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    ならん

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    ならん

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    桜木花道に恋した友達を応援していたら、水戸洋平に落ちる話

    #SD夢

    気付いたときには落ちている 同じ学年でも、別のクラスにやってくると、落ち着かない気持ちになるのは何故なのだろう。
     着いてきてと頼まれて、他クラスの教室の前までやってきた。入口のところで中を覗き、目的の人物を探す。
    「いる?」
    「いない」
    「あれ、どこ行っちゃったんだろね。トイレとか?」
    「うーん、どうだろ……」
     出直した方がいいかな、と友達がつぶやいた。私は、もう一度教室の中を見回し、目立つ赤い坊主頭がないのを確認すると、「もうちょっとなら、時間あると思うけど」と返す。
     友達の手には、真っ赤なラッピングの施された手のひらサイズの箱がある。中身は言わずもがな、チョコレートだ。
     授業と授業の合間の短い休み時間。このタイミングなら、勢いで渡せる気がするという友達に半ば引き摺られるようにして、私はここまでやってきていた。
     もちろん、友達が無事にチョコを渡せたらいいとは思っているが、そのために何度も廊下を往復するのはごめんだ。単純に、居心地が悪い。私がどうこうするわけではないけれど、無駄に気を遣うのは疲れるものだ。
    「……うーん、やっぱり出直し――」
    「誰かに用事?」
    「え?」
     突然後ろから声をかけられて、私たちは口を揃えて振り向いた。
     目に入ったのは、リーゼント。それから、いかにも不良めいた制服の着こなし。ただ、表情も纏う雰囲気も穏やかで落ち着いて見える。
     不思議な人だな、というのが、私のこの人に対する第一印象だった。
    「あ、あのっ……桜木くんって……」
     友達は、ぱっと顔を輝かせて、目の前の彼に声をかけた。すると、彼は「花道?」とくだんの人物のファーストネームを呼び捨てて、ぐるりと視線を巡らせる。
    「花道なら……あ、おーい、花道。客が来てるぞ」
     彼は、ちょうど男子トイレから顔を出した桜木花道に片手を上げてそう言った。途端に、隣に立つ友達の身体に緊張が走る。
     私は、行っておいでという気持ちを込めて、友達の背中を押した。友達は、多少不安げな瞳で私を見やった後、意を決したようにぐっと唇を引き締めて、「桜木くん、あの」と近寄ってきた男に声をかける。
     少し離れたところで友達がチョコレートを渡すのを、私はドラマを眺めているような気持ちで眺めていた。真っ赤な顔で、真っ赤なラッピングのいかにもなチョコレートの箱を、真っ赤な頭の男に渡す。
     出来過ぎな絵面だな、なんて思っていると、不意に「君は?」と声をかけられた。声の主は、先ほど桜木花道を呼んでくれた彼だ。
    「私は、ただの付き添いなので……」
    「へえ、優しいね」
     ふっと、張り詰めていた糸が緩んだみたいに、彼は笑んだ。その表情に、私の心臓は小さく音をたてた。
     私が思わず唇を引き締めると、彼はほんの少しだけ目を丸くしたあと、ふいと視線を逸らして桜木花道の方を見る。
    「アイツさ」
    「え?」
    「花道。こんなふうに、チョコ貰うなんて柄じゃなかったのにな」
     すっかりスポーツマンだ、と彼は嬉しそうに言う。私は、そんな彼の横顔を、やっぱり不思議な気持ちで眺めていた。だって、どうしても、違和感がある。
     話しているうちに思い出したのは、〝桜木軍団〟という名称だった。確か、桜木花道を含めて五人組だったはずだ。聞こえてくる噂程度しか知らないが、喧嘩で停学になったなんて話もあった。
     これは直感でしかなかったけれど、きっとこの人は、〝桜木軍団〟の一員なのだろう。それ以外の人物で、同学年で、気安く桜木花道のファーストネームを呼べるような人を私は知らない。
     だとしたら。自身の名前が付いているような不良グループから抜ける形で部活に精を出すなんてこと、どちらかといえば許されざる行為なのではないだろうか。それをこんなふうに、嬉しそうに話すだろうか。
     ざわざわする。気になってしまう。この人は、いったいどんな人なのだろう。何を考えていて、どんな思いを抱えているのだろう。
     好奇心の赴くまま口を開きかけたところに、友達が駆け足で戻ってきた。私は口を噤み、彼女を労って、桜木花道に会釈をする。
     時計を確認すると、もう数分でチャイムが鳴るという時分だった。ゆっくり話している時間はない。私は、色めき立つ友達の背を押しつつ、「じゃあ、私はこれで」と黒いリーゼントの彼に声をかけた。
    「お疲れさん」
     彼はそう言って柔らかく笑って、私を見た。その途端、私の口から、意図しない言葉がこぼれる。
    「名前は」
    「え?」
    「あなたの、名前」
    「ああ。オレは水戸」
    「みとくん」
     私がおうむ返しに名前を呼ぶと、水戸くんは笑って頷いた。また、私の心臓は軽やかな音をたてる。
     教室まで戻る道すがら、私は友達と肩を寄せ合って歩きながら、自分の心臓の音に耳を傾けていた。
     
