未定ミオシティの港から鋼鉄島行きの船に乗り、少しの波に揺られていれば島が見えてきた。
鋼鉄島は、岩肌がむき出しの部分が多くみられる、小さな鉱山の島だ。昔はその鉱山で鉱石を掘っていたらしいが、今では人が減り、鋼タイプのポケモンが多く生息する島となっている。
厳しい環境と強い野生ポケモンの生息地であることから、強さを求めるポケモントレーナーの修行場ともなっている。サトシの波動の師であるゲンもまた、その一人であるらしい。
ルカリオを相棒とするゲンは自身も波動を操ることができ、通常のポケモントレーナーとは違いひときわ山深くにて波動の修行をしていると聞いた。
しかし、連絡を入れようにも、ゲンは鋼鉄島の山奥で連絡ツールもろくに使っていなかった。
(あのバカと同じ人種か)
シンジは舌打ちと共に岩肌の多い島を睨みつけるようにして見つめた。
サトシもろくに連絡ツールを携帯しておらず、毎度どこにいるのか見つけるのに苦労した。スマホロトム普及のおかげで多少連絡が付くようにはなったが、ゲンという人物はあえてそれらのツールを携帯していないようだ。
(島に着けば会えるだろうと言っていたが……)
いくら小さい島だと言っても、しらみつぶしに歩いて探すには時間がかかる。
波動使いはあらゆる波動を感知できるとは聞いたが、会ったこともない己の波動が分かるものなのか、そしてわざわざゲンが会いにくるのかという点でシンジは疑問だった。そして、シンジ自身もまたゲンという人間を知らないため、探すのは困難を極める。
船が到着し港に降り立つと、シンジは少し迷ったが先にポケモンセンターへ向かうことにした。当てずっぽうに山に入るよりも、先に情報収集した方がいいという判断だった。
ゲンがいくら修行中であろうと、人間である以上一定の食料や生活必需品はどこかしらで手に入れているはずだ。
しかし、シンジがポケモンセンターに辿り着く前に、目の前にルカリオが現れたことでそれいは必要なくなった。
「そろそろ来る頃かと思って待っていたよ。タケシくんの知り合いというのは君のことかな?」
ルカリオによるなかば強引な案内を受け、シンジが辿り着いたのは山の中の洞窟奥深くにある遺跡だった。そこにいた青年は、シンジの姿を見てまるで全てが分かっているかのように微笑んだ。
「初めまして、ゲンと言います。君が来たのは不詳の弟子の件だね?」
「トキワジムのジムリーダー、シンジだ。何をどこまで知っている」
まるで全てを知っているようなゲンの口ぶりに、シンジは剣呑な表情で問いかけた。サトシの師匠とは聞いているが、飄々とした掴みどころのなさがあまりに胡散臭い。
そんなシンジの警戒が伝わったのだろう、ゲンは苦笑したが、すぐにその表情を厳しくした。
「詳しくは知らない。だが、一週間ほど前に彼のひと際強い波動を感じたと思ったら、すぐに消え入りそうなほど小さくなった。本来、これほど離れた距離で感じられることは波動といえど滅多にない。加えて、最近こちらに頻繁にお客様が来るようになってね。彼らの反応を見ていたら大体の察しはつくさ。弟子本人が直接こちらに来ないということは、それだけ事態が重いということだろう」
ゲンの言葉に、シンジは横目にルカリオを見ながら問いかけた。
「どうして俺がやつの使いだとわかった」
「私とルカリオは波動使いとして修業を積んでいる。波動は君たちが思っているよりもずっと多くの情報を伝えてくれる。相手が悪人であるか善人であるかもね。ルカリオはその辺、かなり敏感だ」
「心が読めるということか?」
「考えていることがまるまる分かるとは言わないよ。言っていることが嘘かどうか、あとは感情の種類が分かったりかな」
「俺のことはなぜ?」
「ああ、それは君、トバリシティのシンジくんだろう?」
自己紹介で名乗ったのとは違う、己の出身地を言い当てられ、シンジは目を見開いた。
「弟子から話を聞いたことがあるよ。バトルの映像も見せてもらった。ライバルだとね。タケシくんとヒカリさん以外で来るなら君だと思っていた」
「なるほどな」
「これで多少疑いは晴れたかな?」
ゲンの答えに、シンジはひとまず頷いた。
「頻繁に客がくると言ったな」
「以前、この遺跡はギンガ団という組織によって占拠されたことがある。最近くるのはそれに似た集団だね」
「なんだと?」
「しかし、今回彼らは遺跡やルカリオではなく私に用があるらしい。いちいち全ての相手をしていられないから身を隠していたんだ」
ゲンの思わぬ言葉にシンジは眉をひそめた。
ギンガ団、それは数年前に壊滅したと言われていたシンオウの闇組織の一つだ。ボスである人間が行方不明になったことで瓦解したらしい。残党が活動していたこともあるらしいが、ここ最近はすっかり鳴りを潜め、その存在は世間から忘れられつつある。
地元地方の闇ともいえる存在の名を聞いて、シンジの心はざわめいた。
「ギンガ団が復活したということか」
「それはどうだろう。動きにあまり統一性がなかったから一概にどうとは言いづらいな。ただ、全員、真っ当な表の人間じゃないってことは確かだったね」