しみなく披露する。
    「……ッ」
     ライカは思わず自身の胸を押さえた。この急な胸の高鳴りは何だ、と困惑しながら首を捻る。
    「あれ、どうしたの?」
    「いえ、何でも。たぶん最近は異性に高圧的に迫られるか過度に萎縮されるかの二択だったので──」
     吃驚したのかも、いや何を口走っているんだ俺は、とライカは頭を振る。
    「ええと、よくわからないけど大変だね。女難の相? が出てるのならお祓いしてあげようか」
     ミレイは心配した様子で首を傾げた。
    「大丈夫です。お構いなく……」
     ライカがミレイの申し出を断ると彼女は何か考え込むように腕を組んだ。
    「──そうだ、ライカくん。私、来週お兄ちゃんと加賀に遊びに行くから、そのたい焼き屋さんに一緒に行こうよ。今日のお礼も兼ねて、ね?」
     良いことを思いついた、とミレイはぽんと自身の両手を胸の前で重ね合わせる。
    「そんな、お礼なんて別に──」
    「もう、そんなこと言わずに、お礼させてよぅ!」
     ジタバタと駄々をこねる子供のようなミレイに押し切られる形でライカは了承の言葉を口にする。
    「う、……はい」
    「わ、やった! じゃ、約束だよ」
     はい、指切りしよう、とミレイが小指を差し出す。
    「いえ、そこまでしなくても約束は守りますよ」
    「本当?」
    「本当です」
    「本当に本当」
    「はい」
    「嘘、つかない?」
    「つきません」
    「そっか、でも私がしたいから指切りはするねっ♪」
    「えっ」
     ミレイは手探りでライカの手に触れるとそのまま自身の小指を絡ませる。小柄で華奢な彼女を振り払うわけにもいかず、呆気に取られるライカをよそにミレイは「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます! 指切ったっ♪」と楽しそうに歌いクスクスと笑った。
     彼女の突飛な行動に戸惑いながらもライカはその無邪気な姿に目を奪われる。
    「──あ」
     何か言わなくては、と口を開こうとすると、それを遮るように「ミレイ様ぁ〜」と彼女を呼ぶ声が耳に届いた。
    「あっ、ハルカ達が来たみたい。じゃあ、またね。ライカくん、帰るところだったのに一緒に待っててくれてありがとう」
     ミレイは座った状態で深々と丁寧なお辞儀をした。
    「いえ、本当にお気になさらず。ではまた」とライカはベンチから立ち上がる。
     ミレイも杖を手に取り立ち上がろうとするが前のめりに蹌踉めいたのでライカはすかさず手を貸した。
    「だ、大丈夫ですか」
    「うん、ありがとう。ふふっ、ライカくんは騎士みたいだね」
    「──っ」
     どういう顔をすればいいのか分からず、ライカは困ってしまう。何故こうも彼女は自分を惑わせるのだろう。
     程なくしてミレイのもとに駆け寄ったハルカから手厚い謝辞の言葉を受け取り、ライカはその場を離れる。
     別れ際、車に乗り込んだミレイはライカに向かって小さく手を振った。つられるように手を上げかけたライカだが、その手を下ろして目礼をすると隣のハルカが彼女に耳打ちをする。ミレイは小指を掲げて微笑むと車は静かに走り出した。
    「…………」
     約束を交わした小指を見つめる。また、とは言ったものの連絡先を交換していないことに気がついた。共通の知り合いがいるのだから何とかなるだろうが随分といい加減な約束をしたものだ。やれやれと息を吐きながらライカは駅へ向かって歩き出す。
     そもそも随伴する彼女の兄とは一体どんな人なのだろうか、分からないことばかりだというのに、ライカの足取りは軽い。
     彼がそう遠くない未来の予定を楽しみにしている自分に気づくまでそう時間は掛からなかった。



    この感情に名前はまだない/本当に?

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    mmr

    DONE今頃になってしまいましたが新年に書いていたものの、結ブの展示作品に追われてそのままになっていたザクトマSSを完成させました。(ペース配分どうにかしようね、私)
    wD後を想定してるのでイチャイチャしてます。タイトルはワンドロ/ワンライのお題をお借りしました。
    今年もよろしく テレビの画面にカウントダウンの文字が踊り、賑やかな音楽と共に新年を迎えた。
    「おめでとう〜」と口にしながら、ザクサに背中を預けていたトマリはくるりと身を捩ると、甘く視線を絡ませ、ザクサもそれに答える。どちらからともなく唇を重ねた。
    「ふふっ、今年もよろしくね。ザクサ」
    「こちらこそ、宜しく。トマリ」
     少しお酒が入っているトマリはえへへと笑いながら嬉しそうにぎゅっと抱きついた。ザクサの胸の内がじわっと熱くなる。ニコニコ顔で抱き返すと、トマリのスマホが振動した。
    「あら、もう誰かからメッセージが来たみたい」
    「そんなの後にしようよ」
     トマリの視線がコタツの天板に向いたのが面白くなくてついそんなことを口にすると彼女は「それもそうね」と微笑みながら「初焼きもち〜」とザクサの頬をむにむにと突っついた。そうは言っても彼の心を焦がすのはいつだって彼女なのだから仕方がない。
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