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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.4.27。学パロ第三話。自転車。
    🦁⇨1年C組。美術部員。寮住まい。
    ☔️⇨3年A組。生徒会書記。万年首席。

    ##学パロ

    【学パロ】STAY with ME③ 一年生の獅子神敬一と、三年生の村雨礼二は付き合っている。
     そんな噂は、いつのまにやら少なく無い生徒の間に、囁かれるようになっていた。
     事実ではある。のだが。
     特に積極的に広めたわけでもないが⋯⋯と思い。同時に無理も無いか、と。村雨は恋人である後輩を見ながら考える。
    「ん?どーしたセンパイ?」
    「あ?⋯⋯いや」
     この後輩。わかりやす過ぎる。
     本人は隠してないだけで、開けっぴろげにしているつもりは恐らくないのだろう。
     けれど、とにかく、村雨を『見る目』が違う。
     二人きりでない時は、『センパイ』と呼び⋯⋯敬語こそないが(あまりの違和感に村雨が「使うな」と命令した)、生徒会書記の引き継ぎも真面目に聴き、恋人だから、というなあなあさも感じさせない。筈で。
    「⋯⋯⋯ん」
     考えながら村雨は、鞄から買ってきたばかりのペットボトルを取り出す。開けようとすれば……少しばがり、蓋が硬い。
     それを、自然な動作で獅子神が奪い取る。軽く捻って開けてから、村雨の手に戻す。
     この間、三秒ほど。そして、全くの無言である。
     そもそも、今村雨が食しているのは、獅子神手製のバナナチョコマフィン。
     とても村雨の好みの味であり⋯⋯村雨の為だけ
    に焼かれた物だ(他の生徒会メンバーには、また違うマフィンが振る舞われていた)。
     また、獅子神は⋯⋯想定以上に、独占欲が強かった。
     村雨に近付く人間全てを威嚇するわけではない。
    が、一定以上の好意を持っているとわかる相手には⋯⋯男女問わず⋯⋯自然と割って入り、村雨を自分の元に連れ戻した。
     これでは。少なくとも、周りの近しい人間は気がつくはずだ。
    「⋯⋯ん?どーした?」
    「いや⋯⋯美味い」
    「ん、よかった」
     マフィンを食しつつ呟けば、心底嬉しそうに笑う。そんな顔は、可愛いと思う。
    「なーなー敬一君ー礼二君ー」
     ふと、二人の間に割り込む声。派手な紫の髪をした男性生徒⋯⋯二年の叶が、こちらに顔を向けていた。
     驚くことに⋯⋯と、いうべきか。彼は次期生徒
    会会長に内定している。
    「ん?なん⋯⋯ですか?叶先輩」
    「敬一君、敬語苦手そうだなー」
    「いや、苦手ってワケじゃねー⋯⋯ですけど」
    「はははは」
     叶のキャラクター性故か。獅子神はどうも話しにくそうだ。
     それを横目で見ながら、村雨は叶に話の続きを促す。
    「さっきオレたちで、今度の休みにサイクリング行こうって話になったんだよ」
    「サイクリング?」
    「そうそー。二人も行かねー?」
     なるほど。高校生らしい、と言える。なんせ、まだ車に乗れるトシではないのだ。
     確かここから少し離れた所に、有名なサイクリングコースがあった覚えがある。
    「な?どーだ?」
    「そうだな⋯⋯」
    「あ⋯⋯悪ぃ、叶センパイ」
     答えかけた村雨を遮るように、獅子神の声。
    「オレ⋯⋯自転車、乗れねーんだ」
    「え?そーなのか?」
     意外そうな声が上がる。
     獅子神が身体を鍛えることが趣味であり、運動神経抜群なことは知れ渡っていた。
     まさか自転車に乗れない、などとは誰も思わなかったのだろう。
    「そかーなら、仕方ないなー」
    「いつか、乗れたらオレもいくよ」
    「ん、がんばれー」
     軽い叶の言葉と共に、会話は終わる。
     けれど、村雨は⋯⋯獅子神の複雑な感情が宿る横顔から、目が逸らせなかった。

