ミスラとの日常1.
ミスラがオズにケンカをふっかけて、それで倒されて、私の部屋の窓を突き破り、ベットをつぶして転がった。
私は魔法使いたちの日々を賢者の書に書き留めている最中で、ペンを持ちノートに向かっていたところ、ミスラがとびこんできた。
オズは、遠慮がない。
ミスラが飛び込んだのが私の部屋だと気づいて、オズは姿を現す。
勢いよく飛び込んだミスラを迎え入れて寿命がつきた5代目のベット。ミスラはそのうえで体を起こそうとして、それから倒れ込んだ。
このシーン、どこかで見たことがあるなあ、と思ったら、思い出した。
あれだ、絶対的な強敵を前にヒーローが立ちあがろうとするシーン。
オズがそんなミスラを冷たい目で見下ろす。
私は机のしたに隠れた。傍観者になるには彼らの視界に入らないことが絶対だ。
4代目のベットが破壊したのはオーエンとミスラ。そのときに、私はやっぱり部屋にいて、巻き込まれた。ミスラと眠ろうとしたときに、襲撃されて私は人質にされたのだ。ミスラは徹夜3日目。オーエンはミスラに楽しみにしていたケーキを食べられた。
お互い譲れない戦いの末、怒り狂ったオーエンが私を殺す!と言い出したのだ。
「お前は学習できないのか」
「あなたこそ、いい加減死んでください」
全く噛み合ってない会話。オズが杖を掲げる。見通しが非常によくなった私の部屋に風が勢いよく舞い込む。いや、そんな生やさしいものねはなかった。小さな嵐がやってきた! そんな感じだ。私は手に汗を、握りながら2人を見つめる。
頑張れ! ミスラ!
なぜかミスラを応援したくなった。
きっと2人の関係性で考えると、ミスラがオズに一方的にケンカをふっかけて、オズの怒りを買ったのだろう。
でも先ほどのヒーローが強敵に立ち向かうシーンが脳裏にまだ残っていて、ミスラには言えないけど、私はやっぱり彼を応援したくなった。
オズが呪文を唱える。ミスラも同じタイミングで唱えた。
私の部屋は小さな嵐と迎え撃つ嵐でハリケーンが発生している。
これは、部屋の中身も飛んでいきかねない。
危険だ!
賢者の書だけ抱きしめて、私は机の下でガタガタと震えた。
呑気にミスラを応援している場合ではなあかもしれない。
こういう時のオズはいつもの穏やかな彼とは違い、私への配慮も環境への配慮もない。
アーサー、もしくは双子、フィガロがオズの名を呼んで初めて彼は振り返ってくれる。
オズのストッパーたちは現在みんな魔法舎の外。魔法舎にはミスラとオズ、それから東の魔法使いたちが確かいたはず。
ファウスト、どうか早く気づいて来てください。
祈りながら、突風に耐える。
ミスラがよろよろと立ち上がる。
オズは部屋の外に出ていた。ミスラはベットを背に立つ。
頑張れ、ミスラ。
やっぱり私は彼を応援したくなった。声に出さず、心のなかで。
幼い頃は、魔法少女のアニメより戦隊モノが好きだった。魔法が身近にある今は魔法少女のほうが好きかもしれない。
声にだしていないはずなのに、熱心に見ていたからか、ミスラが不意に私のほうをみた。ばちり、と視線が合う。
ミスラのエメラルドの瞳は私をしっかり捉えていた。
「アルシム」
背後の髑髏が大きくなり、口を開く。
「賢者っ!」
ファウストがようやく部屋に来た。遅いです! ファウスト!
もはや部屋ではない私の部屋。しっかり空が見える。開放的な空間。ファウストの顔が想像できた。
いいんです、オズに直してもらいますから。
部屋が壊れることには、もう慣れっこだ。
オズはきっとこのあと反省してくれる。もちろん、応援してはいるがミスラにもきっちり片付けてもらう。
ケンカもラストスパート。
いつもだと、最後に2人がとびきりの魔法をぶつけ合って、オズの勝利だ。
オズの姿は少し遠いが、彼は真っ直ぐにミスラを見つめている。きっとその眉間には深い皺が刻まれているだろう。
ミスラはどうだろう。楽しそうにしているのだろうか。それとも苛立っているのか。
ちょっと、気になった。
ファウストの声とそれからネロ、シノ、ヒースクリフの声がする。
オズはようやく私に気付いたといわんばかりに、わかりやすく目を大きく見開いた。
これはーー。
「アルシム」
ミスラの魔法。大きな扉が開く。ああ、いつもとは違う展開だ。それに私はちょっぴり安心した。今日はミスラがオズに負けるのを見たくなかった。
北の大地の音と匂いがした。ひょうひょうと吹雪く極寒の大地。
「賢者様、いきますよ」
「え?」
私の体がふわりと浮く。ミスラだ。彼がドアを開いたまま私の体は先に北の大地に。続いてミスラが入り、ドアは閉まる。
背後でファウストの私を呼ぶ声が聞こえた。
ああ、ごめんなさい。ファウスト! あとは頼みます!