白んだ空が僕の心を侵蝕する 曇天から降り注ぐ銀華が僕の頬に落ちて、肌に溶けて馴染む。止めどなく降り注ぐ銀華に紛れて消えてしまえたら良いのに、なんて冗談を呟いたら、君に思いっきり頬を叩かれた。乾いた音と共に振り子のように揺れる視界と思考が正解を君に求める。
ぽたり、溶けた銀華が熱を帯びた頬を慰めるように滑り落ちた。凍てついているだろうと思っていたのに意外にも温かくて、赤みを帯びた肌を撫でては滲んでゆく。じわじわと僕の脳が痛みを感知して、クリアになってゆく視界に君の泣き顔が映る。
「なん、で……」
ぐっ、と胸倉を掴まれて、息を乱す君との距離が近付いた。銀華で濡れた睫毛の陰で薄膜を張った双眼が揺らいで、解けてゆく。白に塗り潰された世界にぽってりと咲く紅色と、研ぎ澄まされた黒曜石が輪郭を取り戻して慟哭した。
「あなたが、それを問うの……ッ」
――決壊。
君の目尻から再び雫が流れ落ちて、濡れた頬に一筋の透明な線を描く。綺麗だ、と見惚れた。君が流す涙はどんな景色よりも美しく、僕の眼と心に焼き付いて離れなくなってしまった事に歓喜する。曇天、灰色、雪、白色――君の唇、緋色。
君が欲しがった正解はどれだった?
銀華が曇天から降り注ぎ、静寂が闊歩する。
ダラリ、と覆いかぶさる冷たい君を抱きしめて、嗤う。
「殺してって」
涙が流れ落ちた跡が残る頬に唇をそっと、寄せた。
「君が、僕に強請ったんだよ?」
人形のように冷たく硬くなってゆく君の躯が、不正解の僕を拒絶しているみたいで。
「死にたい、と乞うた僕に」
粛々と銀華は僕等の上に降り積もって、覆い隠してゆく。もう、冷ややかさは感じない。感じるのは、胸の痛みだけ。じくじく、と蝕んで広がってゆく痛みを子守唄に僕は、瞼を下ろした。
「君が居ない世界で生きていたくない僕に、君は」
――暗転。
「生きて」
なんて、残酷な枷を填めさせるの。僕に君の命を散らせたくせに。