おまかせCooking!「さあ!始まりました!ドラドラクッキングのお時間ですわ!実況は私、ロナルドとドラルクさんの最愛の使い魔、ジョンさんでお送りいたしますわ!」
「ヌヌヌイー」
「今回のドラドラクッキングは、なんとドラルク城のキッチンではございませんことよ。親切なおじい様が貸してくださったお家が会場ですわ」
この会場をどのような経緯で手に入れたかというと、ロナルドが「どこかにふっ飛んでも大丈夫なお家はないかしら」と呟きながら、街を歩いていたところ、知らないおじいさんが突然声を掛けてきた。
こんな物騒な台詞を呟きながら歩いているものに声を掛けるなんて、警察か正義感の強いものかやべぇやつである。
おじいさんはロナルドに木っ端微塵にして欲しい家があると、この会場を提供してくれたのだった。
どうやら近々解体しようと思っていた家だったのだが、解体には結構な費用がかかるのでどうしようかと思っていた時にロナルドの呟きを聞いて、これだ!と思ったらしい。
ぎりぎりやべぇやつではないかな?というラインだった。
因みにきちんと契約書もあるので詐欺の心配はいらない。
会場は山の中にあるログハウスだった。ちなみにこの山もおじいさんのだ。事前にロナルドは燃えても大丈夫ですか?と確認をとった。そうしたら焼畑農業ができるな!とサムズアップしてくれ、契約書にも追加で記入したのでこちらも了承を得ている。
ポジティブに生きているおじいさんである。
「さて、ドラルクさん今日は何をお作りになりますの?」
実況をしている一人と一玉を始めは微笑ましそうに見つめていたドラルクは、今は真剣な顔をして調理台に材料を並べている。
「カレーにしようかと」
「なるほど、考えましたわね。カレーならば多少へんな材料や調味料が入ったところでルーで全てを誤魔化せますわ」
「ヌヌン」
ここまでくると分かると思うがドラルクはとても料理が苦手だ。料理をすれば黒焦げの炭を筆頭に謎の物体Xも出来上がる。炎上エンドなんてザラにある。
料理をするときは必ずジョンがドラルクの近くで消火器を抱えていた。
「何があってもヌンがお守りします」という心強い言葉をドラルクに贈っている。
自分が料理を出来ないことは分かっているドラルクは料理に挑戦することを諦めていたが、ロナルドの応援により再び練習することにした。
「何度失敗したとしても、やらなくては上達いたしませんわ。ドラルクさんのお料理ならたとえどんなものだとしても私は愛しますわ」
実際どんなものができてもロナルドは食べきっている。材料におかしなものは使っていないのに、何故かうようよと動く料理すらロナルドは食べきり、歴戦の覇者のような顔をしていた。
「にんじん、じゃがいも、たまねぎ、豚肉…」
「おシンプルで素敵な材料ですわね!」
「ヌンヌン」
一つ一つ食材を取り出して名前を言うドラルクが可愛くてロナルドの顔はデレデレだ。これからどんな惨状が起きようともロナルドには全て受け入れる覚悟がある。
「洗う…」
レシピには野菜を洗う等と初歩的なことは書いていないが、ドラルクは忘れていない。昔洗わないで料理をしてしまった時にジャリジャリと砂の音をさせながらジョンが食べていた。
ジョンの強靭な肉体は胃袋までも強靭だったが、それはそれとして愛おしい使い魔になんてものを食べさせているんだとドラルクは落ち込み、野菜は洗うという知識を身に着けた。
泥のついている部分を擦りながら丁寧に洗っていく。
「お野菜を洗っていますのね。とても丁寧で素晴らしいですわ。私もドラルクさんを洗いたい…」
「ヌ〜」
野菜を洗っているドラルクを見てロナルドがほうっとため息を吐く。料理と全く違うことを考えているロナルドにジョンはペチンと実況席の机を叩いた。
「次は材料を切るみたいですわね」
直接包丁を入れる前に、皮をむこうとピーラーを使っている。あれは包丁で皮をむこうとし、食材がみるみる小さくなっていく様子を魔法かなと思ったロナルドがプレゼントしたものだ。
「美しくですわ~!」
食材を切っている時が一番神経を使うようで、ドラルクの顔は真剣そのものだ。戦闘中より真剣な顔をしている。ドラルクにとって料理とは戦いだ。
「食材を切っていますわね。大きさにバラつきはありますが、何も問題はありませんわ。ドラルクさんがお死になっていないので、完璧ですわ」
料理がヘタな人が漫画に登場するとよくある、指にバンソウコウはドラルクにはありえない。指を切ると途端に死ぬからだ。死なずに料理している時点でロナルドの中で百点満点だった。
「ヌヌッー」
「切った食材をお鍋に入れて炒めていますわね。火力が強いのでところどころ焦げてはいますが、ご愛嬌ですわ」
強火で炒めているため、食材は端々が焦げている。炒める前に油を入れているはずなのに、鍋のそこにいくつかくっついている。
「お水を入れましたわ。カレーのいいところは中は生で炒め終わっても煮るという行為で火が通るところですわ」
高火力で炒めたものは外が焦げていても中は生なんてことがよくある。カレーはある程度炒めた後で煮るので生焼けの心配がない。
「蓋をしてしばらく休憩タイムですわ」
「ヌヌ!」
タイマーを二十分後にセットするとドラルクがロナルド達のところに戻ってきた。お鍋は見える位置なので、多少離れたところで問題はない。昔鍋がそれで燃えたことがあったが、今回は火を弱めてきたので大丈夫だ。
「ヌイヌヌヌ!」
「ありがとうジョン」
「ありがとうございます、ジョンさん」
ジョンが用意してくれた紅茶を飲みながら他愛のない話をしていく。ジョンの最近のお気に入り筋トレ話は特に盛り上がった。筋肉をつけたいドラルクは詳しく話を聞いているし、すでに立派な筋肉をもっているロナルドは自分のおすすめ筋トレの話もしていく。
「鳴りましたわね」
ドラルクの筋トレを手伝うことになった辺りでタイマーがピピピとドラルクを呼んだ。
蓋を開けるとぐつぐつと鍋の中が煮えていた。
「さて、カレーで最強のルーが登場しましたわ。それをいざ投入ですわ!」
「ヌイヌー!」
カレーのルーが鍋に入り、ドラルクがぐるぐると炒める時に使った木ベラでかき混ぜている。
ロナルドとジョンの元にカレーの匂いが漂ってきた。
「匂いは特に問題なさそうですわね」
多少焦げたりなんだりしたが、全てはルーで誤魔化せるし、作る工程は何も問題が無かった。だけど、ロナルドとジョンは警戒心を緩めない。
ここからだって何が起きるか分からない。ドラルクの料理とはそういうものだった。
「なぜかしら?」
ドラルクがカレーをお皿に盛り付けたとたん物体Xに変わっていた。ドラルク自身も首を傾げて不思議がっている。
作っている時は何も問題なかったはずだ。盛り付けも特に変なことはしていないように見えた。なのにここにあるのは物体X。
まさかと思い、ロナルドが台所を見ると鍋からうごうごと物体Xが出てこようとしていた。
「生きてますわね。流石ですわドラルクさん」
命を与えるとは流石だとドラルクを全肯定するロナルドは満足そうに頷いた。
愛おしい人が作った目の前に置かれた物体Xは食べきるとして、鍋から出ようとしているアレは後で燃やし尽くしてしまおうとロナルドは決意する。
料理下手に炎上エンドはお約束なのだ。