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    imori_JB

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    imori_JB

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    これにて完結。
    雌獅子は受け入れ、そして三人は何時までも幸せに暮らしましたとさ。
    おしまい。

    #JB腐
    #女体化
    feminization
    #さめしし

    雌獅子は愛を抱く⑪「村雨さん、全治二ヶ月だって」
    「腹に二発貰った割には早い気がするな、その辺詳しくないけど。一番詳しい本人が入院してるけど」
    「それなりに出血してはいたが、銀行の手勢の到着が早かったからな。そもそもこの神がついていたのだから死ぬ事など無い」
    「……」
     声高に茶飲み話に興じる何時もの面々を前に、獅子神は溜息を吐いた。言うまでも無く彼等は獅子神に聞かせる為に此処獅子神邸でやっている。
     娘が攫われ、そして取り戻してから一週間。
     娘を庇い撃たれた村雨は、迅速に旧カラス銀行の関連病院に搬送されて緊急手術を受けたのだという。
     その容体が気にならない訳では無かったが、獅子神にとって最優先は娘の事だ。目立つ怪我は無かったものの数時間に渡って拘束され泣き続けていた娘は脱水と衰弱があり、念の為数日入院した。
     当然獅子神は娘に付き添っていたので、村雨については命に別状は無いと聞いて以降気にする余裕が無かったのだが。
    「それで、獅子神さんはお見舞いいつ行くの?」
     あたかもそれが当然の事であると言わんばかりの口調で真経津に問われ、いよいよ獅子神は閉口する。
     いや、分かってはいるのだ。村雨は獅子神の娘を庇い、重傷を負ったのである。
     見舞いの一度や二度は行くのが当然であると、理解はしている。だがしかし。
    「ボクらはさっき行って来たよ~」
     次は獅子神さんの番だよね? と見えない圧を掛けられているのが何ともはや、だ。別に行かない、行きたくない、という訳では無いのだ。ただもう少し、猶予があっても……。
    「いやそれ益々行きにくくなるから。早い方が良いって絶対」
    「人の思考を読むなっ!」
     しれっと言葉にしなかった部分を指摘され、獅子神は叶に向かって声を荒げた。
     真経津は足元で積み木を二段積んでは崩し、積んでは崩しを繰り返す幼子に向かって声を掛ける。
    「礼那ちゃんもパパに会いたいよね~?」
     真経津からの聞き慣れない単語にだろうか、娘は顔を上げて不思議そうに首を傾げた。
    「ぱー?」
    「おい止めろ、それは止めろ。蹴り出すぞ」
     何て事言いやがる、と顔を顰めて止めた獅子神はこわぁいと笑う教育に悪い人間達から引き離すように娘を抱き上げた。
     娘に村雨が父親だと認識させるのは余りに尚早であると獅子神は考えている。
     もしかしたら村雨の所に娘の異母弟妹が生まれるかもしれない事やら何やら考えていくと、少なくとも今は――。
    「あの必死な様子を見ても、まだ本気でそう思っているのか?」
    「……」
     今度は天堂だ。返答に窮して獅子神は黙り込む。
     本当は、流石にもう、理解している。理解してしまっている。
     黙り込んだ獅子神に、天堂がやれやれと呆れ混じりに続けた。
    「娘に感謝する事だ。流石に幼子の前で母親にその身をもって理解させる事は出来ないからな」
    「ユミピコの分からせって物騒なんだよな……字面だけならエロ漫画なのに」
    「ぶち殺すぞ黎明」
     途端始まる茶番のような小競り合いを聞き流しながら、積み木を持ったままの娘の顔を覗き込んだ。大きな丸い、紅い瞳が獅子神の顔を映し出している。
    「礼那。……お出掛けするか」
    「あいっ」

