無題*Scene.00
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」という言葉をきつねに教わった。何かを得たいのならば、相応の危険を冒さなければならないことを意味する言葉だそうだ。若い人魚はその言葉をいたく気に入った。敵が多く、環境の変化が目まぐるしい海で生きていく彼にとっては納得ができるものであったし、向上心を強く持ってありたいと言葉を心に刻んだ。
一方、人魚が「虎穴に入らずんば虎子を得ず」という言葉を気に入ってしまったことに対して、きつねは一種の嫌な予感を抱いていた。きつねが教えた言葉は、陸の世界に憧れる彼の背を押し、その為のあらゆる努力を良しとしてしまう。人魚は立派な性格をしており、何か欲しいものがあれば、大抵の代償は支払おうとするだろう。
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