無惨様が外部の人に自分達の関係を「ビジパ」って言う度に②ただの「ビジパ」なのにノリノリで… それは無惨にとって最上級の褒め言葉であった。
「黒死牟は何でも相談できる相手です。政策だけでなく、何を尋ねても答えてくれますしね。秘書というより、もっと対等な……そうですね、ビジネスパートナーと呼ぶのが一番相応しいかもしれません」
実際にそうであった。
無惨の性格上、ワンマンになりがちだが、黒死牟は完全なイエスマンではなく、止めるべき場面では、しっかり無惨を止め、皆が言いづらいことも伝えていた。衝突することも勿論あるが黒死牟の進言なら……と無惨も聞く耳を持っていた。
その答えを聞き、横にいた黒死牟は口許に笑みを浮かべる。
「光栄ですね、ビジネスパートナーだなんて……」
ゆっくりとサングラスを外すと、皆がその美しさに息を吞んだ。鬼舞辻無惨の美しさは語るまでもないが、その秘書まで美しいとは。長身でがっちりとした体つきなのに、どこか中性的な魅力を感じさせるのは、精悍な顔立ちだが男臭さを感じさせない、その美しさのせいだろう。その美しさのせいで、世間では真しやかに囁かれている噂がある。
二人は「そういう」間柄なのではないか、と。
黒死牟の耳にその噂は届いているのだろう。まるで真実を垣間見せるかのように視線をやや下に向けながら、そっと無惨の太股に手を置く。
「無惨様が失脚すれば私もたちまち路頭に迷います。ビジネスパートナーとはある意味運命共同体ですからね。私の運命は無惨様が握っているのです」
「そんな大袈裟な……お前なら私以外のところでも上手くやっていけるだろう」
無惨は苦笑いするが、黒死牟はゆっくりと無惨の太股を撫でる。その淫靡な手つきに人々の視線が釘付けとなる。
「仕事を介した協力関係など脆いものですよ。例えば共同経営者として二人三脚で頑張っても、些細なすれ違いで裏切り、仲違いするビジネスパートナーは沢山いますからね」
わざと無惨との距離を詰め、インタビュアーに向かってではなく無惨に視線を向けて話す。
「仕事だけの繋がりではなく、私たちは、もっと深いところで繋がっているんですよ。ね、無惨様?」
吐息交じりの掠れた囁きに無惨を含めた、その場にいた全員が頬を赤くする。
邪魔してはいけないと気を利かせた記者たちは荷物をまとめて退室した。黒死牟の指先が際どい位置まで動き、唇が触れ合うような距離で見つめ合う。しかし、黒死牟はぱっと立ち上がり「さぁ、仕事に戻りましょう」とサングラスを掛ける。
真しやかに囁かれている噂の内容を実は無惨も知っている。「そういう」間柄ではないか、ということを。
だからこそ「ビジネスパートナー」だと線引きをしたかったのに、黒死牟はその線を越えて「そういう」間柄になることを望んでいるのだろうか。
いい歳して年下の秘書に翻弄されるなんて情けないと思いながらも、背を向けた黒死牟の大きな背中を恨めしげに見つめた。