     ◇
     
    「応援?」
    「うん。練習試合があるんだって。一緒に行かない?」
     どこから情報を仕入れてきたのか、友達は上目遣いにこちらを見つめてそう言った。その瞳には、言外に『おねがい』と書いてある。
     私は、どうして休みの日を潰してまで応援など、と言いたくなった。が、ふと脳裏を、とある人物の顔が掠める。
     ――あのひと、は……。
     気付けば、私の口は勝手に開いていた。
    「……いいよ」
    「おねが……えっ、いいの?」
    「うん。どうせ用事もないしね。何時?」
     私がそう尋ねると、友達は『意外だ』という顔を引っ込めて、話し出した。私はその内容を心のメモ帳に書き留めながら、相槌を打った。
     
     いつもより少しだけ気合を入れて、けれどあからさまになりすぎないように気を付けて服を選ぶ。
     校門のところで友達と待ち合わせて、私たちは肩を並べて体育館へ向かった。
    「今日なんか気合入ってない?」
    「え、別に普通だけど」
    「そ~かな~? ちょっとメイク濃かったり――」
    「あんたのほうが、どう考えても気合入ってるでしょ」
     友達からの軽口に軽口を返す。友達はまんざらでもなさそうな顔をして、前髪をいじり、「……どうかな?」なんて不安げな声を出した。私は脚を止め、正面から向き合って上から下まで眺めたあと、「いいんじゃない?」と言う。
     実際、友達はひいき目なしで結構可愛いと思う。男子から呼び出されて告白、なんて話を聞いたのは、一度や二度ではない。
     そんな彼女の友達枠として収まっている私の客観的な評価は、いいとこが『それなり』といったところか。十分だ。私は別に、目立ちたいわけじゃない。
     彼女の恋が上手くいくかどうかなんて、まだ分からないだろう。ただ、どちらかと言えば恋愛では追いかけられる立場だった彼女が、追いかける立場である今、私から見て彼女は楽しそうだ。そして、彼女が楽しく恋をしている姿を、私も好ましく思っている。
     体育館にたどり着き、二階に上がる。遠くに聞こえていた音たちが、どんどん大きく鮮明になっていった。ゴールポストのある面に向かい合わせに伸びるテラスのような部分は、すでにそれなりの人影で埋まっている。
    「どこいく?」
    「なるべく近いとこがい――」
    「あれ」
     階段を上りきったところで足を止め、ひそやかに言葉を交わしていた私たちの後ろから、聞き覚えのある声がした。
     私たちが慌てて振り向くと、そこには水戸くんがいる。両手に抱えているのは、コーラの缶たち。
    「応援?」
     にこやかに、水戸くんはそう言った。視線が絡み、どきりと心臓が鳴る。反射的に頷くと、水戸くんは「じゃあこっちおいでよ」と先導して歩き出した。
     あれから友達に話を聞いて知ったことだけれど、水戸くんは〝桜木軍団〟の中でも特に目を置かれていた存在らしい。桜木花道の親友であり、理解者なのだとかどうとか。
     水戸くんが私たちを連れてきたのは、湘北側のベンチが良く見える場所だった。そこには見覚えのある男子たちがいて、「洋平、お前はコーラ買いに行ったんだよな?」と詰め寄られている。
    「買ってきてるだろ、ほら。この子たちは、花道の応援。な?」
     水戸くんはそう言って彼らにコーラを手渡しながら、こちらへ首だけで振り返った。すると、彼らは目を丸くして「花道の応援?」と声を揃えると、大げさに涙ぐむような仕草をした。
    「あの……五十人連続で振られた花道が……?」
    「晴子ちゃん以外の女の子の、応援……?」
    「こんなかわいい子が……? 信じられん」
     あんまりにも失礼なのでは、と思うようなことを、彼らは口々に呟いた。ただ、その表情は揶揄いとは全く別のものだったので、恐らく本当に感動していたのだろう。
     私と友達は軽く自己紹介をして、どうぞどうぞと詰めてあけてもらったスペースに身を落ち着けた。
     友達は桜木花道の姿を見つけると、目を逸らさないまま私の耳元で、「ほんとにかっこいい」と耳打ちをする。私はそれに適当に相槌をしつつ、意識は別のところに集中させていた。
     なにせ、私の右隣には友達が、左隣には水戸くんがいるのである。もともと彼らが陣取っていたスペースを無理やり詰めてもらったので、ほとんど肩を寄せ合う形で手摺にもたれることになったというわけだった。
     少し身じろぎするだけで、肩が触れる。高い体温、整髪剤のにおい。
    「そういえばさ」
     水戸くんが口を開く。私がちらと視線をやると、いとも簡単に目が合った。
    「この前、名前聞き忘れてたなって思って」
     聞いていい? と水戸くんは続けた。私は断る理由もなく、たどたどしく、名前を答える。と、水戸くんは何かを確かめるように、口の中で「✿ちゃん」と繰り返す。
    「✿ちゃんは、バスケ興味あるの?」
    「いや、私は……そんなに……」
    「じゃあ、今日も付き添い?」
    「うん」
     私が頷くと、水戸くんは「やっぱり優しいね」と笑った。私は「そうでもないと思うけど」と言葉を濁しつつ、いつの間にか試合の始まりそうなコートを眺める。
     空気が緊張し、張り詰めている。さっきから心臓が煩いのは、きっとこの緊張に当てられたせいだ。
     
