雪に降り籠められる二人(4月だと季節外れになってしまいますが。。) その日は4月だというのに、よく冷える日だった。
厚手のコートはクリーニングに出してしまったので、薄いコートだけを羽織っていた無惨はポケットに手を入れて、寒そうに肩を竦めている。
「今日は何度だ」
「一応10度くらいはあるようですが、体感気温はもっと低く感じますね」
黒死牟は普段と変わらない様子である。元々体温が高いので、これくらい寒い方が過ごしやすいと言っていて、寒がりの無惨を余計に震え上がらせた。
「予定がないなら帰りたい」
「そうですね、無惨様が風邪を引いても困りますし」
そう言って二人は自宅へと戻った。無惨はそのまま風呂へと直行し体を温めている間に黒死牟が晩酌の用意をする。ルーティン化した生活であり、出てきた無惨がソファに腰掛けると、今夜はウィスキー、レーズンバターとナッツ類、即席のポテトサラダを並べた。
無惨が気分良く晩酌を始めたが、黒死牟がふと外を見ると季節外れの雪が降り始めた。
「桜も散ったというのに雪が降るとは……」
窓ガラスの向こうの黒い空には白い雪が舞っている。ありえないことではないが滅多に起こることではない。不思議な気持ちで外を眺めていると、無惨が小さく笑う。
「人生はいつも思い通りではない、4月に雪が降ることだってあるさ」
無惨は手の中のグラスの氷をカラカラと鳴らしながらウィスキーを飲んでいる。
「思い通りにならない……」
「But sometimes, sometimes life ain't always the way」
引用したフレーズを歌い、無惨はソファをポンポンと叩いた。
「今夜は雪だから帰れないだろう? 泊まっていくと良い」
「そこまでの大雪では……」
そう答えたものの、黒死牟は自分がいかに無粋な発言をしているか気付き、思わず真っ赤になった。
「もっとストレートに誘った方が良かったか?」
「いえ……泊まっていきます」
ソファに腰掛けると、無惨はグラスをテーブルに置いて黒死牟の頬に触れた。今まで手の中でグラスを揺らしていたので、いつも以上に冷たい指先に驚いて、びくっと体を震わせた。
「お前でも寒さで震えることがあるのだな」
冷たかったはずの無惨の指に、黒死牟の頬の熱が伝って徐々に温かくなっていく。
「こんな寒い夜は抱き合って過ごすのが良いと思うが、お前はどう思う?」
長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳が黒死牟を妖しく誘う。
「私も同じ気持ちです……」
そっと無惨の唇が黒死牟の唇を塞ぐ。そうだ、今夜は寒いから、無惨は寒がりだから、口移しに無惨にウィスキーを飲まされて、もう運転もできないし……様々な言い訳を考えている間に、黒死牟の服は一枚一枚丁寧に脱がされていく。
裸で抱き合う頃には言い訳のネタも尽きてしまい、結局は予定外のことが起こるのが人生というものだと思いながら、熱を帯びた無惨の体にしがみ付いた。