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    なつさ

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    なつさ

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    食堂で邂逅した三人の話。
    シンジとアランに挟まれるゴウです。

    奇縁と呼ぶにはまだ早いその日、ゴウはタマムシシティ前の街道沿いにあるポケモンセンターに立ち寄った。ポケモンたちの回復を済ませると、自身も昼食にするため食堂に向かう。

    「うわ、人が多いな」

    お昼時の食堂は人でごった返していた。
    明日はタマムシシティで大規模なバトルイベントがあるらしく、たくさんのトレーナーたちが集まっているとのことだ。このポケモンセンターは外に簡易なバトルフィールドが作られているため、そこにも人が集まってバトルが繰り広げられているようだ。バトルした後に食堂で考察している人間も多いようだ。

    (タイミングが悪かったかな)

    ゴウはイベントに参加しに来たわけではなく、シゲルに会うために来ていた。
    プロジェクト・ミュウに参加した後、ゴウはポケモンのことをもっと知るために一人で旅に出ることを決めた。同じくプロジェクトに参加していたシゲルが一度オーキド研究所に戻ったという話を聞き、試しに連絡を入れたところ、まだカントー地方にいるとのことだったため、ちょっと会わないか、という話になったのだ。
    ひとまずカントー地方を旅すると決めたゴウと違って、シゲルは一地方に関わらず多数の地方を身軽に行き来する。これを逃せば次に会うのはいつになるかというところから、ゴウも情報交換も含めて会っておきたかった。

    (フットワークの軽さが世界規模なところは、二人とも似てるんだよなあ)

    ゴウは友人であるサトシを思い出して苦笑する。
    サトシも既に八地方を旅したことがあると言っていたし、今もどこにいるのやらといった身軽さだ。その点、ゴウはリサーチフェローをしていた頃ならまだしも、ひとりで旅すると決めてからは、まだ他地方に乗り込むには決心が足りない。
    なにせ旅するともなれば、目的地まで飛行機一本、電車一本、行って帰るというわけにはいかないのだ。
    それでも、そのうち行きたいとも思っているため、今日はその辺の話も聞いてみたかった。互いにミュウを求めるライバルでもあるが、シゲルの実力が今の自分よりも数段上ということは認めている。
    あとは、サトシの近況も聞けるんじゃないかという下心もあった。

    既にカウンターで受け取った料理の乗ったトレーを持ちながら、空いている席を探して歩く。しかし、テーブル席はもちろんのこと、一人用のカウンター席も全滅だった。

    (先に席とっとけば良かったな……ん?)

    席が空くまで歩き回るのはごめんだと思いながら見渡していると、奥の席の人影がなんとなく見たことあるような気がして目をこらした。

    (なんだっけ?どっかで見たことある気が…………あっ!)

    じりじりと近づくことで見えた紫色の髪で誰なのか分かった。

    (確か、シンジって名前の。サトシのライバル!)

    マスターズトーナメントの前に、オーキド研究所にやってきた無愛想な少年だ。
    目つきが悪く口数が少なかったため、結構怖い印象だった。というか、ぶっちゃけサトシとばかり会話しており、思い出しても直接会話した記憶がない。

    (あ、あそこ空いてる)

    ちょうどシンジが座っているテーブルの四人席のうち他三つが空いていた。その周囲を見ても連れがいるようには見えないから、ひとりなんだろう。
    相席をお願いしたら座れそうではあるが、ゴウは迷った。

    (俺の名前覚えてるかも怪しいよな)

    もしサトシだったなら、きっと何のためらいもなく声をかけたんだろう。
    しかし、ゴウはシンジと会ったのは一度きり、会話もサトシを介したもののみとなると、知り合いといえるかどうかも怪しい。声をかけて、あの目つきに誰だお前、なんて言われたら竦みあがって逃げたくなる。そうでなくてもゴウは人見知りする方だ。

    (いいやつだとは思うんだけど……)

    マスターズトーナメントの直前に、サトシのためにマスターズエイトの主力三体を揃えてわざわざ会いに来るほどだ。過去に色々あったらしいが、きっといいやつなんだろうと思う。

    (……よしっ)

    悩んだ末、ゴウは意を決してシンジに近づいた。

    「あの!」

    声をかけると、顔をあげたシンジがゴウを見た。
    サンドイッチを食べていたようだが、突然声をかけられたためか眉間に皺が寄っている。いや、これはデフォルトか?

    「こ、ここ、空いてたら座っていいですか?」
    「……ああ、構わない」
    「あ、ありがとう」

    緊張しながら問いかけると、少し間を置いて、シンジから了承の答えがあった。お礼を言って席に着く。あとは沈黙が落ちた。

    (………………き、気まずい)

    相席したはいいものの、そこから会話が弾むはずもなく、二人とも無言で食事を勧めることになった。というか、これは本当にゴウのことを覚えていない可能性がある。

    (どうする。久しぶりって言ってみるか。いや、でもそこから会話広げられる気がしないし、また無言になったら気まずさが増す。共通の話題って言ったらサトシのことなんだけど、二人がどれくらい仲良いのか知らないし、この場に居ない人のことばかり話すのも悪いし……。向こうが気づいてないなら、いっそのことこのまま気づかないふりをするか。でも、向こうが覚えてたらちょっと感じ悪いよな)

    ちらちらと相手の様子を確認しながら、どうしようかとゴウの脳内は悩みに悩んだ。いっそ全く知らない人間だった方が楽だった気がする。せっかく注文したカレーはあまり減らないまますっかり冷えてしまった。

    (いや、そんな話の通じない悪いやつじゃきっとないんだし、ここは一つ、久しぶり~からの、もし忘れられてたら、実は~って説明しよう。何事も挑戦だ)

    再び意を決して話しかけようとゴウは顔を上げる。

    「あの」
    「すまない、そこの席は空いているだろうか?」

    結構頑張って口を開いたところで、被せるように横から声がかかった。
    どこかで聞いたことのあるような、落ち着いた青年の声。出鼻を挫かれてがっくりときながらも、横を振り仰いだゴウは、目が点になった。

    「……へ?」

    これまた見覚えのある青年だった。黒のジャケットに特徴的な水色のマフラー。
    周囲のざわめきが強くなった気がするのは、きっと気のせいじゃない。

    『お、おいあれ見ろよ』
    『マスターズエイトのアラン選手じゃないか?』
    『え、嘘!どこどこ』

    小声ながらも興奮を隠しきれない人々の声があちこちから聞こえた。

    (やっぱりそうじゃん!!)

    つい最近、サトシと同じく頂点を決めるマスターズトーナメントに参加していたトレーナー、世界八強の一人がそこに立っていた。
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