生まれ変わった藤丸立香とシャルルマーニュとサンソンの話(微不穏)俺のじいちゃんはその昔カルデアというところのマスターだったらしい。俺が物心つく頃にはじいちゃんはこの世にもういなくて。その話を聞いたのは人伝でしかなくて、実感が湧かなかった。でもその話はとても一言で言えるものじゃなくて、じいちゃんがサーヴァントと守ってくれた過去があるから今があるんだって言うのはなんとなくだけど分かる。
そんな俺、実は容姿がじいちゃん譲りらしくて、名前までじいちゃんと一緒。写真で見たじいちゃんと俺の容姿は瓜二つで。なんて言うか妙な気分になる。だけどたったひとつだけじいちゃんと違うところがある。じいちゃんの目の色、深い海の色って聞いてたのに片目だけ水色なんだ。以前それを聞いたらじいちゃんの知り合い、マシュちゃんは「それは贈り物です、多分」なんて笑ってたけど、どこか浮かない表情で。
じいちゃんはこの世にはいない。でもお墓にもいないんだ。ある日突然この世を消えてしまったらしい。この世を去る前じいちゃんは「ごめん、さよなら」と言ったらしい。なにがゴメンなのか俺には分からない。ただ残ったのはじいちゃんが残してくれた今という名の未来と生き写しの俺。ただそれだけだ。
「またせましたね、リツカ。」
不意にかけられた声に頭をあげればそこには超絶美形が。シャルル=アンリ・サンソン。俺の知人だ。数日前コーヒー店の注文に手間取ってて助けたのがきっかけで知り合った。それからよくこうして会うようになったんだけど、未だに顔の良さに慣れない。顔がベビーフェイスだから俺と同い年かと思ったら5つほど上だった。しかも医者。ちなみに弁護士免許も持ってるらしい。天は二物を与えずと言うけどサンソンの場合は二物以上与えられてるような気がする。ま、いいけど。
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっとじいちゃんのこと思い出しててさ」
「ああ、前に言ったカルデアの…」
「そうそう。」
「なにか引っかかることでも?」
「じいちゃん、いなくなる前の日にさよなら、ごめんって言ったんだよ、なんでだろうなぁって。言葉の通りならわかるけど、なんか違う気がしてさ」
「…生き写しはやっぱり違いますね」
「なんか言った?」
「いえ」
周りがうるさくて聞き取れなかったサンソンの言葉。この時聞き取れていたら彼の異質さに俺は気づけていたのだろうか。たとえ気づけていたとしても俺に何ができたんだろうか。そういやじいちゃんの目の色とサンソンの目の色、片方だけだけど同じだ。こんな偶然、あるんだろうか。そういや昔読んだ漫画でこんな言葉があった。
『偶然は必然』
サンソンとご飯を食べてたらどこからか嫌な音が聞こえた。ものが壊れる音、人が叫ぶ声。そうしてみた景色は昔見た漫画のようで。
「あ、…、なんで…」
逃げなきゃ。見たことの無い化け物が人を襲ってる。どうにかしなきゃいけないのに。俺には何の力もない。なのに心はどうにかしろと言っていて。そんな時だった。視界を第三者の手によって覆われたのは。
「あちゃー、少し遅かったね、大丈夫。ちゃんとここは俺たちがどうにかするから」
「どうにかって、あなたも同じ人間じゃ…あ、サンソンは、サンソンを助けなきゃ!」
そう言って助けようとする俺を押さえている3人目は言う。
「マスターは生まれ変わってもそうなんだな」
「え??」
「まあ、いいけど。後でちゃんと事情は言うから」
それからしばらくして3人目のシャルルマーニュと名乗った彼と俺とサンソンはシャルルマーニュの家にいた。見ればわかるお高い調度品の数々。そうして告げられた事実は。
サンソンとシャルルマーニュが英霊であること。ちなみに普段は人として過ごしていること。そして俺がじいちゃんの生まれ変わりであること。確かに容姿は似てるけどそんなの言われたって受け止められないし、理解に苦しむというかこのふたりが見てるのは俺じゃなくてじいちゃんなわけで。
「俺、じいちゃんの代わりになんてなりませんから」
「代わりにする気は無いよ、君は君、マスターはマスター。大丈夫、ちゃんとわかってるから」
「ならどうして?」
「マスターが守った未来を守るためだよ?君はマスターが繋いだ希望だ。」
「だから、そんな言われても…俺には…」
そういう俺にシャルルマーニュは言う。
「縁は結ばれる縁とそうじゃない縁の二つがある。それとあともうひとつ。これはあまり知られてないんだけど、特別に教えてあげる、先生、よろしく」
そう言ってシャルルマーニュはサンソンに目配せをするとどこかに行ってしまった。
「何?もうひとつの縁って。」
そういう俺にサンソンは両手で俺の頬に触れ綺麗な笑顔でもうひとつの縁を教えてくれた。
「逃れられない縁だよ」