花葉「雪ちゃん。ずっと気になってたんだけど…」
雪音「ああ。どうしたんだ?」
花葉「雪ちゃんってなんでそんな戦闘好きなの?」
雪音「…?それ以外にできることがないからだ」
花葉「え…?」
雪音「…俺は幼い頃から父に剣や魔法の技術を叩き込まれていた。だからそれしかできないんだ」
花葉「それだけって…雪ちゃん、頭もいいし…他にできることだって…できないこと上げる方が早いくらいじゃん」
雪音「うーん…他のことは…人並みくらいにはできると思うが…そこまで努力した記憶も、思い入れもないな」
花葉「えぇ…?あれで人並み…?なんか…基準高くね…?」
雪音「…だが紫音は幼い頃からピアノをやったり、絵を描いたり、戦闘以外のことにも沢山触れていた。というより…戦闘は避けていた、の方が近いかもしれないな。それこそ俺よりもはるかに頭もいい。…本当に多才だと思う」
花葉「しーちゃんはお父さんに稽古とかつけてもらったりは…?」
雪音「していなかった。俺は父と同じ太刀を選んだが、紫音は違う武器を選んだからな。それが紫音なりの抵抗だったのではないだろうか」
花葉「…しーちゃん、そんなにお父さんのこと嫌いだったんだ…」
雪音「どこで戦闘技術を学んだのかはわからないが、それでも大した戦闘力だと思う。魔法の技術だけなら俺よりも優れている」
花葉「雪ちゃんは…他のことはやりたいと思わなかったの?」
雪音「…当時は父の言うことが全て正しいと思っていた。だから父に言われたことしかやってこなかった」
花葉「…あのさ。雪ちゃん、ちっちゃいときはその…全然キャラ違かったじゃん?なんか…今と別人かと思うくらいすっごい明るくて。それもお父さんに言われて…?」
雪音「…ああ。父に、誰にでも好かれるような人間になれ…と言われていてな。ああいう…好青年のような振る舞いをしていた。そうすれば父は喜んでくれると思った。だが父がいなくなって…俺の指標とも言えた父がいなくなって…今まで俺のしてきたことは何だったのだろう、と思ってしまった。そしたら今まで他人にどう振る舞っていたのかも、どう笑いかけていたのかも、これからどうしたらいいのかも…何もかもわからなくなってしまった」
花葉「…」
雪音「…そんなときに紫音が手を差し伸べてくれたんだ。あいつが俺を救ってくれた。紫音は本当の俺を受け入れてくれたんだ。そこから本来の俺でいることが怖くなくなった」
花葉「…」
雪音「紫音はずっと父の言いなりにならずに、自分の意思を貫いていた。そしていろんなものに触れて、いろんな能力を開花させた。本当に…すごいやつだ」
花葉「…(でも基礎戦闘力見ると結果的には2人の能力ってそんな変わんないんだよなぁ…)」
雪音「花?どうした?」
花葉「あ、いや…でもさ、雪ちゃんもしーちゃんもほんとすごいよ。双子でSランクなんて」
雪音「俺たちは仮にもチームのリーダーだからな。そのくらいの力はないと他のメンバーに示しがつかないだろう」
花葉「…じゃあもし、雪ちゃんたちがSランクじゃなかったら何でも屋は…?」
雪音「そもそも何でも屋なんてやろうと思っていなかったんじゃないか?力がないのに他の者を救いたい、なんて考えるほど俺も現実を見ていないわけではない」
花葉「…そっか。なら雪ちゃんたちがSランクでよかったな。俺、今すげー楽しいし」
雪音「そうだな。俺も何でも屋ができて…このメンバーでいれることがすごく楽しい。ここにきてくれてありがとう、花」
花葉「ううん。礼を言うのは俺の方。なんか…やっと前に進めたって気がする」
雪音「ああ。花はここに来てからさらに成長していると思う。お前にとっていい影響になったようでよかった」
花葉「…へへ。でも俺、まだまだ強くなるよ。そのために梓白に色々教えてもらってるから」
雪音「ああ、俺もお前の成長を楽しみしている。梓白がそばにいるなら尚更な。…ところで花。ひとつ聞きたいのだが」
花葉「うん?」
雪音「…あの頃の俺は、お前たちにとってきちんと“好青年”に見えていただろうか」
花葉「ああ…うん。だけど…俺は今の雪ちゃんの方が好き」
雪音「あの頃の俺は何か足りていなかったか?」
花葉「あ、や…そういうわけじゃないけど。あん時はそのニコニコしてる雪ちゃんしか知らなかったからなんとも思ってなかったけど、今の雪ちゃん見るとこっちの方が自然だし、なんか…安心できるから好き…かな」
雪音「ふ、そうか。俺はこれからもずっとこの…本来の俺でいるつもりだ」
花葉「…俺さ、雪ちゃんは他にもできることあると思う」
雪音「…というと?」
花葉「うーん、なんか雪ちゃんに言葉かけられるとさ、なんか…上手く言えないけど他の人となんか違うんだよな…魔力がこもってそうというか…うーん…なんか他の人の心も動かせる…みたいな?」
雪音「ふふ」
花葉「な、なんだよ?」
雪音「その言葉、何でも屋ができた日に…梓白に言われたな、とふと思い出した」
花葉「え、梓白に…?」
雪音「ああ。なんだか本当に梓白に似てきたんじゃないか?」
花葉「そんな…俺はまだまだ梓白みたいにはなれない」
雪音「ふ、花らしいな。自分に厳しいのは兄に似たか」
花葉「う、うーん…兄貴と似てるかと言われるとそんなこともない気がするけど…俺あんなストイックじゃないし…」
雪音「だが俺の言葉に魔力がこもってるなんて…大袈裟だと思うが…」
花葉「だってあの兄貴が招待状受け取ったからって何でも屋入るなんて思わなかったし。なんか…雪ちゃんの言葉に動かされたんじゃないかなーって」
雪音「俺はお前たちにきっかけを与えただけだ。何でも屋に入ることを選んだのはお前たち自身だろう」
花葉「まぁそうなんだけど…。それに梓白だって自分で考えて動くタイプだけど雪ちゃんの言うことは割と素直に…聞いてる気がするし」
雪音「たしかに梓白は…どうして俺についてきてくれるんだろうな。俺は紫音と違ってリーダーとしては至らない部分も多いと思う。だが梓白も花依斗も俺見限らずについてきてくれている」
花葉「だからさ、その…雪ちゃんって言葉で人を変える力があると思う!って話!」
雪音「俺は自分で言うのもなんだがそこまで話すタイプではないと思うが…」
花葉「その少ない言葉で人の心が動かせちゃうんだよ。なんか雪ちゃんって神様っぽいし!」
雪音「か、神様…?」
花葉「そ。なんか神々しいオーラ出てる」
雪音「うーん…よくわからないな…」
花葉「あ、雪ちゃんあんま難しい顔すんなって。しーちゃんが心配しちゃうから」
雪音「…?」
花葉「雪ちゃんは笑ってるのが1番ってこと!はい笑って笑って!」
雪音「ふ…俺はお前の笑顔にいつも元気づけられているな」
花葉「そんないい顔して褒めんなよ。なんか照れるじゃん」
雪音「これからも俺にその笑顔を見せてくれ」
花葉「う、うわ〜…さらっとかっこいいこと言われた…」