    ***

     高校生・獅子神敬一の朝は早い。
     日が昇る前に起き出して、寮の自分の部屋の窓を開ける。
     朝の風を感じつつ身体を軽く動かしてジョギングへ⋯⋯そのルーティンは、たとえ休日でも変わらない。
     が。
     その日の朝。窓を開けた下。寮のすぐ前に、恋人である上級生が佇んでいた。
    「!!村雨!?」
    「⋯⋯⋯」
     くいくい、と。無言の手招き。
     それに、誘われるように。慌てて服を着込み、階段を駆け降りる。
    「村雨!」
     ドアを開けて外に出れば、朝特有のヒヤッとした風が肌を撫でる。
    「おはよう」
    「おう⋯⋯おはよ。て、どーしたんだ?こんな時間に」
     村雨の服は、もちろんいつものきっちり着こなされた制服ではなかった。
     大きめのパーカーに、柔らかそうな生地のパンツ。眼鏡だけが、いつも通りで。
     そして傍には、青い自転車が停められていた。
    「何処か行くのか?」
    「ああ」
     頷く。
     それなのにわざわざ?と首を傾げれば、村雨はスタンドを外した自転車に跨った。
     そして⋯⋯じっと、こちらを見る。
    「???」
    「乗れ」
    「は!?」
    「乗れ、と言っている」
     細い指が、くいくい、と荷台を指差す。
     は?とえ?と。疑問符を飛び散らかしながら、獅子神は慌てた。
    「え?なんで?いや⋯⋯」
    「私は、乗れと言っている」
    「⋯⋯はい」
     この状態の村雨礼二に、勝てるはずもなく。
     獅子神はおっかなびっくり、荷台に腰掛けた。
    「捕まれ」
    「はい」
     大人しく従い、目の前の細い腰を掴む。
     実際にそうしてみると⋯⋯見た目以上に、恋人の腰は細く、力を込めれば折れそうに感じた。
    「行くぞ」
    「え?あ、おう?」
     力強く。ペダルが踏み込まれる。
     同時、自転車が走り出す。
    「お、と⋯⋯」
     速度が上がるにつれ、顔に当たる風が強さを増した。前に視線をやれば、ペダルを漕ぐ村雨の背中がある。
    「なぁ、村雨⋯⋯」
    「い、ま⋯⋯話し、かける、な」
    「あ、悪ぃ」
     切れ切れの言葉に謝罪する。口を閉じて耳を澄ませば、荒い息遣いが聞こえる。
     細い首筋を、汗が伝うのが見えた。
    (⋯⋯ああ)
     やっぱ、男、なんだよな⋯⋯。
     男子高校生にしては、かなり華奢ではあるけれど。掴んだ腰も、とても細いけど。
     けれど、力強くペダルを踏む足も。脈動を感じる、細い肩も。そこにあるのは、やはり男子の身体だった。
    (⋯⋯好きだなー)
     ぼんやりと、思う。
     絵を描く為に、見つめ続けた数日間。すっかり心は、この上級生に囚われていた。
     他のやつには渡さない。オレが一番傍にいる。誰より先に力になる。
     そんな風に、願ってやまないほどに。
    「⋯⋯村雨」
     声をかける。返事はないことを、承知の上で。
     汗の伝う首筋を、綺麗だと思った。
    「好きだ」
    「⋯⋯⋯知って、る」
     風に掻き消されそうな小さな声は、もしかしたら聞き間違いだったかもしれないけれど。
     やがて、自転車は緩い上り坂を越える。
     村雨は一度も、獅子神に降りるようには言わなかった。
     坂を越え⋯⋯やがて、道が途切れる。正確にはカーブしており⋯⋯その途中、道の脇にひらけている場所があり。端から、街を見下ろせた。
     自転車が止まり、獅子神が先に降りる。村雨は自転車をスタンドでとめ⋯⋯フラフラと、その場に膝をついた。
    「あ、おい。ダイジョーブか」
    「膝がギシギシする」
    「だろー、な?」
     それでも「街が見たい」というので、肩を貸して立ち上がらせる。
     フェンスの手前まで行けば、遠く、街並みが広がっていた。
     その、東の空。紺色をこじ開けるように……陽が、昇る。
    「⋯⋯お」
     力強く届く光に、目を瞬いた。
     隣を見れば、同じく朝日に包まれた恋人の顔がある。
    「……村雨」
    「なんだ」
    「オレ、自転車乗れねーんだよ」
    「知っている」
     淡々と答える声に。だよな、と頷く。
    「オレ、子どもの頃とか、親にちゃんと色々教わった覚えってなくて。だから自転車も⋯⋯なんだよ」
    「⋯⋯」
    「自転車、だけじゃなくて。たぶん、村雨が⋯⋯他のヤツらが当たり前にできることも、オレ⋯⋯」
    「私がいるだろう」
     思いの外力強い声は、耳のすぐそばで響いた。
    「へ?」
    「私がいる」
     その声が、もう一度繰り返す。
     私がいる。と、凛とした声が告げる。
    「私もあなたも⋯⋯まだ、子どもだ。だから、将来を誓い合うなどは、とてもできない」
    「ああ、そう⋯⋯だな?」
    「けれど、今の私は断言する。あなたには、私がいる」
    「…………」
     眼鏡越しの、暗赤色の瞳と見つめ合う。
     世界一綺麗な赤だ、と、想う。
    「私は、硬いペットボトルが開けられない」
    「あ?ああ」
    「お菓子も作れない。家庭科はいつも筆記でカ
    バーしても三だ。運動もさほど向いていない。そして、実は泳げない」
    「⋯⋯おお」
    「だから、身体を使うことは、あなたが向いている。私にできないことを、あなたは多くできる。けれど。逆もまた然り、なんだ」
     揺らぎない⋯⋯これが高校生なのか、と。思う
    ような声が断じる。
    「私は、自転車に乗れる。だから⋯⋯あなたが行けないなら、私が乗せて連れて行く。今日は、それを証明したかった」
    「…………」
    「あと、そうだな⋯⋯勉強も、あなたより得意だろう。分からないことは何でも訊けばいいし、あなたが望むなら、学年一位にもしてやれる」
    「⋯⋯いや、そう⋯⋯だな」
    「あなたには、私がいるんだ。獅子神」
     そう言った唇が、柔らかく綻ぶ。
     花が咲くような。初めて会った時、好きだと思った、あの表情。
    「⋯⋯うん。そう、だな」
     だから、頷いた。
     自分たちはまだまだこれからで⋯⋯先の保証なんて、何も無いけれど。
     力強く「私がいる」と断じてくれる、お前が今ここに居るなら。
    「⋯⋯オレ、自転車、練習しよっかな」
    「私の話を聞いていたのか?」
    「ん。だからさ、教えてくれよ。センパイ」
     笑いかけ。頬にそっとキスをする。
     仕方ないな⋯⋯と下がり気味の眉を寄せる横顔が、可愛い。
    「私は、厳しいぞ」
    「望むところだぜ。村雨センパイ」
     断言してみせる。
     朝日に照らされ、仕方ないな⋯⋯と苦笑してみせた顔を。一生忘れないと、獅子神は思った。

    ***
     
     余談だが。
     村雨の自転車を借りて練習した獅子神は、持ち
    前の運動神経の良さから一時間で乗りこなすようになり⋯⋯週末のサイクリングには、二人揃って参加することになったのだった。

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