ビジパがにらめっこしたらシボ様が無惨様の顔の良さに耐えきれずに降参するまで何秒かかるか「黒死牟様、質問があります」
「どうした?」
獪岳に尋ねられ、パソコンで文書作成をしていた手を止めた。
「黒死牟様はどうして常時サングラスを着用しているのですか?」
「これか?」
昼夜問わず、場面も問わず、あの黒いサングラスを常に着用している。もはやサングラスも黒死牟の一部になっているが、何故あのサングラスを着けているのか。
「お前は何故だと考える」
「はい、まずは面を割れないようにする。あとは夜目に強くなる、攻撃を受けた際の目の保護……この辺りでしょうか?」
獪岳の予想をすべて聞いて「惜しいが、どれも違う」とあっさり答えた。
「やはり他人には教えられない理由がおありで?」
「お前の挙げた理由も、今となってはメリットの部類に入るだろう」
「では見た目的な要素ですか? サングラスを着けることで強面に見せたり、オシャレを意識して……とか」
「強面、という部分ではそうかもな。だが。それも正解ではない。宿題だ、考えておけ」
「解りました! 有難うございます」
礼をして立ち去る獪岳の後ろ姿を見て、黒死牟は悩んだ。
言えない。
とても言えない。
まさか、無惨の顔が眩しすぎて直視出来ないからサングラスを掛けているなんて。
思い返せば、知り合った当時のことだ。
ベッドでイチャイチャしていた時に、無惨はキスもしないのに顔を近付け、目を輝かせて優しく微笑みかけてくる。
無理……っ!
黒死牟は1秒もしないうちに両手で顔を隠す。
「おい、どうした?」
手をどけようと触れてくるので、思わず背中を向けた。
「無惨様のお顔が美しすぎて……」
「そうか?」
「はい……正に顔面国宝……驚異の顔面偏差値……美の暴力です……」
愛する黒死牟に褒められ、気を良くした無惨は背筋に指を滑らせ、耳に息を吹きかけた。
「では、私と賭けをしないか?」
「賭け、ですか?」
「あぁ……ルールは簡単だ。にらめっこをしよう。お前が5秒、耐えることが出来たら、お前の願いを何でも叶えてやろう」
ちゅっと頬にキスをされ、黒死牟は嬉しそうに目を輝かせる。
「但し、私が勝てば今夜は寝かさないからな」
「畏まりました」
黒死牟はベッドの上で正座し、両手で顔を隠してスタンバイした。その仕草が既に「愛い!」と無惨は心臓を押さえてキュンキュンしている。
「始めるぞ」
無惨が優しく黒死牟の手を退けた。
ゆっくりと目を開き、正面にある無惨の顔を見た瞬間だった。
無。
黒死牟が覚えているのは、それだけだ。
辺りが真っ白に消え去ったのだ。爆弾でも落ちたのかと思うほど一瞬で周囲を光で消し去った眩しい笑顔。美の暴力ではなく、これは美の大量破壊兵器だ。黒死牟はそう考えた。
目を開けたまま気を失った黒死牟を見て、無惨は「私の勝ちだな」と舌なめずりして黒死牟をシーツの海に沈め、そのまま朝まで盛り上がった。
以来、サングラス越しで、やっと無惨の顔が見られるレベルにまで成長したのだ。
「いいかげんに慣れたらどうだ」
獪岳との会話を聞いていた無惨が呆れたように言うが、黒死牟は「無理です」と即答する。
「私がサングラス無しで無惨様を見られるようになる時は、慣れたのではなく無惨様の美貌が衰えた時ですので、引き続き努力なさって下さい」
あまりに迫力に圧倒され、無惨は馴染みの美容クリニックにメンテナンスの予約を入れた。