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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.2.8。⚠️死ネタ注意!!⚠️

    1=1/2+1/2「勝者、獅子神敬一様」
     コールとと同時、ワッと悪趣味な仮面を付けた奴らの沸く声が聞こえた。
     勝利したオレを、称える声。
     けれどオレの心は、そんなものに全く高揚しなかった。
     何故なら、対戦相手は……オレに、負けたのは。
    「敗者、村雨礼二様。これがさいごのペナルティになります」
     さいご?
     銀行員の発する言葉の意味が、わからない。
    「むらさ、め……?」
     呼ぶ声が震える。
     影になっていて、アイツの顔は見えない。
     ただ静かに立ち上がり、観客を振り返った。
     そのまま、足を進める。
     二度と戻れない、終わりに続いてる道だった。
    「……まて、よ」
     立ち上がる。
     その声にも、やっぱり村雨はこちらを見ない。
     なぁ、今、どんな顔してんだよ?
     なんで何も言わねーんだよ。
    「村雨様、何か言いたいことがあれば聴きますよ」
     さいごなんで。
     ピクっと、村雨の耳が震えたことがわかった。
     ただ「何も……」と拒否しかけたのが、何か思い出したみたいに首を振る。
    「あなたが継げ」
     あ。
     一言。
     たぶん行員も、VIPも、意味のわからない言葉。
     それを分かるのは、受け取れるのは、オレだけで。
    「………ッ」
     バン!
     と、力任せにテーブルを叩いた。
     音に大勢がこちらに向く。
     いくつもの視線が突き刺さる。
    「まてよ」
     オレの声は、たぶん、悲鳴そのものだ。
    「……オレも、一緒に入れろ」
    「はい?」
     続けた言葉に、訝しげな顔を浮かべる司会の声。
     唇を歪めて、吐き捨てる。
    「『オレも一緒に死なせろ』て言ってんだ」
     視界の端で、村雨の肩がビクッと震える。
    「勝負に勝った敗者の恋人が『一緒に死にたい!』つってんだ。いい見せ物だろ?」
     できるだけ不遜に見えるように言い放つ。
     まだ、村雨はこちらを見ない。
    「それも悪くは無いですが……二人同時にギャンブラーを失うのは損失ですし……」
     対照的に、司会の声冷静だった。
    「愛する人を『殺さないで!』と懇願して頂くのも、素晴らしい見せ物です」
     
     一気に、全身の血が沸騰した気がした。
     ああ、そうか。
     そーゆーことなら仕方ねーや。
    「なら、オレ今ここで死ぬわ」
     言葉は、自然と出てきた。
     ポケットからナイフを取り出して、自分の首に当てる。
     前に真経津から聞いたことがある。「簡単に持ち込めたよー」と、教えてくれたアイツに感謝だ。
    「……」
     さすがに司会も読んでなかったのか。
     フロア全体が凍りついた一瞬に、オレはテーブルを飛び越えた。
     何にぶつがろうがお構いなしに「村雨!」と呼びかけながら駆け寄る。
     追いついたのは、死へ誘う場所の一歩手前だった。
    「村雨……」
    「………ッ」
     呼びかけると、ようやく村雨は振り向いた。
     ヒビの入った金縁眼鏡の奥で、赤い目が燃えている。
    「この……マヌケが………………っ」
     こんな風に取り乱す村雨礼二を、たぶん初めて見た気がする。
    「フザケるな 私が、なんで……私が どんな、想いで……ッッ」
    「………知ってるよ」
     ナイフを捨てて。こちらを突き飛ばそうとする手を捕まえて。
     白い手に、口付けた。
    「知ってんだよ」
     真っ直ぐに、見つめる。
     そう、今日だって、本当は村雨は勝てたんだ。
     コイツは、いつだって、まだまだ、オレより強い。だから、勝ったのは村雨のはずだった。
     ただ、村雨の願いが、それを阻んでいた。
     オレを殺せない、て一点だけが、勝利を村雨から奪い去った。
    「全部、知ってるから」
     オレも、それに気が付いた。
     受け取ってしまった。
     村雨礼二の、唯一にして絶対の、心からの願いごと。

     あなたは生きろ

     だから、オレは勝つしかなかった。手加減とか、できる筈も無かった。
     そう、オレが生きることが望みだから。それを、オレが叶えないわけにはいかないから。
    「けれど……悪ぃ」
     唇を離し、口づけていた手をグッと握る。
     絶対に離さない、てオレの気持ちだけでも伝わるように。
    「やっぱ、無理だわ」
     お前の……村雨礼二のいない世界で生きていく自分なんか、逆立ちしたってイメージできねーんだよ。
    「……あなたは……」
    「オマエまで……」
     何か反論してくるのを、遮る。
     畜生、声が震える。
    「オマエまで……オレ、置いてくなよ」
     笑ってみせる。
     暗赤色の目が、大きく見開かれる。
     オマエ、そんな顔もできたのか、と。こんな時なのに笑えて仕方なかった。
    「なぁ、村雨」
    「……なんだ」
    「愛してる」
     繋いだ手を、硬く硬く握る。
     嗚呼、オレは今うまく笑えただろうか。
     声は震えていなかっただろうか。
     胸を張れているだろうか。
     オマエに誇れるオレで在れてるだろうか。
    「だから……ずっと一緒だ」
     そっと。額に口付けた。
    「……あなたは…………本当に、マヌケ…だっ…」
     心から吐き捨てたような声に、悪ぃと応える。
     でもマヌケだからお前を一人で逝かせないで済むなら、マヌケで大いに結構だ。
    「獅子神」
    「ん?」
    「……愛してる」
    「……オレの方が愛してるよ」
     それが、さいごの愛の言葉。
     二人揃って、足を踏み出す。コレがオレたちの、さいごの一歩。
     けれど。この手は、何があっても離してやらない。
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