     *

     とある病院、最上階のドアの前で溜息を一つ。
     出来る事ならこのまま踵を返して帰ってしまいたい。
     しかしそれでは無駄足であるし、何よりも流石に人間として不味いだろう。
     このドアの向こう、この病院最高ランクの特別室である病室に居るのは、娘を庇って大怪我を負った人間だ。
     此処への道中、途中まで起きていた娘は昼寝の時間になり既に夢の中。良かったのやら悪かったのやら……。
     ……此処でそれを口実に逃げ帰った日には、待ち構えているであろう真経津達に何をチクチク言われるか分かったものでは無い。
     村雨さんカワイソー、と演技掛かった声で獅子神を非難する真経津の姿が脳裏に浮かび、緩く首を振って追い払った。うじうじと悩むのは性に合わない。
     ええいままよ、と半ばやけくそ気味にドアを開けば、中にいた男が驚いたように振り向いた。
     殆ど高級シティホテルの客室のような内装、言われなければ病室だとは気付けないような病室のベッドの上で半身を起こしているのは此処に運び込まれた村雨。
     その隣、ベッド際で一人掛けのソファに腰掛けている男は、……誰だろうか。獅子神は知らない人間だ。職場の同僚、賭場の関係以外の友人関係、その他。
     何にせよ先客がいるならば獅子神が取るべき態度は決まっている。
    「邪魔したな」
     出直しという名の逃走一択だ。
    「ししが」
     中から聞こえかけた自分の名を聞こえなかった振りをしてピシャリとドアを閉めた。早急に立ち去ろうと足の爪先の方向を変えた獅子神の耳に届いたのは、焦った声と何か物をひっくり返したかのような派手な物音だ。
    『ま、待て待て、待って!』
     ……気付かない振りをしたいのに。
     しかし娘に加えて荷物を持つ獅子神がどんなに急いだ所で、追われれば即座に捕まるだろう。眠る娘のベビーキャリーの背中を少しだけ強く抑える。慌ただしい音を背中で聞きながら、微かに走る緊張に肩が強張るのを感じていた。
    「獅子神さん、であってる?」
    「……ああ」
     獅子神は渋々、それはもう渋々振り向いた。
     歳の頃は三十代半ばから後半位か。村雨や獅子神より少し年上だろう。
     ――似ているか似ていないかで言えば、全く似ていない。
     獅子神はこの男を知らない。しかしこの男が村雨とどういう関係性の人間であるかは、察しがついた。
     職場の同僚よりも賭場の関係以外の友人関係よりも一番最初に考え付かなければならないのにそうならないのは、獅子神がそれと縁が薄いからだ。
     大病したという割には健康に見える男は予後が良かったのだろう。
    「村雨一希、礼二の兄だ。弟が何時も世話に……ええと……その、色々と迷惑も掛けてたみたいで……」
     にこやかな挨拶から段々と語尾が濁って行く。その様子と男の視線が獅子神と娘とを忙しなく行ったり来たりしている事に、内心獅子神は舌打ちをした。
     間違いなくこの男は、村雨の兄は事情を知っている。だが、何処まで知っているかが分からない。下手を打ちたくないと無言を貫けば、病室の中から重傷で臥せっているとは思えない程鋭い声が掛かる。
    「兄貴! 余計な事を言うな!」
     目の前に立つ男の肩越しに病室の中を覗き込むと、丁度腹を手で抑えながらベッドから降りようとしている村雨と目が合った。
    「降りて平気なのか」
    「え? ……あっ! 寝てなきゃダメだろ礼二!」
    「私は医者だ、自分の身体の事は自分が一番分かるに決まっているだろう」
    「じゃあ今ベッドから降りて大丈夫だと思ってるのか?」
    「……」
     兄に問い詰められた村雨はふいっ、と視線を逸らす。
    「ダメなんじゃん! もー、大人しくしてろって」
     慌ててベッド際に戻っていく村雨の兄の背中をぼんやり眺めつつ、娘が小さく唸ったので視線を落とした。どんな夢を見ているのだろう、小さな眉間に皺が寄り険しい表情をしている。皺が寄っている部分を軽くつつくと、ふにゃりと力が抜けたように穏やかな表情に戻った。
     ――怖い夢を見ているのでなければ良いのだが。