     はじめてまともに見るバスケットは、考えていたよりもずっと面白かった。私は最初の緊張も忘れ、友達と声をあげ、時には手を挙げて喜んだ。
     友達と歓声をあげるたび、ふと気づくと水戸くんと目が合った。水戸くんはそんな私に笑って、片手を差し出す。ハイタッチをして、また応援する。
     それまではほとんど興味なんてなかったけれど、スポーツっていうのは案外おもしろいものなのかもしれない。
     もし次の機会があれば、今度はもう少しルールを勉強してから見に行こうなんて心に決めて、体育館をあとにする、そのとき。
     階段を下りきったところで、「ねえ」と背中に声がかかった。振り向くと、そこには水戸くんたちがいる。
    「二人は帰り、どっち方面?」
     私は友達と顔を合わせ、口々に答える。友達は駅へ、私は駅とは反対の方が自宅だった。
     すると、一番背の高い彼が何か言おうとしたのを遮るようにして、水戸くんが「じゃあ、オレが✿ちゃん送ってくわ」と口にした。その言葉に、私の心臓はまたひときわ大きな音をたてる。
     意外だったのは、私だけではなく、他の彼らも驚いた顔をしていたことだった。が、水戸くんは有無を言わせることなく、「じゃ、いこーか」と私に言う。
     私は、思わず友達を見た。どうしたらいい? と視線だけで訴えると、彼女は綺麗にウインクして唇だけで『がんばって』と告げる。彼女にしてみれば、どんな形であれ桜木花道と懇意にしている彼らとつながりが持てるのは、チャンスだということなのだろう。
     何か良いこと聞いたら教えてね、と言われているのが分かる。私はやっぱり断れなくて、そんなまっすぐ恋をしている友達が眩しくて、「わかった」とこぼした。
     校門のところで手を振って別れる。ガラの悪い男子三人に囲まれた友達は、傍から見たらなかなかに愉快だ。
     少し歩いたところで、水戸くんは不意に、「今日」と口を開いた。
    「どうだった?」
    「試合? 思ったより楽しかったよ。ルール全然分かんなかったけど」
    「そっか」
     楽しかったならよかった、と水戸くんは続けた。私は不思議な気持ちになって、「へんなの」と言う。
    「変? オレが?」
    「うん。だって、なんかそれって、バスケ部の人が言うセリフじゃない?」
     私がそう首を傾げて問いかけると、水戸くんは「あー、まあ、そうなんだけど」と煮え切らない返事をした。うっすら眉間に皺を寄せて、口元にぐっと力が入って、視線が泳ぐ。
     困っている。水戸くんが。
     途端、私の中に浮かんだのは、ちょっとした悪戯心みたいなものだった。私は口元を緩めて、明後日の方を見つめる彼の顔を下から覗き込むようにして、口を開く。
    「……水戸くん?」
     元来、私はこんなふうに振舞える性格ではない。こういうのは、友達の専売特許だ。だというのにこんな振る舞いをしてしまえたのは、さっきまでがあんまり楽しくて、気分が高揚していたからなのかもしれない。
     水戸くんは一瞬私を見て、視線を逸らし、口元を手の甲で覆った。そして小さく、「……楽しかったなら」と囁く。
    「また、〝付き添い〟に来るかなって」
     その言葉は、私の心を揺さぶった。顔が熱い。それはつまり、またこうして会いたいと言っているのと同じに聞こえる。
    「それって――」 
    「うん」
    「っ、」
    「……うん」
     参ったな、と水戸くんは眉尻を下げて、柔らかく笑った。私はその顔を見つめながら、どうやら休み明けに桜木花道の良い話はできそうにないな、なんてそんなことを考えていた。
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