    「折角お見舞い来てくれたんだから、礼二と話してやってくれ。席は外しとく。礼二、また後でな。獅子神さん困らせるなよ!」
     朗らかな男は、村雨をベッドに戻し終えるとさっさと出て行ってしまう。
     村雨と二人、正しくは娘を入れて三人で取り残された病室に気まずい沈黙が落ちる。
     ドアの近くで立ち尽くす獅子神に村雨が声を掛けたのは、時計の秒針が一周してからだった。
    「獅子神、――傍に」
     動かずにいれば、村雨は腹の傷が開く事も構わずベッドから降りて近寄ってくるだろう。重傷を負った人間にそんな事はさせられない。
     応じて近寄り、ベッドの傍らに立った獅子神の胸に抱かれている娘へ村雨は手を伸ばす。
    「この子に怪我は無かったようだな」
    「ああ。脱水と衰弱はあったけど、もう大丈夫だと」
    「そうか」
     目を細めて娘の頬を撫でる村雨との間に、再び沈黙が落ちる。けれどそれは最初のような気まずいものではない、穏やかな静けさだ。
    「兄貴に仔細を黙っていてくれた事は感謝する」
     撫でる手を止めないまま謝意を伝える村雨に、獅子神は尋ねた。
    「お前の兄貴は何処まで知ってるんだ?」
    「銀行賭博の事については何も知らない。このまま墓まで持って行くつもりだ。今回の入院は腹に穴が空いたからと伝えているが、過労から来る胃潰瘍だと思わせてある。銃創だとは説明出来ない」
    「成程な」
    「――この子については、私の子だと知っている。私が伝えた」
    『私の子』。
     村雨の口から初めて聞いた単語に、案外平静を保てるもんだ、と獅子神は思う。
    「良い顔されなかったんじゃねぇの?」
    「……何故そう思う?」
    「御自慢の優秀な弟の子供を、何処の馬の骨かも分かんねぇ女が勝手に産んでたら身内としては嫌なもんだろ?」
     自分で口にしながら、獅子神は違うかと考えていた。少なくとも先程出て行った村雨の兄からは、獅子神の事も娘の事も厭っているような空気は一切感じなかった。
     案の定、村雨は眉間に皺を寄せて反論する。
    「私の兄はマヌケだがそういう類の人間ではない」
    「らしいな」
     きっと毛色の違う子供でも、可愛がってくれるのだろう。――姪として。
     両親の事は余り聞いた事が無いが、きっと上の息子に似た常識的で善良な人々だろう。どこぞの毒親とは大違いだ。
     羨ましい。素直にそう思う。
     獅子神の親ももう少しまともであったなら、少なくとも親であると公言出来る程度の人間であったなら、あの時選んだ道は変わるだろうか。
     羨ましかった。少しだけ夢を見た。
     村雨から聞いていた子供時代の話。頼れる父親、優しい母親、元気な兄。
     そしてその兄が大病を乗り越え築いた、何処に出しても恥ずかしくない幸せな家庭。例えその土台に兄の苦しみが詰まっていたとしても、その上で父親でもある村雨の兄は笑い、妻子と幸せに暮らしていたのだ。
     少しだけ夢を見ていた。あり得ないと笑ってしまうような、幸せな夢を。
     自分と村雨で、そんな家庭を築けたら――と。
     だけどそれが叶わない妄想である事も理解していた。
     何処まで行っても村雨も獅子神も、命の危険がある賭場に喜んで向かう異常者であったし、獅子神はそもそも真っ当な家庭の事など何も分かっていない。
     明日死ぬかもしれない相手と幸せな家庭など無理な話だ、唐突に親を失えば子供が犠牲になる。
     そもそもネジが一本か二本外れていなければ賭場になど出入りせず、きっと出会う機会も無かったのだ。
     後悔などしていない。何も。何一つ。これからだって。
     物思いに耽っていた獅子神は、娘の頬を撫でていた筈の村雨の手が、いつの間にか自分の手に重なっていた事に遅れて気付く。
     顔を上げれば、紅い瞳と視線が交わる。獅子神の最愛、娘と同じ色の瞳。
     距離が縮まり、触れる熱をされるがまま受け入れた獅子神は目を閉じた。
    「――傍に。あなたと、この子の、傍に」
     切に希う声が、耳の奥に柔らかく届いた。
     
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